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54話 裏切りの味


えりなは自分の血を味わえと言わんばかりに舌を使って俺の口の中へ侵入してくる。 その俺への執念は好きと言うよりも俺にとっては脅迫めいたものを感じさせるには十分だった。 だけどそんな俺もえりなを突き放せなかったせいでこうなったのかも……



えりなにされるがままにされながら俺は考える。 俺ってやっぱりえりなの言う通りえりなの事も気になって花蓮の事も気になって沙耶の事もそうなのかもしれない。



そしてえりな以外の2人も俺が3人とも気があるように見えてあっちに行ったりこっちに行ったりの三股野郎に見えてたりするのかも。



俺は花蓮が好きで答えを出したつもりだが相変わらず2人に接しようとしている辺りどの道こうなったのかな?



ようやくえりなは俺の唇から離れ恍惚とした中にも獲物を見つめるような表情で俺に微笑み自分の唇に付いた血を舐めとるように舌で唇をなぞる。



「こんな事花蓮ちゃんや地味子には言えないわね健斗」

「わかっててやってるくせによく言うよ」

「とりあえずやっぱり健斗は私に気があるってわかったからまぁいいわ、後は……」



えりなは俺のTシャツを掴んで脱がそうとする。 今度は何する気だよ!? 俺は服を押さえてえりなから離れる。



「なんだよ!?」

「なんだよ? そんなの決まってるわ、花蓮ちゃんや地味子に先を越されないように健斗の初めてを奪うに決まってるじゃない?」

「は、初めてって……キスは……」

「私の初めてのキスは健斗よ? でも健斗の初めてのキスは私じゃないよね?」



えりなは自分から逃げようとする俺をじわじわと威圧しながら追い詰める。



「だっていきなり不意をつかれるようにやられたら躱しようがないだろ!」

「やっぱり……」

「え?」

「やっぱり健斗は私が初めてのキスじゃなかったのね? もしかしたらと思ったけどいつの間にか花蓮ちゃんに奪われていたんだ? だったら他の初めてもいつの間にか私に奪われていても問題ないし健斗は知らんぷりしてればいいだけ。 大丈夫、私と一緒に花蓮ちゃんを騙そう? 花蓮ちゃんがそうしたように今度は花蓮ちゃんと地味子がピエロになればいいのよ。 ねえ健斗?」



えりなは俺が脱がないならと自ら服を脱ぎ始めようと服に手を掛けるが流石に隣の部屋に響紀だって居るし情けない話俺は全然そんな気分になれないので慌ててえりなの脱ごうとしている手を抑える。



「健斗、何もなかったって思えばいいのよ? そうすれば花蓮ちゃんの前だって自然にいられる。 私とキスをした事も私と2人きりになった時だけ思い出せばいいしこれからしようとしている事も私と2人きりの時だけにね?」

「そんなんで…… えりなは満足なのかよ?」

「じゃあ逆に聞くけど健斗だって今のまんまで満足なのかしら? 私や花蓮ちゃんや地味子にまで3人3色の隠し事が出来ようとしているのよ? いや、出来てるわよね? 少なくとも花蓮ちゃんとは」



えりなの言う事もわかるけど…… このままじゃ俺は3人に挟まれて精神崩壊しそうだ。もし俺がえりなとそんな事になったら花蓮は許してくれるだろうか? 沙耶なんか思い切り取り乱すだろうな……



「お友達なんか言ってるけど花蓮ちゃんにはそんなつもり最初からないのよ? 花蓮ちゃんは健斗が欲しいだけ。 地味子だってそう。 私達は健斗っていう繋がりがあるだけで本当だったら友達でも何でもないのよ? まぁ今だってそうか」

「だってお前と花蓮は1年の頃友達だったんだろ?」

「そんなの…… 花蓮ちゃんの気まぐれよ。 私もあの頃は花蓮ちゃんには歩み寄ろうなんてしなかったしぶっちゃけ友達だって付き纏われてウザかった。 それに私は花蓮ちゃんが怖い。 泣いて謝る私を容赦なくボコボコにしたのよ? そんな花蓮ちゃんを友達だと思える?」




そこまでする花蓮が俺には想像つかないが逆にえりなが花蓮をそこまで怒らせたんじゃないのか? どっちにしても俺にはこいつらの昔の事なんてわからないし考えたって仕方ないけど。



「もう花蓮ちゃんの事なんかどうでもいいでしょ? それより健斗私を見てよ」

「えりな…… 俺そんな簡単に割り切れないよ。3人の事だってそうだ、なのにこんな大事な事をヤケになってするもんじゃないよ」

「私はヤケなんか起こしてないわ。 健斗がハッキリしないだけ、だから誰かに奪われる前に私が奪うの」



ダメだ…… えりなは何かスイッチが入ってしまっている。 今だって響紀にキスされた所を見られたばかりなのに。 それ以前にえりなは響紀の目なんか気にしてない。 逆にワザと見させていたような気もする。



「今日暑いからさ、今俺汗かいてて凄く臭いんだ……」

「健斗を臭いだなんて思った事ないわよ。 知ってる? 相手をいい匂いだと感じるならその人とは相性がいいそうよ? 私は健斗と相性がいいみたい。 汗臭い? だったら嗅がせてごらん?」



何を言っても今のえりなには逆効果な気がしてきた…… 全てを自分への肯定に変換している。 だったら何もしなくても俺がえりなの事好きだと思っててくれ。 なんて都合良すぎか、それこそ浮気状態だ。 でもこの場を収めるには……



「えりな!」

「何よ? 」



俺はえりなに近付いてえりなの首の傷跡に口を這わせた。



「あ…… 健斗…… 自分からしてくれるのね? 」



えりなは俺に体を預ける。 そして俺はえりなの唇にえりなが先程したようにえりなの口の中に舌を入れ長い時間キスをした。



すっかりとえりなはトロンとした表情になりガクッと体の力が抜けたようだ。



「えりな、今日はここまでだ」

「え? 」

「だからここまでだ」

「な、なんでよ! 私もう健斗を受け入れる準備は出来てるのよ!?」



えりなは如何にも不満だという態度を取る。 だから俺はもう一度えりなの口を自分の口で塞いだ。



えりなはもがこうとするが俺がガッチリと抑え付けているので動けない。



「こ、こんな事で…… んんッ…… 誤魔化されない……」



だけどえりなにとっては俺からしてくれるというのが余程効果があるのか次第に静かになっていく。 そして口を離すと……



「はうぅッ……」



そのままえりなは先程より紅潮してガクッと床に膝を落とす。



「な? これからこうするから…… 今日はこれくらいでいいだろ?」

「ふぇ? は、はい…… 」



その後えりなは大人しく、というより少しボーッとした感じで帰っていってくれた。



だが俺は花蓮や沙耶にこんな事は言えない…… えりなの言う通りなかった事に出来るのだろうか?



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