74話 落ち込むえりな
「えりな…… なんて言うか……」
俺はえりなになんて言ったらいいのかわからずに言葉に詰まる。 するとえりなの肩の上に置いていた俺の手にえりなの手が触れる。
「あはは、まぁそりゃあそうなるわよね、あんなの見たら……」
「なんか上手く言えないけど元気出せよ?」
何も良い事が言えない俺はそんなえりなにこんな軽薄な言葉しか出てこなかった。
「大丈夫よ、もう慣れてるもの。 それに元気なかったのは健斗の方だったじゃない? なんで私を励ましてるのよ」
「だってこのまま放っておく事も出来ないだろ?」
するとガチャッと玄関が開きえりなの母さんが出てきた。
「あんた達まだ居たの? 退きなさい」
そう言ってえりなの母さんはどこかへ行ってしまった。 出て行ったのを確認したえりなは俺を置いて家に入ろうとしたけど俺は一緒にえりなの家に入ってしまった。 何も考えずに……
「どうして入ったの?」
「あ…… だってお前が家に寄らない? って言ったからだろ、なのにいきなり帰った方がいいってなんだよ?」
「そうだったわね、ごめん。 飲み物とか持って行くから私の部屋に行ってて」
そしてえりなの部屋に行き少しするとえりながジュースとクッキーを持ってきた。
だけどえりなはやっぱり落ち込んでいるのかいつものような元気はない。 そして俺とえりなの間にも会話はない。 やっぱり帰ってた方がよかったかな? と思い始めた頃えりなが口を開いた。
「それ……」
「え?」
えりなは持ってきたクッキーを指差す。 これがどうかしたんだろうか?
「食べないの?」
「あ、じゃあいただきます」
クッキーをひとつ手に取り口に入れた。ほんのりと甘く食べやすい美味しいクッキーだった。
「食べちゃったわね、毒入りクッキー……」
「はあッ!?」
こいつなら本当にやりかねないかもしれない。 そう思った俺は今食べたクッキーを吐き出そうと口に指を入れて吐き出そうとした。 そんな俺をえりなはボーッとしながら見ていた。
「ごめん、嘘よ。 そんなの入ってないわ。 昨日それ私が健斗に食べさせたくて作ってみたの。 美味しかった?」
「嘘かよ! 心臓に悪いんだよ!」
「だからごめんなさいって。 やっと喋ってくれたね? 私健斗に嫌われたかと思っちゃったじゃない」
「いや、お前がかなり沈んでたからなんて言っていいかわかんなかったんだよ! それにお前の場合冗談がキツイんだ」
そう言ってまた会話が止まる。 なんか気不味い。 俺みたいな奴はえりなの気持ちなんてわからない。 何を言ってもさっきみたいな軽薄な言葉しか浮かばない。
何言えばいいか考えていてえりなをふと見るとえりなは体育座りで丸くなって顔を伏せていた。
いつもの偉そうで図々しい態度はどこ行ったんだよ? でもそれはひょっとしてえりななりの強がりだったのか?
「お母さんとお父さんは……」
えりなは顔を伏せたまま喋り出した。
「私の事が邪魔なの。 見た目だけで頭も大して良くないし。 2人の期待に応えられなかった出来損ないなんだって……」
「だったらなんで?」
「さぁ? わからないわ。 本当のお母さんやお父さんは私の記憶にはないし、今の両親しか知らない。施設に居た時に私を今の両親が私を引き取ったの。見た目麗しい私だったからその時は優秀そうにでも見えたんじゃない? だけど私は完璧な人間なんかじゃない、結局不良品だったのよ」
「だからって不良品だなんて事は……」
やっぱり上手い事言えない。 下手な事言うと返ってえりなを傷付けてしまうかもしれない。
「あの2人が私に何を望んでるかなんてもうどうでも良いの。 私なりに頑張ったけど私はダメみたい、だから私みたいな子供は消えた方が嬉しいのかもね。 このまま行けばそうなりそうだし……」
それは例の半年したらって奴か? もう半分を切っているしえりなにはそんなに時間は残されていない。 ますます俺なんかに構ってられないんじゃないか?
なんで俺なんかにそんなに拘るんだよ?
「健斗……」
「ん?」
「やっぱり…… ごめん、慰めて?」
俺は重たい空気をなんとかしたくてえりなの言葉に素直に応じた。 えりなの横に行き顔を伏せているえりなの頭に少し触れると少しビクッとえりなはしたがそのまま体を俺に預けるように寄り掛かってきた。
「私も…… 私も村上さんが言ってた事聞いてたんだ。 村上さんはざまぁみろって感じだけどあれ私にもわかるなぁ」
「あれ?」
「好きになるって理由が必要? って事。 私も屋上から健斗を見た時から何かこれには意味があるんじゃないかって言ったよね? それってつまりその時から私はもしかして健斗の事……」
ああ、確かにそんな事言ってたな。
「ねえ、話は変わるけどさ、さっき食べたクッキー美味しかった?」
「え? ああ。 美味しかったよ?」
そう言うとえりなは顔を上げて俺に涙交じりの笑顔で目一杯微笑んだ。 その笑顔は今までのえりなの笑顔で1番純粋な笑みを浮かべていた。 俺は一瞬そんなえりなにドキッとしてしまった。
「やった! 私健斗を好きになって後悔なんかしてないよ? 花蓮ちゃんや地味子に例え負けちゃっても…… 私健斗が美味しいって言ってくれるもの自分で作れた。 あんなに料理出来なかったのにそこだけは健斗に認められたような気がする」
「な、何もそんな大袈裟な……」
「そうね、これくらいで大袈裟よね! やっぱりそう思っても花蓮ちゃんや地味子には負けちゃうのは悔しいわ」
「そういう事じゃななくてさ」
えりなは俺に覆い被さって力一杯俺を抱きしめた。 だけど…… どうしろってんだ?




