85話 本当の気持ち
その後えりなは風呂から上がり髪を乾かした後俺と一緒にかなり遅めの夕飯を食べる。 なんていうか食べ辛い……
母さんと響紀が俺とえりなをジーッと見ているからだ。 そんなに見るなよ。 えりなも若干気不味そうにしてるじゃねぇか。
「他にも健斗の可愛いお友達がいるけどやっぱり健斗の本命はえりなちゃんかしら?」
「そんなわけないだろッ!」
「ひっどーい! お兄えりなさんの前で即否定するなんて最低!」
しまった、母さんが余計な事言うからつい…… えりなを見ると落ち込んでいる。 おい、嘘だろ? いつもみたいに仮面を被ってやり過ごせよ。
「健斗、えりなちゃんを落ち込ませちゃダメじゃない。 えりなちゃん、健斗は素直じゃないし恥ずかしがり屋だから今のは冗談よ? だから気にしないでね」
「え? あはは、大丈夫です」
「お兄は本当に失礼なんだから!」
そして夕飯を食べてえりなは片付けをすると言ってキッチンで洗い物をしていた。 そして響紀が急にこんな話題を出した。
「お兄、えりなさん泊まるんでしょ? どこで寝させるの?」
「え? どこってお前の部屋でいいんじゃない?」
「なぁんだ、お兄そこは常識あったんだね、偉い偉い!」
「お前俺をバカにしてるだろ?」
えりなの視線を感じるが面倒なので無視。 だけど母さん、なんで少し残念そうな顔してるんだ? 普通響紀と同じ反応だろうが。 父さんは我関せずを貫いてるし……
でもそんな家族の会話の中にえりなが居るなんて少し不思議だなと感じるのは今日こいつが家に泊まるからなんだろう。
ていうかよく俺そんな提案したなと今になると思う。 こんな奴が泊まっていくなんてちょっと前だったらごめんだったのに……
俺って流されやすいのかな? えりなと居ればえりなの方へ花蓮と居ればそっちへ沙耶と居ればと、やっぱり俺には3人同時になんて無理だな……
もういいや。 とりあえず今日はとっとと寝よう、そうすれば早く明日になってえりなも帰ってくれるし平和な休みが戻ってくれる。
「響紀、じゃあえりなの事頼んだぞ?」
「え? お兄もう寝るの?」
「今日は疲れたからさ、えりなも疲れてるとおもうからあんまりえりなに絡んで迷惑かけるなよ?」
「あらぁ〜、健斗優しいのねぇ」
おっと…… また母さんが余計な事言いそうなので俺は自分の部屋に行く事にした。
「あ! 健斗!」
えりなが急に俺を呼び止めた。
「なんだ?」
「あ、ううん。 やっぱりいい」
なんだそりゃ? 俺は部屋に着くなり直ぐに電気を消してベッドに入った。 そしてどれくらい経っただろう? 部屋のドアが開く音で目が覚めた。
「健斗起きてる? 」
えりなの声だった。 俺は面倒なので寝たフリをする事に決めた。するとえりなは俺のすぐ近くまで来ているような気がした。
「寝ちゃってるか。 まぁいいわ、起きてたら素直になれないかもしれないし…… 」
少しえりなは黙っていたけど喋り出した。
「今ね、健斗の匂いにずっと包まれているようでとても幸せ。 まぁ健斗の家だから当然か…… ていうかこんな形でしか言えなくてごめんね? 今日は本当にありがとうね、健斗が来てくれるなんて思ってもみなかったから私あの時凄く嬉しかったの。私ね、本当は失恋のショックだけで自殺しようとしたんじゃないの。 誰にも親にさえも愛されない自分が心底嫌になってあの時飛び降りようと思ったの。 でも飛び降りてすぐ後悔した、死ぬ気になればなんでも出来るんじゃないかって。やり直したいって…… そして健斗の事好きだって自覚した時から私は自分のお父さんお母さんに何されても何言われても耐えられるくらい強くなれたの。 健斗の事を想えばそんなの屁でもないもの。 健斗に会える、健斗とお喋り出来るってそんな事だけで私は満たされてたの。 だけど私って健斗を振り回してばかりだったから健斗はいい迷惑だったよね…… そこは悪かったって思ってる。 でも私はそんな事考えられなくなるくらい健斗を好きだったの」
えりなは今どんな表情でそんな事を言っているんだろう? 寝たフリをしているのでここまで来ると起きるに起きられない…… だけどこいつ本当にえりなだよな? そう思えるくらいえりなの口調はいつもの刺々しさが消えてとても穏やかなものだった。
それは花蓮よりも優しく聞こえそして純粋な気持ちに感じた。 寝たフリなんてした自分に後悔した。 ちゃんと話しを聞いてやればよかった。
「なんで今更こんな事いう気になったのかな? 自分が死んだ時に悔いがないようにとか思ってるのかな? わかんないけど私健斗が誰を選んでも恨んだりしないからそれで私が死んじゃったりしても健斗のせいじゃないよ? だから自分を責めないでね、私自分から健斗に迫っておいて何言ってるんだろうね? でも健斗に忘れられるのは嫌なんだ。責めないでって言ったり忘れないでって言ったりして勝手だよね? 健斗は優しいからきっと自分を責めちゃいそうだけど健斗なら乗り越えられるわ。 なんの根拠もないけどね」
そう言ってしばらく沈黙した後えりなは俺の頬に優しくキスをした。
やっぱり寝たフリなんて卑怯だ! えりな! そう思った瞬間にドアが閉まった。 えりなはもう出て行った。あいつ…… 勝手に喋って勝手に出て行きやがって。
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だけど俺はなんて答えてやればいいのかその時すら迷っていたんだ。
この時何か言えてれば何か変わったんだろうか? いや、それでも何も変わらなかったと思う。 あんな事が起こるのが早くなるか遅くなるかだけだ。 どっち道あの時はどうにも出来なかった。
「教科書やっと見つけたぁ」
「机の中めちゃくちゃなんだよ花蓮は……」
「あったからいいの! さぁ、行こっか? 健ちゃん、上野君、早く行かないと間に合わなくなっちゃうよぉー!」
俺は窓からの風景から花蓮と上野に視線を向けて2人の後を追った。




