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36話 新月の誘惑


えりなと沙耶が居なくても新月1人だけでも持て余すと知って俺は溜め息を吐いて教室に戻った。 新月は先程の事がなかったかのように上野と楽しそうに喋っていたが俺を見ると手を振った。



新月との席が離れてて良かった。 上野は新月が俺の事を好きだなんて知ったら絶交ものだろうな。 いや、それだけじゃない、上野と新月が付き合ってるのはみんなの周知の事実だしいろいろと気不味くなる。 そしてえりな、沙耶との衝突も必死だ。



てかなんで俺がこんな事になっているんだ? どっかのイケメンならわかるが……



そして授業は進みあっという間に昼休みになった。 てか一緒に食べようなんて言っててどこかも決めてないしとりあえず人気は避けたいので屋上のドアの反対側で隠れていよう。 どこで食べるなんて決めてないしもしかしたら新月は俺を見つけられないかもしれないしそうなれば場所とか決めてなかったしなと言い訳が立つ。



俺は急いで席を立ちまず売店に向かい適当な昼飯を買い屋上に向かった。 売店に行く事も考慮して俺より早くに新月が屋上に行ってたら俺は屋上にいないと勘違いして別な所を探しに行くかもしれない。



そして屋上へ行くと誰も居ない。 上手く巻けたかもしれない。 そう思いドアの反対側に行くと新月が待っていた。 マジかよ……



「やっと来たぁ! ここだと思ったから待ってたよ、健ちゃん」

「よくここだとわかったな……」

「だってえりなちゃんとよく行ってたでしょ? 私を侮っちゃいけません」



ドヤ顔でそう言って新月は俺の手を取り隣へ座らせた。



「売店の食べ物はいいけど今日は私のお弁当もご馳走してあげるね? 花蓮ちゃん特製だよ! 健ちゃんついてるね!」

「何も頼んでないのに……」

「モテモテな健ちゃんにはこうやってアピールして行かなきゃね! 可愛い女の子3人から好意を寄せられるなんて健ちゃんは罪深いなぁ」

「俺にも選ぶ権利くらいあるしそれにお前らいろいろ問題あり過ぎだろ」



新月は笑って「そうかもねぇ」と言い俺にピッタリと肩をくっつけ弁当箱を開けた。 新月が作ったのかはよくわからないけど結構美味しそうな弁当だった。 小さいけど……



「これ全部私が作ったんだよ? 食べて食べて! あ、あーんがいいかな? はい、健ちゃんあーん」



新月はどんどん1人で勝手に決めて俺に弁当のおかずを差し出して来た。 食べないと終わりそうにないやり取りなので仕方なく食べてみる。



「あ、美味しい……」

「でしょでしょ!? 自信はあったけど健ちゃんにそう言われると嬉しいなぁ。ほら、どんどん食べて?」

「いや、お前食べるのなくなるだろ?」

「別にお昼ご飯抜かしたくらいなんともないって! 健ちゃんに食べてもらった方が私も嬉しいし」



そう言って新月は自分の弁当を差し出し俺が食べるのをニコニコしながら見ていた。 あれ? なんかこんな光景って普通に付き合ってるっぽいと錯覚してしまうが新月の彼氏は上野だ。 友達を裏切る好意をしているんだという事を新月の自然な振る舞いに忘れてしまいそうになる。



「なあ新月」

「か・れ・ん!」

「…… 花蓮、こんな事しててもし上野にバレたら俺達とんでもない事になるぞ? お前は良いかもしれないけど俺にはそんなの耐えられそうにない」

「そうなったとして健ちゃんが耐えられないなら私はそれ以上に健ちゃんを癒してあげるよ? 健ちゃんが辛いんなら私も同じ辛さを味わうし悲しいなら一緒に悲しむ、健ちゃんが嬉しいなら一緒に喜ぶ。 それで良くない? 私嘘つきだけど健ちゃんへの想いは嘘なんかじゃないよ?」



凄くそれらしい言葉に新月ってもしかして本当はとても純粋なんじゃ? と思ってしまった。 だけどえりなに喧嘩売ってた時の新月を思い出すとどちらが本当の新月なのかわからない。



だけど確実なのはえりなや沙耶は俺に無理矢理迫ってきて脅しの圧力や強行手段まで取って来たのに対し新月は多少強引ではあるが確かに俺に直接害を与えずこうやって気持ちで表して来ているのがあいつらとは違う。



そしてそんな新月に俺はなんだか心を許してしまいそうになりそうな自分が怖い。 だけどこいつ思い切り浮気してるじゃねぇか。 そう思い頭をリセットする。



少しでも間違えばえりなと沙耶とは違い友達まで失う爆弾を持っているんだ新月は……




「健ちゃん…… いろいろ考えてるね? だけどね、私と居る時は私に集中して欲しいな。 今だけは全部忘れてさ。あ!」

「ええ!?」



新月は俺の顔に急に近付いた。 思わず新月が俺に覆い被さり倒れてしまうが新月は俺の口元の辺りをペロリと舐めた。



「ご飯付いてたよ?」



ペロッと舌を出し俺から舐めとったご飯粒を見せた。 だけど悔しいけど可愛いと思ってしまった。 俺はこういう普通な感じなのを求めていたんだと感じた。当たり前だが…… えりなや沙耶のせいでこういうやり取りは俺には程遠いものと思ってしまっていた。



だけど新月は俺のして欲しい事とかを全てしてくれようとしている。 しかもその気持ちには新月が言ったように本当に嘘はないんだと思う……



でもこいつは上野には嘘をつきまくっている。 好きでもない上野をえりなを悔しがらせたいからと言って付き合いその友達の俺が好きだったとかふざけた事を言っている。



「いいんだよ? 」

「へ?」

「私は最低な事してるのは確かだしね。でも健ちゃんがそれで傷付く事はないよ? 全部私のせいにすればいいよ。 でも私はそれでも健ちゃんを好きでいるから健ちゃんも私を少しは好きになってくれたって健ちゃんに罰は当たらないよ」

「花蓮……」



そう言って花蓮は胸の中に俺を抱きしめた。 俺は何をしているんだ……


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