56話 戸惑いの花蓮
午後の授業が始まる頃……
「健ちゃん今日は日々野さんの家に行くんでしょ?」
「ん? ああ、そうだったな」
「私がついているから安心してね!」
花蓮はニッコリと俺に向かってそう言った。 そんな花蓮の後ろから上野がひょっこりと現れ花蓮に話し掛ける。
「花蓮、今日ちょっといいか?」
「上野君? ええっと、ダメ! 健ちゃんと約束あるし」
「こんな奴の約束なんてどうでもいいだろ?」
「こんな奴とはなんだよ? 花蓮に相手にされないからってひねくれ過ぎだろ、情けない奴」
俺からそんな言葉が飛び出た、もう友達もクソもない。 あの2人以外の面倒な奴の相手なんてしてられるか。
「健斗、てめぇ!」
「ああ? なんか文句あるのか? 文句あるなら言ってみろよ、それとも実力行使で来るか? ほら、なんかしてみろよ?」
「2人ともここ教室だよ? やめた方いいよ」
花蓮の言葉で上野はハッとして辺りを見渡す。 みんなが何事かとこちらに視線を向けていた。 そしてバツが悪そうに上野は自分の席へと戻って行った。 バカな奴だな……
「もうビックリしちゃうよ、特に健ちゃんに。 そんな健ちゃんもいいけどね」
「まぁ花蓮のお陰で何事もなく済んだよ、ありがとな」
「褒めて褒めて! 健ちゃんに褒められるとなんだかやる気出ちゃうなぁ」
こうして今日の授業も終わり放課後沙耶の家に向かう。 花蓮は沙耶の家へ行く最中こちらをチラチラと見ていた。
「なんだ?」
「ほえッ!? な、なんか今日の健ちゃんって堂々としてて凄くカッコいいなって…… なんか惚れ直しちゃった、あはは」
「そうか? 俺的にはあまり変わった気はしないけど」
だけど花蓮ならいくら好きになってもらっても構わない、いや、もっと好きになってもらいたい。俺は花蓮の肩に手を回し引き寄せた。
「わわッ! け、健ちゃん」
「ごめん、なんか花蓮とくっつきたくなった」
「わ、私はいつもそう思ってるよ。 でも健ちゃんからそう言ってくれるなんて嬉しい、ていうかやっぱり今日の健ちゃん…… 素敵」
花蓮はいつもは俺をよく見てくるが今日はどこか遠慮しがちというかチラチラとしか目を合わせない。 俺がこんなんだからか? でも反応は悪くなさそうだし。
まぁいいや、もう沙耶の家だし。 俺は花蓮をパッと離し一定の距離を取る。
「あッ…… 」
離れると花蓮は少し寂しそうにしていたが沙耶の家の近くだとえりなみたいに沙耶にも見られているかもしれないから注意が必要だ。
そして家の前に行きインターホンを鳴らそうと思ったらそれより早く沙耶が玄関から出てきた。
「け、健斗君…… 会いたかった」
沙耶は俺の顔を見た途端にハグをしてきた。そんな沙耶の頭を優しく撫でてやると沙耶は満足そうにえへへと無邪気に笑う。 そんな様子を少し難しい顔で花蓮は見ていた。
「オボン! 日々野さん、ここ玄関だよ? さっさと部屋の中に行かない?」
「あ…… そうだった、健斗君行こう。 新月さんも来るの……かな?」
「当たり前じゃん? 日々野さんと2人きりなんてある意味最も危険そうだし」
「まぁ花蓮もそう言ってる事だし部屋に行こうか?」
花蓮は今日は嫌に心配そうにしているけど沙耶はいつもの沙耶だし心配ないだろう。 あ、いや、沙耶のこの状態が1番危険か……
沙耶の部屋に入ると相変わらず足の踏み場もない程物が散乱していた。
「飲み物持ってくるね健斗君」
そう言い沙耶は部屋から出て行く。 お見舞いというよりこのままじゃアレなので俺は沙耶の部屋を少し片付けようかなと思った。 女の子の部屋だけど花蓮もいるしな。
「花蓮、少しこの部屋片付けないか?」
「そうだね、その方いいかもって私も思ってた、それに片付けしてれば変な気も起こしそうにないし…… いや、そんな事もないかも…… まぁどっちにしてもやった方がいいよねこの部屋は」
すると飲み物を持ってきた沙耶が部屋に戻ってきた。
「な、何してるの健斗君?」
「沙耶、少しこの部屋片付けないか?」
「え? …… 健斗君も手伝ってくれるの?」
「当たり前だろ?」
そう言うとパァッと沙耶の顔が明るくなり共同作業とボソボソと言い出し片付けが始まった。 そして片付けて少しすると……
「あれれぇ? なんか怖い物見つけちゃったぁ、てかいつの間に」
花蓮が写真のような物を見ていた。 俺も気になって見てみるとそこにはこの前えりなと花蓮が一緒に沙耶の家にお見舞いした時らしき2人の写真が…… だがえりなと花蓮の顔はズタズタに引き裂かれており無残だった。 どんだけ敵対心むき出しにしてるんだ? と沙耶を見ると……
「け、健斗君の為に頑張ったらそうなった」
「そ、そうなのか……」
よくわからない沙耶の超理論は置いといて出るわ出るわのえりなと花蓮への呪いの品が…… ワラ人形に括り付けられているえりなと花蓮の顔写真。 俺はゾッとして見てたが花蓮は……
「よく出来てるねぇ、あはははッ!」
自分の写真が付けられたワラ人形を持ってケラケラと笑っている。 自分がやられているのに他人事のように笑っている花蓮もなかなか図太い。
そして更に片付けを進めて行くと沙耶がいきなり後ろから俺を押し倒した。 なんなんだ? と思い横を見るとすぐ目の前に沙耶の顔があった。 見る見るうちに茹でタコのように沙耶は赤くなっていく。
「健ちゃん、日々野さん」
花蓮の声が聞こえその方向へ目をやると花蓮の瞳が深く沈んでいた。 それはまるでえりなと同じような威圧感を感じさせるドス黒い雰囲気だった。 俺がそんな花蓮に圧倒されていると沙耶が俺の視界に割り込んできた。
「け、健斗君大丈夫? 重くなかった、じゃなくて痛くなかった?」
「え? ああ、沙耶こそ大丈夫か?」
「うん、健斗君のお陰で……」
沙耶は起き上がり俺も立ち上がる。 そして花蓮を見ると……
「ん? どうかした? 健ちゃん」
いつもの花蓮だ、俺の勘違いだったかな? その後は大部分掃除でその日は比較的平和に終わる。
「特に大した事なくて良かったね健ちゃん、あれ? でももしかして大した事なくて残念とか思ってる?」
「そんな事ないさ、平和なのが1番だ」
俺はそう言って花蓮の頭にポンと手を置き撫でる。
「ど、どうしよう、私……」
「ん?」
「え? な、なんでもないよ、あはは。 もっと撫でて!」
そして明日は土曜なのでようやく休める。 花蓮と休みはどこかへ行こうかと俺は考えていた。




