82話 えりなの温もり
………… あれ? 辺りは真っ暗、俺どうしたんだっけ? それにしても暑い。頭痛もする。頭には柔らかい感触がある。
頭を動かすと少し湿った感触が顔に触れなんだこれ? と思って目を開ける。
「気がついた?」
「えりな…………?」
えりなの顔が目の前にあったのでビックリして反射で頭を上げてしまってえりなの鼻に俺の額がぶつかる。
「い、いひゃい…… な、何すんのよ!」
「あれ!? なんで?」
「バカ! 急に健斗が意識失ったんじゃない! いたたたッ、どうして私いつも痛い目に遭わなきゃいけないのよ」
えりなはそう言って涙目になり鼻を押さえていた。
「あ、そっか。 そういう事か…… お前ずっとここに居たのか?」
「健斗1人に出来ないでしょ? それに私1人じゃ運べないし多分熱中症か何かでしょ? はい、これ冷たい飲み物。 ただの水だけど」
「誰か呼べば良かっただろ?」
えりなからペットボトルを受け取りグイッと飲んだ。 冷たい水がスゥーッと体に染み込んでくる。 倒れる前から今も頭痛がしていたけどだんだんと収まっていくようだった。
「暑い?」
「ああ、暑いな」
えりなは冷たい方の手を俺の額に当てた。 冷んやりとしたえりなの手が今は気持ちいい。 もう大丈夫かなと思い遊具の中から出て帰ろうとするとまだフラッとする。
「だらしないわねぇ、ほら、捕まりなさいよ」
えりなに肩を借りて遊具から出ると夜の生暖かい風とえりなの冷たい体の感触が同時に触れる。 なんか風邪引きそう。
「はぁ〜、家が大分遠く感じるな」
「悪かったわね。 そういえば健斗最近何もなかった?」
「どう見ても何かありまくりだろうが」
「そうじゃなくて…… 危ない目にとか遭わなかった?」
危ない目ならあり過ぎて何が危ないのかよくわかんないんだけど? この状況も危ないと言えば危なそうだ。バッタリ花蓮に出くわすとかか?
「その様子だと特に大した事なかったようね? 安心した」
「なんだよ? 何が安心だよ」
「今日上野君をぶった後私ショックで上野君から逃げた時にね、階段から突き落とされそうになったの。 手すりを強く掴んでたから大丈夫だったけど…… でも誰がやったのかは分からなかったわ」
もしかしてそれって村上を階段から突き落とした奴と同じか? でも一体誰が? 何の為に? そんな事する奴ってまさか花蓮か沙耶? そんなはずないな、花蓮は俺とずっと一緒に居たし。
その場に居なかったのは沙耶…… でもあいつは職員室に呼ばれてたんだ。だけど用事がすぐ済んで第一俺が教室に戻った後沙耶は既に席に居た。
出来るとしたら沙耶だ。 でもあいつはいくらなんでもそんな事は…… しないとも言えない。
だけどそんなはずない、沙耶を疑いたくない。 あいつはえりなと喧嘩したけどそれは俺が絡んでいたから。 村上の事だったら関係あるかもしれないけど今回は上野に呼ばれたんだ。
沙耶にとっては上野はどうでもいいはず。 それに上野とえりながもしくっつけばライバルが減って沙耶には特だ。 だからえりなを突き落とすなんてのは考え難い。
「うーん、誰なんだろうなぁ…… 」
「私も考えたけどわからなかったわ。 だって健斗はその間花蓮ちゃんとラブラブしてたんでしょうしね!」
「そこを突っかかるなよ、ていうかお前そんな事されて怖くないのか?」
その話を最初にしておくべきだろうになんかついでのように言ってくるなんて順序おかしいだろ。
「どうせ落ちたって打ち所悪くなきゃ死なないでしょ? それに死んだとしても早いか遅いだけよ」
「いや、考え方おかしいだろ……」
「とりあえず誰がやったかはわかんないけどそのうちまた何かしてくるかもしれないしその時顔を拝んでやるわよ」
「それこそ危ないだろ」
本当に怖くないんだな…… えりなは自分のタイムリミットが近いと思って危ない事をあまり危ないと感じてないのは前からだったけど。
「心配してくれてるの? 健斗」
「逆にそんな話されて心配しない奴いるか?」
「健斗がそんな風に優しくしてくれて私が一喜一憂してるなんて健斗には気付かないでしょうね…… でもどんな最悪な状況なったとしても健斗が居るなら私は怖くない」
「…………」
俺は聞こえないフリをした。 今の俺には荷が重いんだよ。 どうにかなる方法だってあるはずだろ? だってまだ1ヶ月ちょいはあるんだから。
でもそれが目前まで迫ったら? えりなを死なせたくなくて俺が無理矢理えりなを選んでも結ばれたとカウントされるのか?
しばらく歩いてようやくえりなの家に差し掛かる。 えりなの家は明かりが点いていた。 えりなの親も帰っているのだろう。
「1人で大丈夫?」
「ああ、大分良くなったわ。ありがとな、 汗かき過ぎて気持ち悪いからとっとと風呂に入りたいくらいだ」
「そうね、私も同じ」
「えりなも汗でぐっしょりだから風呂に入った方いいぞ?」
「女の子によくそんな事言えるわね、デリカシーないの? まぁいいわ、健斗だし。 じゃあ気を付けて帰りなさいよ」
えりなはドアノブに触れたが少し動きが止まり俺の所へ戻ってきた。 どうしたんだ?
「ん? 他になんか用事か?」
「…… ううん、ただ健斗の姿が見えなくなるまでここで見送るわ。 さっさと行きなさい」
「え? 急になんだよ、おかしな奴だな、まぁいいわ。じゃあな、えりな」
「ええ、また明日。 って明日は土曜日だから休みか。 また来週」
そしてえりなは本当に俺の姿が見えなくなるまで家の外に立っていた。




