68話 泳げない
「うわぁ〜、やっぱり人いっぱい居るね! こんなに居たらクラスの誰かも来てるかもしれないねぇ、カップルとか」
そう言って花蓮は俺の腕をギュッと掴んでニコッと笑う。
ああ、来てるんだよ…… しかも花蓮の大嫌いな連中が。 でも俺も花蓮と一緒に居るのをぶち壊しにされたくない。
「健ちゃんはどう思ってるかわからないけどこれはデートだからね! だから誰にも邪魔されたくないなぁ」
はぁ…… 花蓮は何かに勘付いてでもいるのだろうか? 俺は嫌な予感だけがどんどん積み重なっていく。
「ああ、そうだな。 これってデートだよな。 そう思うと誰にも邪魔されたくないな」
「そうよ、特にえりなちゃんとか来てたりしたら……」
そう言った花蓮の顔は見れない。 だって言葉に殺意の様なものが感じられるんだもん。 もしばったり会ってしまってえりなと沙耶が海で溺死…… なんて結末もありえなくない。
この前の感じだと本当にやりかねない。
俺は考えただけでゾワッとした。 だからばったり出くわしてもそんな行動を取らないように花蓮に釘を刺しておかなきゃ。
「花蓮、もしえりなとか来てたとしてばったり会っても俺は花蓮だけしか見ないよ? だから花蓮もそんな余計な連中に構わないで俺だけを見ていて欲しい。 俺をいつも喜ばせてくれる優しい花蓮でさ」
花蓮の顎をクイッと掴みそう言う。 平和に終わらせるためには今日は花蓮にだけ集中しないとダメだ。 それでえりなと沙耶を傷付けても後で慰めればいい。 どうせあいつら俺の事好きなんだから今花蓮に言ってるような事をあいつらにも言えばどうとでもなる。
ああ、どんどん自分が悪い人間になってきているなと心の中で思いながら赤面する花蓮に甘い言葉を吐きその場を取り繕う。
「本当…… 最近の健ちゃんワイルドで素敵! 」
「あはは、花蓮も素敵だよ」
そして俺と花蓮は水着になり海に入る。 白い水着になった花蓮は自分の体を自慢するように俺に見せ付けた。 前に自信あるって言ってた通り本当に完璧なプロポーションだ。 程良いバストと引き締まったウエストにスラリと伸びた脚、思わずゴクリとなる。
そんな俺のリアクションに花蓮は満足したのか海に入ろう? と言ってきた。 だがここで思わぬ落とし穴に嵌った。 そうだ、俺泳げないんだった……
今までどうやってえりなと沙耶、花蓮に自分の都合良く動かすかで必死になっていたので花蓮の海行こうにも、はいはい、海ね? じゃあえりなと沙耶に上手く言って何事もなしにするには? とかそんな事ばかりしか考えていなかった。
今実際海水に足を入れるまで泳げないという事をすっかり忘れていた俺は花蓮に引かれている手に力を入れて花蓮を止める。
「え? どうしたの健ちゃん、海入らないの?」
「…………」
「健ちゃん?」
硬直している俺を見て花蓮は不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「俺泳げなかったんだ」
「え?」
「花蓮と海行くのに浮かれててすっかり忘れてた」
「うそ……」
花蓮は俺から手を離しプルプルと震えている。 え? 何? もしかして何か変な事言ったか? いや、泳げないってわかってガッカリしたのか!?
「か、花蓮?」
花蓮の肩に恐る恐る手を掛ける。
「プッ、あはははッ!」
花蓮は腹に手を抱えて笑いだした。
「もう! 健ちゃんったら、普通忘れないよそんな事。 でも健ちゃんのそういう所も可愛い。 だったらさ、私が健ちゃんを溺れないように支えてあげるから一緒に行こう?」
「え、マジで?」
「大丈夫、私が居るから怖くないよ」
花蓮はそう言って再び俺の手を握るとゆっくりと俺と海に入る。 俺の方を向きながら花蓮は大丈夫だよと優しく俺に微笑み腰辺りまで海水に浸かる。
「ね? 平気でしょ?」
「ああ、でもここまでくらいならプールとかでも入ってるしな」
「じゃあもっと深くまで行ってみようか? 私泳ぐの得意だからさ」
「え!? あ…… 」
えりなが俺を片手で抱えて背泳ぎのような感じで沖の方へ進む。 まさかこのまま沈められたりしないよな…… と思いながらどんどん深くなっていく。 花蓮の胸が水着越しに当たるがまったくそれどころじゃない。
「あはは、なんか健ちゃんの命は私が握ってるみたいな感じでドキドキしちゃうねぇ」
「変な冗談やめてくれよ……」
この状況でそんな事言われてもまったく笑えない……
すると少し遠くの方へ見知った2人の姿を発見した。
あれは…… 間違いなくえりなと沙耶! えりなは俺が気付いたのでこちらに向かって手を振る。 バカ、やめろと俺も手で合図をしたがその瞬間花蓮の体から俺の体が離れてしまう。 しまったと思ってもがく。
「健ちゃん!」
花蓮が俺を捕まえるが俺は沈むまいともがくので安定しない。 そして花蓮の水着に思わず手が掛かる。
「健ちゃん、 暴れちゃダメ!」
「んんッ!?」
花蓮は俺の唇に深いキスをした。 なんでこのタイミング? と思ったが体の力が抜けたのかぷかりと沈む体が浮かんだ。
そして安心したように花蓮が俺を見ていた。 だけど片手で胸を隠していた。 え? 水着は?
「ふぅ、暴れん坊さんなんだから。 でも落ち着いてくれてよかった」
「あれ? 浮いた…… ごめん花蓮。 ん? か、花蓮、水着は?」
「…… 流されちゃった、どうしよう。 健ちゃんに見られる分は全く問題ないけど…… あはは」
花蓮は少し困ったような顔で俺に笑い掛けた。 ヤバ…… 俺のせいだ。




