6話 御社
あれから美咲に付き合う羽目になり俺と美咲は学校の奥の奥にある山中を歩いていた。 なんでこんな所を俺はこいつと歩いてるんだ? しかもなんだって言うんだここは……
「おい、こんな所に来るなんて聞いてないぞ俺!」
「だって言ってないもの、ぐちぐち言わないで歩きなさい!」
「どこまで行くんだよ!」
「おっかしいなぁ、確かこの道でいいと思ってたんだけど……」
え? 何その台詞。 わかってて来たんじゃねぇの? しかも美咲もどこだろう?といった感じで探るように歩いている。
日が暮れ始めもう空は夕焼け色に染まっている。 こんな所で道に迷って帰れなくなりましたなんてシャレになんねぇぞ?
だが美咲はどんどん山の奥の方へとあてもなく向かっていく。 こいつまさか迷ったフリして急に消えて俺を置いて行くつもりなんじゃねぇだろうな? こいつならやりかねん…… 俺は必死で美咲の後を追う。
「え〜、どこだろここ?」
「冗談だろ? マジでわかんねぇのかよ?」
すっかり辺りは暗くなり携帯を取り出してみるとまさかの圏外…… 終わった、こんな意味不明の奴とこんな暗い中2人きり、全然ロマンチックでもなければトキメキもない。
「なんでこんな所に来たんだよ!?」
「いちいち煩いわねぇ、足立君が信じてくれないから私の秘密教えてあげようとしたんじゃない!」
「この場所と秘密って何が関係あるんだよ!?」
「黙って歩きなさい、行くわよ!」
そしてどんどん進んでいくと急に雨が降って来た、そして雷も。 ああ、踏んだり蹴ったりだ。 雨は勢いを増し美咲と俺はびしょ濡れになる。 美咲を見ると濡れた制服が肌に吸い付き下着が丸見えだ。 違うシーンならとてもエロいのだが今はそれどころじゃない。
そして奥に進んでいくとボロい御社があった。 そしてとても古そうな石碑?みたいなものがある。 それを見つけると美咲がこれこれ!と笑顔で石碑をポンポンと触り俺に手招いた。
「これは?」
「これはね、大昔縁結びの神様のものらしいんだって! 私上野君と結ばれるように調べてここでお祈りしたの!」
さも当たり前のように笑って言う美咲に頭大丈夫かこいつ? という目を向けると「信じてないでしょ?」とムスッとした顔になった。
「ここの神様のお陰で私は生きてるってわけ!」
「精神科に行こうか美咲」
すると雷が御社付近の地面に落ち俺はその瞬間に意識がなくなった。走馬灯が見えた気がした。俺雷に打たれて感電死、近くに居た美咲も俺と一緒にパタリと倒れたのを見たような気がした。
ここはあの世だろうか? 鼻歌のような声が聞こえる。 だけど顔にポタポタと冷たい何かが落ちてくる感触がする。それに頭に柔らかい感触がする。枕のようななんだろう?
