38話 花蓮
「あいつ意味わかんねぇよ。 なんで?って聞いても答えてくれないし」
それは俺の為を思って言わないのだろうか? だけどあいつがそんな奴か? それならそもそもえりなの嫌がらせの為に上野と付き合ったりなんかしないしな。 それに上野と別れたからって俺と付き合えるかというとそうでもない。 だって俺上野の友達だし大っぴらに彼氏だなんて言えないはずだ。
あくまで普通の神経なら。 だけどえりなや沙耶、そして新月はいろいろぶっ飛んでるからな……
「とりあえず元気出せよ? 他にいい子居るって」
とても浅い慰め方なのは俺は上野に対して罪悪感を感じているからだ。 だって友達の彼女が実は俺を好きでしたなんて言えるかよ……
その後俺は新月を警戒した。 だけど昨日の新月はとても優しくてなんでも受け止めてくれそうな心地いい包容力を感じだ。 そして俺は矛盾に気付く。
新月の奴チラッとこちらを見るだけで何も話してこない…… 上野と別れてすぐはあいつもやっぱり動き辛いか? ていうか俺はそれだったら逆にラッキーなのに新月が話し掛けてこないと物足りなさを感じているんだ?
これじゃ新月に構ってもらいたいみたいじゃないか? あいつは上野を騙してた奴だ、ろくな奴じゃない。 だけどそれは上野の事は好きではなかったから。 本当に好きだと言っていた俺にはとても優しかったじゃないか。
でも優しいなら沙耶だってそうだったはずだ。 でも沙耶の場合はその優しさが遥か斜め下の方向に突き進んだから俺は怖いと感じた。
だが新月は俺が本当に求めていたような心地いい優しさを提供してくれる。 それで俺は新月の事をそんなに気にしているのか? だったら俺も自分勝手な最低な奴じゃないか……
結局新月は昼の時間も俺の所へは来なかった。 傷心の上野と一緒に弁当を食べていたからか? でも俺は今か今かと新月が来るのを警戒? いや、期待しているようで上野と一緒に居るのすら気不味かった。
放課後になり帰ろうと教室を出て昇降口へと向かう最中いきなり角から新月が飛び出してきた。
「待ってたよ、健ちゃん」
「新月……」
「花蓮でしょう? このやり取り何回すれば健ちゃんに呼んでもらえるのかなぁ?」
「そうだったな、ごめん花蓮」
そう言うと新月は弾けるような笑顔で「よく出来ました」と言って俺の頭を撫でた。 なんだか恥ずかしいけど少し嬉しい。 新月は俺の手を取り「行こう?」と言ってまた屋上へと連れて行った。
「私ね、上野君と別れたんだ」
「ああ、上野から聞いたよ。 ビックリした」
「それだけ? 本当は嬉しかったりして? 」
「そんな事……」
いや、今では心のどこかでそう思ってるかもしれない。 こんな可愛い新月なら上野も、いや、新月がモテるのも無理ないな。 えりなや沙耶とも違う爽やかさを持っている。
ショートカットの髪にえりなと同じく黄金比のような整った顔に程よい肉付きの体。 そんな新月の誘惑に俺はあれこれ考えるのが面倒くさくなっていた。
今日くらい新月に甘えたっていいよな…… 新月だって受け入れてくれるし。
「ん? 健ちゃん、甘えたいなら私に沢山甘えていいんだからね? 私は健ちゃんの為ならなんだってしてあげるよ?」
まるで俺の考えを見透かしているように新月は言った。
「ほら、来て健ちゃん」
新月は腕を広げ俺が来るのを促す。 俺にはそんな新月がえりなに悪態をついた態度も何もかもが幻のように思えて花蓮の体にいつの間にか顔を埋めていた。
俺の頭を優しく抱きしめ愛おしそうに撫でる。 俺最初に新月と出会いたかった、そう思った。
「健ちゃんがようやく素直になってくれて嬉しいな。 私に頼りたくなったらいつでも言って? 私は健ちゃんが頼ってくれたら頑張っちゃうから」
「ありがとう、にい…… 花蓮」
「ふふッ、可愛い健ちゃん。 こんなに可愛い健ちゃんを放っておいてえりなちゃんや日々野さんは何やってるのかな?」
「えりなと沙耶は喧嘩して怪我したから治るまでしばらく来ないよ」
「へぇ」
新月、いや、花蓮の天使のような優しい問い掛けに俺は思わず本当の事を言ってしまった。 聞いた瞬間花蓮は一瞬顔付きが変わったように見えたけど気のせいだろう。
花蓮の腕の体に腕の中に収まり花蓮の心地良い体に浸っているとふと思い出した。 日々野のお見舞いに行くんだった。 俺がそう思い花蓮から離れる。
「どうしたの?」
「約束してたんだ。 えりなと沙耶のお見舞い交代に行くってさ」
「そんなのいいよ」
「え?」
「健ちゃんをそんな狼や蜂の巣みたいな危ない場所に行かせたくないもの。 えりなちゃんや日々野さんに責められる役なら私が負ってあげるから…… 今日は私と一緒にいない? 健ちゃんいろいろあって疲れてるでしょ? だから私が癒してあげたいの」
でもと言い俺は行こうとしたが花蓮が潤んだ瞳で「私じゃダメかな?」と俺に迫り俺はそれに抗う事が出来ず再び花蓮に抱きしめられた。




