142話 再来
それからしばらく経ち修学旅行も終わり戻った時間の中でここまで来たかと俺は少し物思いに耽っていた。
修学旅行は今回はちゃんと楽しめた。 今までいろいろあったな。でもまぁ結果オーライか。 時間が戻る前の事は俺の中で糧として今も残って今に活かしている。
決して笑える思い出なんかじゃないけどそれがあったから今がある。 覚えているのは俺とえりなだけ……
そして俺には時が経つにつれて一抹の不安があった。 えりなはあの御社の神様に直接命を救ってもらった。 そういう意味ではえりなは運命を変えたと言える。 だけど俺の場合は変わっていない。
ただ時間が戻っただけなんだ。 そして結果は違えど前の世界で起こった事を元に今も成り立っている。
起きた事を変えても森で迷ったり夏休みに海に行ったり内容は違くても変わらない事だってある。
そう、俺とえりなと沙耶と花蓮が死んだ日も当然迫る。 同じような事が起きる。 それが俺の不安を駆り立てる。
前のトリガーになったのは花蓮だ。 そして恐らく今回も今までの通り行けばそうなる。 だけど今の花蓮にそういう要素があるか?
何も問題ない…… 新村との関係も良好、そして花蓮もとても幸せそうで。 俺に対してもちゃんと割り切って接している。
今でも大好き。 そう花蓮は言っていたけど新村が居る今なら花蓮は大丈夫、えりなと俺が元でよく喧嘩したりもしてるけど深刻なほどではない。
一方的に花蓮がえりなに戯れているだけだ。 そして花蓮と深く関係ある人物と言えば俺とえりなと新村、沙耶、上野くらいか?
俺が知らない関係もあるかもしれないが沙耶と上野は考えても思い当たらない。 深いと言っても俺やえりな、新村ほどではないからだ。
それに沙耶と上野が花蓮に何かするとか影響を与えるとかは考えられない。 ダメだ、こんな事を考えていると本当にそうなってしまいそうだ。
だけど俺の今までの体験を通してそうなるかもしれないと俺の中で強く言っている。 なんだろう? 日が経つにつれて言いようのない不安ばかりが募っていく。
「健斗、最近凄く落ちてるよ? どうしたの?」
「え? そんな事ないって」
えりなは俺の様子に気付いている。 だけど今やっと幸せになれたえりなにそんな事言いたくない。
「花蓮ちゃんも言ってたよ?」
「え!? 花蓮が何を?」
「え?」
花蓮の名前を聞いて俺は激しく反応してしまいそれにえりなは戸惑う。
「健斗が元気ないって事よ。 ムカつくけど健斗をよく見てるわね」
なんだ、そんな事か……
え? 新村が居るのに俺にそんな気を回す事あるか? 今でも大好き。 そう言ってたけど友達としてだよな?
まさか俺が元でまた花蓮が暴走するとか今更ないよな? ないはずなんだ。
「そういえば私達が死んだ日そろそろね」
「えりな…… それは」
「やっぱり」
「へ?」
「またそうなるんじゃないかって悩んでたんでしょ? 私だって過ぎった事何回もあるわ。 でも考えたって仕方ないじゃない。 その日になってみないとわからないわ、健斗はそうならないようにってずっと考えを張らしてるんでしょ?」
えりなも感じてたのか…… 確かにその日にならないとわからないし今までそうならないよう、上手く行くように努力してきた。 そんな要素はないって言いたいけど何かひとつ取り零しなんて事もあるかもしれない。
「大丈夫。そうなったとしたら今度こそ私と健斗で乗り越えましょう? 花蓮ちゃんや沙耶の事もなんとかなったじゃない? まぁそれは健斗が上手くやったんだけどね? 今は私も思い出してるし……」
「ああ、そうだな」
そうは言ったけど俺は不安を残したままその日は来た。日曜日えりなは俺の家に来ていた。
「いいなぁデート。お兄とえりなさんもう立派なカップルね!」
「え? そう見える? 」
「私も彼氏作りたいなぁ。 私もえりなさんみたいに本気で好きって思えるいい男見つけてやるんだから!」
「あはは、モテる男の子と付き合うのはそれなりに大変だからね」
「お兄がモテるなんて少し信じられないけどねぇ。 じゃあ行ってらっしゃい! 2人とも気をつけてね!」
そして俺はえりなと家を出る。 いつまでも暗い気持ちでいるなんてえりなにも申し訳ないからな、今日は楽しもう。 そしてえりなとデートしてあっという間に夕方になる。 俺の考え過ぎだったかな。
だがえりなと一緒に家に帰っている途中鈍い音がして隣を見るとえりなが倒れる。 えりな! そう思った瞬間俺は頭に衝撃が走り気を失う。
どこだ? ここ…… 気付くと前の世界でみた廃病院の花蓮と争った部屋に居た。体が動かないと思えば縛られている。
嘘…… だろ!? 周りを見るとえりな、沙耶、上野まで居た。 だが俺と同じで3人とも縛られていた。
そして奥から足音が聞こえる。 それはこちらに向かっている。 徐々に姿を現したのは花蓮……
「健ちゃん……」
どうしてだよ!? 結局何をどうしてもこうなっちまうのか? 上がりが見えていたと思えばまた泥沼に足を引きずりこまれる、そんな感覚に陥る。 いくら警戒をしていても生き死にが決まる強い因果を持つ場面では起こる事は必然的に起こる。