俺は目を開ける。
「ふんふんふんふんふーん♩」
するとそこには御社に座り目からハイライトが消えた美咲が俺に膝枕をして微笑みながら俺を覗き込んでいる。 雨に濡れ、微笑んではいるが無表情のようにも感じる彼女を見てゾクリと一気に恐怖感が溢れ慌てて美咲から離れた。
まるでホラー映画の世界に入り込んだかのような錯覚に陥る。美咲は立ち上がるとゆっくりと俺のもとへ歩き出した、濡れた髪の毛で表情が全く見えず更に俺の恐怖心を駆り立てる。
一歩歩くたびに俺は後退りするが追いつかれ尻餅をついている俺に美咲がしゃがみ込み髪の毛の間から瞳が見えた。
殺される! そう思った瞬間美咲は濡れた髪をかき上げた。
「どう!? ビックリした? 凄いでしょ? 死んだと思ったでしょ? 」
「へ? お前美咲?」
「何言ってんのよ? 私は私でしょ? 人を化け物でも見るような目で見ちゃって」
「え? あれ? でも……」
辺りを見渡すと降っていたと思った雨はいつの間にか止んでおり雷も止まっていた。 だけどびしょ濡れになっている俺と美咲を見るとさっき雷に打たれたはずと頭が混乱する。
「私にもよくわからないけどここが普通じゃないってわかったでしょ? それに私に膝枕されてたんだから少しはありがたがりなさいよ」
「あんなホラー演出でありがたいもくそもねぇだろ! おまけに泥だらけだし……」
「私だって足立君を上野君だと思い込んで必死に目を覚ますように看病してあげたのに失礼じゃない!」
「あんな事されたら誰でもビビると思うぞ?」
でも思った、仮にここが不思議だとしてもこれの何が秘密なんだ? 別にお祈りしたくらいで特にこれといった事なさそうだけど。
「で? これがお前の秘密と何が関係あるの?」
「へへーん、なんと私がね、ちょうど1000人目なんだって! ここでお祈りしたの。 まぁその時はそんなのわからなかったんだけどね」
「こんな大昔からありそうなとこなのに1000人目ってめちゃくちゃショボくね?」
「まぁそれはいいとして私上野君と花蓮ちゃんが付き合った時絶望したって言ったでしょ? それでもういいや、死のうと思ったんだ。 昨日屋上でね」
はぁ? 死のうとしてた? 昨日はバカじゃないの? と言わんばかりに否定してたくせに本当は死のうとしてたのか?
「フェンスに上ってね、足立君の姿が見えてこっちに来そうと思ってその前に飛び降りてやろうと思って飛び降りたらね、声が聞こえたの」
「大分スピリチュアルな話になってんだけど?」
「いいから聞きなさい! その時ね、ここの神様が私に話し掛けてきたの。なんでも記念の1000人目なのに願いを叶えてあげられなくて申し訳ないって事でもう一度チャンスをくれるって! 半年以内に私が好きな人と付き合えたら飛び降りた事をなかった事にしてやろうって。でももし無理だったらその日にそのまま戻ってしまって私は死んじゃうんだって。 本当は神通力で上野君と結ばせてあげたいけど私の死を延ばすだけで精一杯なんだって」
ほー、どこからどう突っ込んでいいやら…… もうここまで来ると突っ込む気にすらなれない。
「はい、これが私の秘密!」
「てかそんな秘密喋っていいの?」
「私の死を延ばすだけで精一杯なら他に何もしようがないでしょ? ポンコツ神様なのかしらね? だって肝心の上野君と結ばれないんだもの!」
「お前そうだったとしたらよくこの御社でそんな事言えるな……」
美咲はニッコリと微笑み御社の中に入って見ようか? と俺の手を引き強引に中に入った。 中は狭く畳二畳くらいのスペースしかない。そして中も空っぽだ。
「何にもないのねぇ、つまんないね」
「お前罰当たりだぞ?」
「いいじゃない? ここの神様と話したんだし顔パスよ。 それにその秘密を知るのは足立君だけだしね! 私が居れば問題なしでしょ」
意味のわからない理屈を並べて御社の中を物色するこいつは変な所で肝が据わっているなと思う。 そして美咲は飽きたのかもう帰ろうかという事になった。
「帰り道わかるのかよ? てか俺帰ったら怒られるだろうなお前のせいで!」
「美少女と2人きりで居たのに何その文句! なんなら一緒に謝ってあげましょうか?」
「余計ややこしくなりそうだから遠慮するね、てかお前こそ怒られないのかよ?」
「私は前もって友達と遊んで来るから遅くなるって言ってたもん」
行き先知ってたこいつにはそう言えても俺には知る由もなかったのでやっぱりこいつのせいだ。 そして行きは迷ったが帰りはすんなり帰れてそこだけはホッとした。