55話 変化
次の日覚束ない足取りで学校に向かう。 俺は花蓮が好きだと自覚したお陰でほんの少しは心の負担が幾ばくかは楽になったと思っていた。 そんな事でえりなや沙耶からの執念は消える事はないというのに……
そして厄介な事に花蓮を好きだとわかってからも俺はえりなと沙耶の事も今だに吹っ切れていない事も昨日わかった。
えりなと沙耶はまだ学校に来れないからいいとして花蓮にどんな顔で会えばいいんだ? えりなの言う通り俺は三股野郎だ、もう俺の人生はここがピークなんだと言わんばかりに3人の美少女達から迫られる。
気が強そうで取っ付きにくそうだけど綺麗な長い黒髪にとても綺麗な顔立ちをしているえりな、反対にショートカットでえりなと同じく整った可愛らしい顔で誰にでも明るく笑顔で振る舞う花蓮、そして緩い雰囲気でおっとりしてて気弱そうだけど実は可愛さを隠していた沙耶。
ここだけ言えば羨ましがられると思うけどえりなと沙耶は秘めたる内の性格が最早可愛いを通り越している。 花蓮の事はまだよくわかってはいないけどえりなと沙耶程は俺に激しい脅迫めいた事はしてきていない。
そんな花蓮は俺にとって唯一の心の拠り所みたいに思っている。 えりなの話によればそんなの嘘と言うが私情も入っているかもしれないし俺だってそんな心地良い優しさをくれる花蓮に甘えたい、そんな気持ちはある。
えりなの家を通り掛かると今日のえりなは俺を見てパッと隠れる。 なんだあいつの態度?
そして学校に着き教室に入ると上野の視線が俺を捉える。 上野はまだ俺を許せないようだ。 当たり前か、上野との友達関係はもう修復不可能だなと心の中で苦笑する。 だけど悪い上野、俺はもう花蓮を手放したくない。
そう思ってしまう、花蓮をもう一度お前に取られるくらいならこいつとの友達関係なんて…… って俺は何を思っているんだ? どっちかっていうと上野は被害者だ、なのにどうして俺は……
そうか、上野の態度に俺もイラッと来てるんだ。 俺のせいでもあるのに俺だって自分勝手かもしれない。 でも俺はもう上野の気持ちなんか考えるのが面倒になっていた。 いや、最初から面倒に感じていたのかもしれない。
上野から花蓮の別れ話を聞いた時から俺はえりなや沙耶の事で頭がいっぱいだった。 その上他の奴の気持ちなんて……
そして俺がした行動は事もあろうに睨んでくる上野に舌打ちをした。 そしてそんな様子を見ていた花蓮が俺に駆け寄ってきた。
「健ちゃんどうしたの? 今日は機嫌が悪いね?」
花蓮の顔を見ると昨日花蓮とキスをした事とえりなにキスをした事を思い出す。
「ああ、上野が流石にウザく感じてきてさ。 いい加減疲れるよ」
「健ちゃんでもそんな事あるんだね? だったら私が健ちゃんに元気をあげるよ、行こう? 屋上に」
「え? 屋上は俺とえりなを思い出すから嫌なんじゃ?」
「ふふッ、もういいんだよ」
そう言って花蓮は俺の手を取り屋上へ向かった。 俺の手を引き俺に時折振り返り笑い掛けながら花蓮は俺と速足で向かう。
ガチャッと屋上のドアが開くと心地いい風が俺を包み込む。 ああ、なんか久し振りだな。 俺は花蓮に甘えよう、えりなも沙耶も誰も見ていないんだ。 自己申告だもんな、だったら俺だって……
「花蓮元気をくれるんだろう? 俺を抱きしめてくれないか?」
「健…… ちゃん? 」
昨日までの様子と少し違う俺の態度に一瞬花蓮は戸惑ったように見えたけど花蓮はすぐに微笑み俺を優しく包む。
こういう事だろ? えりな、俺花蓮を上手く誤魔化せてるかな?
「健ちゃん少し雰囲気変わったみたい。 だけど私を求めてくれる健ちゃんならそれでいい、私がいっぱい愛してあげるからね? だから私の事もいっぱい好きになって? 」
そう言って花蓮は俺の口に自分の口を重ねる。 俺は昨日えりなにしたように花蓮の口の中に舌を這わせ花蓮を押し倒し更に花蓮にキスをする。
「んんッ、健ちゃん……」
「花蓮……」
そしてHRを告げるチャイムが鳴る。 仕方なく花蓮から唇を離す。 花蓮は屋上の床に倒れたまま唇を押さえてポケ〜ッとしていた。
「花蓮?」
「え? ああ、ごめんね。 健ちゃんのキスが上手くてボーッとしてた、私もっと健ちゃんに夢中になっちゃいそう」
「花蓮だからだよ……」
「えへへッ」
俺は花蓮を優しく起こし少し乱れた制服を整えた。
「教室に戻ろうか健ちゃん」
「ああ」
HRに少し遅れて花蓮と一緒に教室に戻るとみんなの視線が俺と花蓮に集まる。 先生は「何してるの? 早く席に着きなさい」と言われみんなの視線を感じるが全く気にせず席に着いた。
なんだ、簡単な事じゃないか。 俺はその時ああだこうだと考えるのをやめていた。




