145話 全てが終わって……
新村の母さんに復讐しようとしたあの男はあの後、新村と新村の親と強面なヤクザが廃病院に急いで駆け付けて来てなんとか花蓮は病院に運ばれた。
ヤクザの後藤さんとか言ったっけ? あの人は元から新村の母さんの事件が1人でやったものではないかもしれないと当時から情報屋など使い身辺を探っていたがあの男はその前に雲隠れしてしまい、同じ闇社会の住人を使って上手く姿を隠していた。
後藤さんがたまに新村の家に来たりしていたのもそういう事があるかもしれないという事だったという。 そしてとうとう相手が現れ尻尾を掴みかけた時、新村の母さんに牙を向けて来ると思いきや俺や花蓮を最初にターゲットにしたので後手に回ってしまった。
廃病院に駆け付けられたのも打って付けの場所なのでしらみつぶしにそういう場所を当たっていて俺達を見つけられた。
気を失っていた花蓮を見て新村と新村の親は青ざめていたが後藤さんとやらが「柚の時と同じじゃねぇか!」と言って急いで後藤さんの知り合いの病院に駆け込んだ。 もちろん俺やえりな、沙耶、上野も病院に行った。
あの男がどうなったかはわからないが後藤さんの組の連中が連れて行ったそうだ。 こういう展開であの時の再現のようなものが起きるなんて思わなかったけど無事乗り切った。
前は花蓮が原因だったのが今回は花蓮が俺達の死亡フラグを見事にへし折ったなんて今までやってきたのは無駄なんかじゃなかった。
そしてもうひとつ驚く事があった。 病院に着いた時花蓮の腕の傷が治っていたのだ。 おかしい、絶対おかしい。 確実に刺されていた。
今思い返してみれば花蓮がえりなを庇って刺された場所は上腕骨隙間、完璧に急所だ。 だからあんなに出血していた。そして意識を失う前の花蓮の顔は顔面蒼白、本当に死にそうだった。 いや、絶対死んでもおかしくない。
後藤さんの知り合いとだけあって融通が利く病院で後藤さんのゴリ押しと計らいで花蓮は3日だけ一応入院との事になった。 そしてその間新村はずっと付き添っていた。 上野や沙耶、花蓮の両親、新村の両親やあの後藤さんもお見舞いに来たりで騒がしかった。
花蓮は「来てくれて嬉しいけどこの通りピンピンしてるから大丈夫!」とか言ってるし、本当に大丈夫なようだ。
そして新村が疲れて寝ている時俺とえりな、花蓮の3人になった時があった。
「ちょっと2人とも、部屋から出て話でもしない? なんともないのにずっと病室は飽きちゃったよ」
「ああ、じゃあ少しだけな」
「花蓮ちゃんの体一体どうなってるのよ…… 」
売店でジュースを買い病院の飲食コーナーに俺達は行きテーブルに座った。
「ふう〜、それにしても大変だったね。 健ちゃんと真央ちゃんの顔をまた見れて良かった」
「何よそれ? まるで一回死んだみたいじゃない?」
「うん、死んだよ? 平気なフリしてたけど急所刺されたからもう私助からないかもなって思ったくらいだもん」
「へ!?」
一回死んだ? 何言ってるんだ花蓮の奴?
「健ちゃんにね、名前で呼ばれた日あったじゃん? 私あの時健ちゃんが私の事意識してくれてるんじゃないかって嬉しくてさ、タイミング見計らって健ちゃんに話しかけようと次の日伺ってたらえりなちゃんとどこかに学校帰り出掛けちゃうんだもん」
「あ……」
それって御社に行った時……?
「今思うとそれが関係してたのかな? うん、きっとそう。 話を戻すけどえりなちゃんとどこか行くなんてえりなちゃん許せないって思って2人の後をつけたら変な御社みたいな所に行ってるんだもん。 そしたら雷に健ちゃんが打たれて倒れてこんな所に連れて来て健ちゃんをそんな目に遭わせたえりなちゃんぶっ殺そうと思って出て行こうと思った時ね、私も気を失って倒れたの」
「花蓮ちゃん、そ、それって……」
「ん?」
どうやら花蓮は俺達も不思議な体験したって事までは知らないのか?
「気付いたら2人とも何事もなかったかのように起きてたからあれ? って思ったけどなんでもなかったかなって。 その時の事はそれで終わったと思ってたらさ、私があの男をぶっ飛ばして意識失ったら急に変な声が聞こえて来て私は死んだって言ってくるんだもん」
間違いない、俺達と同じだ…… てことは力が少し戻ったってのは俺達がまた来たからじゃなくて花蓮の事がカウントされたからか? それだと辻褄が合う。
「なんかさ、自分は御社の神だ、チャンスを与えるみたいな事言われたのよ。 戻りたい時間に戻るか刺された事なかった事にして生き返るか選べって言われたの」
俺とえりなの時とはやっぱり条件が違う。ちょっと融通が利くようになったのは花蓮がカウントされたからか? 俺の時はそんな選択肢なんてなかったぞ?
「だからちょっと迷った。 えりなちゃんじゃなくて私が健ちゃんと付き合えるようにしてやろうかって」
「…………」
「そんな怖い顔しないでよ、えりなちゃん。 だけどね、それはちょっと違うって思ったんだ。 健ちゃんは…… そんな健ちゃんだから私大好きなの。 なんか上手く言えないけどさ、今まで健ちゃんと接してきた時間をなかった事になんかしたくなかった。 それに真央ちゃんとの事も。 えりなちゃんを守ろうとした私とそんなえりなちゃんと一緒に過ごした時間を…… だから私敢えて今のままでいいやって思ったんだ」
「花蓮ちゃん……」
花蓮…… 前の世界では最後にあんなに引っ掻き回した花蓮がそんな決断するなんて。 俺が上手く接したから? 新村がいたから? えりなと仲良くなれたから?
どれが要因かはわからないけど花蓮はやっぱり好きって気持ちがちょっと人とはかけ離れている所はあるけどそれは花蓮なりの深い愛情があるからなんだ……
「それにわかった事が2つあるよ? 今の反応見てると2人も私と同じような経験してるでしょ?」
「……う」
「流石だな、抜け目ないな」
「やっぱりね。 信じられないけど腕の傷が治っちゃってこうして生きてるんだから信じるしかないわ」
そこまでわかってる花蓮にはもう隠し事しても仕方ないな。 えりなと顔を見合わせた。 そして俺とえりなの経緯も話した。 俺の事については花蓮はとても驚いていたけど花蓮自身がそんな事をしたと花蓮は知って少なからずショックを受けていた。
「そっかぁ、私がみんなにそんな事したんだね、健ちゃんまでにも……」
「いいんだ花蓮、だって今では花蓮は俺達とこうしてみんな無事だろ?」
「やっぱり健ちゃんは優しい。 そんな私にもこうして接していてくれるんだもの。 私やっぱり健ちゃんを大好きになるのは当たり前だよ。 今のままで生き返るって選んでよかった! えりなちゃん、健ちゃんを泣かしたらえりなちゃんの「友達」として私が許さないわよ!」
花蓮がえりなをズビッと指差してそう言った。
「ちょっと! なんでそうなるのよ!? ていうか今友達って……」
「うん、いろいろあったけど…… 今更だけど」
花蓮にしては珍しくえりなに少しモジモジしながらそう言った。
「うん…… 花蓮ちゃん、友達として約束するわ。 健斗に私と付き合って後悔させないって」
そう言うと花蓮はえりなに向かってとても可愛い笑顔を見せた。 今度こそ、今度こそ俺は本当の意味でこのやり直しが終わったと思った。