30話 リミット
野外演習も終わり振替で今日は休日となっていた。 今日はようやく1人で居れる。 俺は解放感に満ちた自分の部屋のベッドから出たくなく今日は寝て曜日にして日々野の変わり様やえりなや新月の事は忘れて過ごそうと思っていた。だけどそんな俺のひと時の安らぎもメールひとつで崩れ去る。
『健斗、今日は私の買い物に付き合いなさい。断わったら明日どうなるかわかるでしょうね?』
終わった。 あ、でも寝てて気付かなかったという事で。 ダメだ、既読になってら…… あ、これ開いたまま寝てたという事にしとけばいいか。
俺は目を閉じて現実逃避に入ろうとするとまた携帯が鳴る。
『あと30秒以内に電話寄越さないなら断わったと見なすから』
くそ…… 逃げ道なしかよ。 俺は仕方なくえりなに電話をした。
「遅い! 私どれだけ待ったと思ってるの!?」
「割と早い方だろ? てかいきなりなんだよ? 俺今日なんもしたくなかったのに」
「私が付き合えって言ってるんだから付き合えばいいのよ!私みたいな美人とショッピングなんて行きたくても行けない人達の方が多いんだから光栄に思いなさいよ?」
「性格までちゃんと美人になろうな」
そう言うとえりなは少し黙った。 地雷でも踏んでしまったかな?
「いきなり誘ってごめんなさい、実は健斗に買い物に付き合って欲しかったの」
「え? な、何かな?」
態度が急に変わったので少し焦った。 まさかそんな風にえりなから言われるとは思ってみなかったので。
「だからいきなり誘ってごめんって言ってんのよ! 待ち合わせはどうするの? 私が直接健斗の家にでも行こうか!? ああ、その方がいいわよね? 健斗ダラダラ準備しそうだしッ」
そう言って電話が切れた。 今度は急に怒り出した。 よっぽど恥ずかしかったのか嫌だったのか……
仕方ないので俺はベッドから起き上がりえりなが来るというので準備をする。 歯を磨きに洗面所に降りていくと母さんと会った。
「あれ? 健斗珍しいね、休みなのにこんなに早くから起きるなんて。 お友達と遊びに行くの? あ! もしかして例のえりなちゃんとデートかしら?」
「デートじゃないし付き合ってもないよ。 いきなり買い物に付き合ってくれって言われただけだよ。 だからそんなに茶化すなよ」
「あら、やっぱりえりなちゃんなのね? ようやく健斗にも春が来たのねぇ」
母さんが根掘り葉掘り聞いてきてウザいので半分スルーし俺は顔を洗い歯を磨く。 明日には嫌でも学校で顔を合わせるのだから買い物なんて放課後行けばいいのになんでわざわざ休みなんかに……
「好きよ健斗」そういう事なのか? だけど俺はえりなを恋愛対象として見てはいない。 恐怖の感情の方が頭に強く刻まれているからな。 新月の事も頭に浮かぶ。 あいつはそもそも上野の彼女という事になっている。 えりなや日々野に比べたら大分ソフトな方だけど上野との友情関係が崩壊してしまう。 そして日々野…… 友情の印にウサギのぬいぐるみを狂った笑顔で三分割した恐ろしい光景が今でも頭から離れない。 そして俺が拒絶の態度を取れば鉄拳制裁、心中してみたくなったと言って俺を巻き込むえりなと同レベルで危険だ。
俺ってメンヘラを呼び寄せる何かを持っているのだろうか? 女の子って言えばもっとほんわかしたのを思い浮かぶんだけど俺の想像の産物に過ぎないのか?
外着に着替え待っているとインターホンが鳴った。 母さんが出たようだ。
「健斗ー! えりなちゃんが迎えに来たわよ? 」
そう聞こえ行こうとすると階段を上ってくる音が聞こえた。 母さんかな? と思ったらコンコンとドアをノックする音が聞こえ「健斗、入っていい?」とえりなの声が聞こえた。 なんで? と思いドアを開けるとえりなと母さんが居た。
「わっ、健斗準備できてたの? 待たせるのも悪いからえりなちゃんを健斗のお部屋に連れてきちゃった」
ニコッと笑って母さんはそう言うが余計なお世話だ…… というより男の部屋にいきなり入れるなよ。 そして母さんはえりなに入って入ってと促しドアを閉めた。
「お、おはようえりな。 なんか母さんが勝手にごめんな」
「別にいいわよ。 ふぅん、ここが健斗の部屋かぁ」
俺の部屋をキョロキョロと見渡しベッドの上に腰掛けた。 見掛けは美少女なのでやっぱりとても綺麗だ、つくづく性格がアレなのがもったいないよな。
「何よ?」
「いや、こうして見ると性格以外は綺麗だなって思ってさ」
「ば、バカじゃないの!? それに一言余計! 私が美人なのは当たり前じゃない! でもああ、そういう事か」
「何がだよ?」
「前にも思ったけど健斗のお母さんって相当美人よね? だから健斗はお母さんを見慣れてるから私がいくら美人でも免疫がついているのね? だからなかなか靡かないんだわ」
え? こいつは飛んだ勘違いしてるよな? 自分に欠点あるとか思わないのか? まぁえりなは自分に対して相当ポジティブだからそんな結論にたどり着くのか……
「それに……」
えりなはグッと俺に顔を近付けまじまじと俺の顔を見る。
「やっぱり健斗はお母さん似ね。 こうして見るとやっぱり可愛いもん」
なんだそれだけか…… いきなり目の前に顔を近付けるからビックリするよ、えりなと新月には。 こいつらは自分の顔に自信を持っているから恥ずかしげもなくそんな事してくるよな。
「ねえ健斗、この前花蓮ちゃんとお風呂入ったのよねぇ? 私の気持ちを知っておいてそんな仕打ちをするなんて私を弄んでいるのかしら? もしかして私が死んじゃうまで都合よく使って後は花蓮ちゃんにチェンジしようなんて魂胆じゃないでしょうね?」
「んなわけあるかよ!? 大体あいつが勝手に入ってきただけだしそんな思考パターンお前じゃないんだから考えもしないって!」
「ふぅん? まぁ信じてあげるわ」
ふとえりなの腕に痣のような、よく見るとタトゥーのような物が見えた。 えりなも俺の視線に気付いた。
「ああ、これ? 今日消してくるの忘れちゃった。 いつもはファンデーションテープで誤魔化してたんだけど…… 」
その模様は一部少し消え掛けている。
「これ完全に消えちゃうと私死んじゃうんだって。 期限みたいなものかな? って前に話したよね? その様子だと忘れてるっていうよりまだ私の妄想とか思ってて信じてないでしょう!?」
そうだったっけ? と思ったけど信じてなかったのは本当だ。 でももしかしてそこまでえりながいつも自分が死んだらと引っ張るという事はもしかして本当なのか? 俺はえりなの腕を取りよく見る。
「あッ、いきなりそんな……」
「ちょっと見せてみろよ」
見ると三又の槍のような紋章の中心に砂時計のような柄だ。 そして槍の外側がほんの少し消え掛けていた。
「クソダサいマークよね、完璧な私にこんな趣味悪いの付けるなんて。 だから隠してたのに。 まぁそんなに目立たないから今日はいっか。 ていうかいつまで腕握ってるの? 私これでも健斗が好きだから恥ずかしいんだけど?」
「ああ、悪い。 とりあえず出掛けるか?」
そして家から出て街へ向かう。 もしえりなの言っている事が本当だったらこいつは本当に死ぬのか?




