83話 健斗
家に帰ると帰りが遅かった俺を最初に響紀が出迎えた。
「お帰りお兄。 もう! 何してたの? もうご飯食べちゃったのよ!? 用意するお母さんの身にもなりなさい! ていうか携帯見てなかったの? 連絡もしたのに!」
「悪い悪い、携帯見てなかったよ。 ちょっと散歩してたらこんな時間になっちまったんだ、俺も反省してます」
「てかクサッ! どこほっつき歩いてたのよ? 汗だくじゃない。 本当に世話の掛かるお兄だこと!」
そう言って響紀は走ってキッチンの方へ行った。
「お母さん! お兄物凄く汗臭いからご飯用意する前にお風呂入れた方がいいよー!」
「え? そうなの?」
デカデカとそんな声が聞こえた。 俺は溜め息を吐きながらリビングへ行くと母さんもやれやれといった感じだった。 だけど母さんはそんな俺に怪訝な顔をして近付いて俺の匂いを嗅いできた。
「んん? 汗臭いは汗臭いけどなんか女の子の匂いもするわねぇ。 さては健斗、えりなちゃんと今までくっついてたとか!?」
「え!? なわけないだろ!」
「お母さんは誤魔化せないわよぉ? 健斗だってもう高校2年生だしえりなちゃんにあんな事やこんな事したいのはわかるけどねぇ。 ああ、でもえりなちゃんだけじゃなくて花蓮ちゃんと沙耶ちゃんもいたわよね、こんなにモテちゃうの優の遺伝かしら?」
「奏、その話はやめなさい……」
父さんが自分の話題が出たので気不味そうに注意した。
母さんがニヤニヤしながら勝手な憶測を立て始める。 すると母さんの後ろの方に居た父さんが俺をチラッと見た。
「奏、響紀も居るんだし変な事言うなよ?」
「あら優、もう響紀だって大人みたいなものよ? それに健斗くらいの歳には私達……」
母さんが何か言う前に父さんはゲフンゲフンと大きく咳払いをして会話を逸らした。 いや、誰も自分の親のそんな話は聞きたくないぞ?
響紀は最近ませているから興味津々そうだけど……
「まぁいっか、健斗最初にお風呂入って来ちゃいなさい? いつまでも汗臭くしてるとえりなちゃんに嫌われちゃうわよ? あ、でも健斗のだったら喜んだりして? うふふ」
「母さんいい加減にしろ! 子供にそんな事言ってて恥ずかしくないのかよ?」
「あー、お兄照れてる、でもお兄があんな可愛い女子達にモテてるなんて響紀ショック」
「あら、響紀だって可愛いんだからそのうち男の子から引っ張りだこになるわよ?」
これ以上居てもからかわれるだけなので俺は足早に風呂に行った。 まったくどいつもこいつも……
風呂場へ行き体を洗って風呂に入る。はぁ〜、本当に今日はくたくただ。 明日が休みで良かった。
暑さのせいと3人の重圧に押しつぶされて俺はえりなの目の前で倒れてしまった。 心も体も限界だった、今は落ち着いたけど俺を好きだという3人の事と村上やえりなを突き飛ばした奴、それに頻りに嫌がらせをしてくる上野……
ハーレムで薔薇色の高校生活なんて嘘じゃねぇか。 天中殺なんじゃないのかと思ってしまう。
それにしても学校の身近で人を突き飛ばすような殺人未遂犯も過ごしているなんてな…… 俺が全ての元凶のような気もしてくる。
えりなも沙耶も花蓮も俺の事なんか好きにならなければもっと違った未来があったはずだ。 もしえりなが勘違いしないでそのまま上野の事をずっと好きだって思ってればまた違った結果になったかもしれない。
そうなると俺は誰と付き合っていたんだろう? 花蓮と付き合えたのか? それとも沙耶だったのか?
花蓮は前に言っていた。 俺の事がずっと気になっていたと…… そうなると今度は花蓮と沙耶とのバトルが始まっていたのだろうか?
どっちにしたって俺が引き金で争う所なんて嫌だな。結局今とあまり変わらないのかな?
もしなんて事を考えたって変わるわけではないので仕方がないか……
上野との仲が悪くなったのもあの3人に言い寄られているこの状況も運命なのかもしれない。
けどそう言って受け入れられるほど俺は強くないし…… 風呂に入ってリフレッシュするつもりが逆に1人になっていろんな考えが頭の中を駆け巡る。
それにしてもさっきのえりなおかしかったな。 あいつがおかしいのは今に始まった事じゃない。
なんて思ってると俺はハッとした。 あいつ俺の姿が見えなくなるまで見送りたいとか言ってたけどドアノブの所で回そうとして一瞬硬直したよな?
もしかして家に入れなかったんじゃないのか? あの親ならやりそうだ、えりなが帰ってくる前に鍵を掛けてそのまま放置とか……
だからドアを開けれずに俺にこれ以上余計な心配を掛けないように。 そう思った瞬間俺は急いで風呂から上がり着替え髪を乾かさずそのまま玄関の方へ向かった。
「あ、あれ!? お兄今からどこ行くの? ご飯は?」
「悪い! また散歩してくる!」
「え? あ! こらーッ!! お父さん、お母さん、お兄がまた散歩行くって!」
響紀の言葉を振り切り俺は携帯も持たずに玄関から飛び出していた。 俺の考え過ぎであってくれよ……




