35話 大胆な新月
今日からしばらくは前のような学校生活だ。 2人には悪いが俺の気分は少し晴れやかだった。 ずっと女の修羅場を見せ付けられ精神的に参っていたので少し心を休める必要がある。
通学路を軽い足取りで歩いているとえりなの家を通り掛かる。 まぁ外には出てこれないだろうとえりなの家を歩きながら眺めていると2階の窓に人影が…… その人影は言うまでもなくえりな。 俺が通るまで見てたのか? えりなは俺が気付くとニヤッと笑い手を振ってきた。凄く怖い…… そのホラーのような演出やめろって。
俺は引きつった笑顔でえりなに手を振り足速に横切る。 少し動悸が早くなったがまぁいい。 学校へ着き、上野と新月に軽く挨拶をして席へ座る。 隣にはもちろん今日は沙耶だって休みなので居ない。
居ないってのもなんか変な感じだな。 そんな俺の様子を上野と話していた新月がチラッと見ると俺と目が合う。 心のどこかで新月に意識が行っていたのでマズいと思って目をそらすが視線を感じる。
視線に耐えかねて俺は教室を出て廊下に出ると新月が俺を追って来た。
「あらら、酷いじゃない? 健ちゃんに熱い視線を送っていたのに逃げちゃうなんて。 今日は日々野さんお休み? えりなちゃんの姿も見えないけど?」
「なんかそうみたいだな。 何かあったのかな?」
「嘘ついてるよね? 健ちゃん思い切り知ってるような顔してるよ?」
「え? そんな顔してる?」
俺がそう言うと「ほら、やっぱり知ってるじゃん」と言われてしまった。 こいつカマかけやがったな。
「理由は知らないけど今日はお休みって事ね、あの2人は。むふふ」
新月の顔が怪しく微笑む。
「だけどお前も学校では上野と付き合ってるんだからろくに動けないだろ? 無駄な考えだ」
「むぅー! なんだかそう言われると私意地になっちゃいそうだなぁ」
「おいおい、自分の評判落ちる事になるから余計な事はしない方がいいぞ?」
「健ちゃんに心配される事じゃあありません。 それに私評判落としてでも健ちゃんとならいいかなぁなんて」
嘘だろ…… なんて思えないのが怖い所である。 俺はトイレと言ってその場から立ち去る。 危ない危ない、新月のペースに飲まれると危険だ。 あいつはえりなとも沙耶とも違って正攻法のような感じで攻めて来るので戸惑う事が多い。
トイレから出ようとすると横から腕がニュッと伸び通せんぼする。そしてそれは…… 新月だった。
「新月、ここ男子トイレ」
「見ればわかるよ? それに花蓮でしょ?」
新月は俺の胸に手を当てそのまま男子トイレに俺を押しながら入ってきた。 ニコッと微笑む新月の後ろから男子の声が聞こえた。 マズい、誰か入ってきそうと思った俺は新月の肩を掴んでそのまま大の方のドアを開けそこに隠れる。
他の男子が入ってきて用をたしているようだ。 新月は何を考えているかわからないのでもし声でも出されたりしたらと思うとゾッとするので手で新月の口を塞いだ。
「んむぅッ!」
「頼むから静かにしてろ!? お前変態扱いされるぞ?」
「…………」
男子達が程なくして出て行ったようなので新月の口から手を離した。
「ぷはッ、もう苦しかったよ。 口を塞ぐなら手じゃなくて口で塞いで欲しかったなぁ。 でも野外演習でも似たような事あったよね? 私思い出してドキドキしちゃった」
「お前なぁ、何考えてんだよ? 見つかったら評判落とすどころじゃないだろ今の……」
「だから言ったじゃん? 私別に健ちゃんから好かれればそんなのどうでもいいって。 邪魔者2人もいないしね」
付き合ってられないので今のうちに出て行こうとしたら新月が俺の腕を力一杯掴んで出て行かせようとしてくれない。 そんな事をしているうちにまた別の男子達がトイレの中へ入って来てしまう。
「お前せっかく出て行けるチャンスだったのに……」
「だって健ちゃんと2人きりなんだよ? そんないいシチュエーションなのにすぐ出て行ったらもったいないよ」
「トイレの中なのにいいシチュエーションなのか?」
「健ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」
コソコソと話していると外からなんか女の声しないかと言われて俺と新月は押し黙る。
「ここ男子トイレだろ? 女子がいるわけねぇだろ? いたら面白いけど」
「だよなぁ、まぁさっさと行こうぜ?」
そう言い男子達は出て行った。
今度こそ俺達も出て行かなきゃと思うと新月はこう言った。
「出て行ってあげてもいいけどさ、そのかわり今日私と2人きりでお昼しよ?」
「嫌と言ったら?」
「出て行かせない」
満面の笑みで新月はそう言った。 だけどこの状況はマズいので仕方なくそういう事にした。
「わかったよ…… だったら上野に上手く言っとけよ?」
「あいあいさー! 花蓮ちゃんとの約束だぞ? 健ちゃん」
タイミングを見計らい新月を連れてトイレの周辺を警戒して急いで新月を外に出した。 新月は楽しみにしてるね? と言って教室に戻って行った。
これで俺が早退とかしたら流石の新月も怒るだろうな…… そしてフワッと体から新月の匂いがした。 トイレの中でくっついてたうちに新月の匂いが移ったのか? もしここにえりなや沙耶が居たらすぐにバレて大激怒していただろうな。




