139話 えりなと花蓮と新村と……
「あー、気が重い…… なんで大蛇が居るような所に行かなきゃいけないの」
「お前もいいって言ってたじゃん」
「言ったけど考えれば考えるほど気が進まなくなってきたわ。 ん? 健斗って花蓮ちゃんの家知ってるの? なんで?」
最後のなんで? がとても圧がこもっていた。
「えりなと上野が一緒に帰った時たまたま俺も花蓮と一緒に帰る事になってさ、なんだったら寄って行ってっていう事になって…… それだけだからな!」
「へぇ? 前に私に好きって言っておいて私が覚えてないからって花蓮ちゃんと好き放題してたって事? しかも花蓮ちゃんの家で? へぇ〜」
「いや、やましい事は何もしてないって」
本当はした。 花蓮とキスを…… でも嘘も方便、花蓮も応援するって言ってたし信じていいんだよな花蓮? ていうか頼んだぞ。
「ふぅん、ここら辺が花蓮ちゃんのお家なんだ」
「ああ、花蓮はアパートに一人暮らしだ。 意外だよな」
「はい? 今なんて言った?」
あ…… 吹けば吹くほど埃が出てきた。 でも着けばわかる事なので仕方ない。
「ははは…… 大丈夫だって」
「どんどん健斗は顔を引きつらせて行って何が大丈夫なのかしら?」
ゴゴゴゴゴッと音が聞こえてくるようなえりなの圧に怯えながら花蓮の家に着きインターホンを鳴らした。 ていうか花蓮に連絡するの忘れてた。 いきなり訪問して来たからビックリするだろうな花蓮。 しかもえりなまで一緒だもんな。
ガチャッとドアが開き俺の顔が見えた瞬間花蓮の顔が笑顔になったが隣にいるえりなを見ると急に真顔になった。
「いらっしゃい、健ちゃん。 ついでにえりなちゃん」
「ちょっと…… わかりやすく私に不快感露わにするのよしてよね!」
「健ちゃんだけなら大歓迎なのに。 どうかした?」
「花蓮大丈夫かな?って思ってさ。 連絡もしないで来てごめんな」
「ううん! 健ちゃんが来てくれて凄く嬉しい、サプライズだね! 上がってよ、ついでにえりなちゃんも」
「ついでついでっていい加減にしなさいよ!」
「はいはい、私の顔に傷付けたえりなちゃんにちょっと意地悪したくなっただけよ、まぁ前にえりなちゃんをボコボコにしたからこれでおあいこって事にしてあげる」
えりなはそんな花蓮の態度がやっぱり気に食わないのか表情は険しいけど気を取り直して花蓮の家に入った。
「本当に一人暮らしなのね」
「まぁ仕送りはくるから厳密には違うけどね」
「花蓮、いつから学校来るんだ?」
「えとね、来週から行こうかな。 それまでに私の家にいつでも来ていいよ! あ、えりなちゃんはいてもいなくてもいいからね。 見せつけられたらムカつくもん」
花蓮が終始挑発するのでえりなは怒りっぱなしだがそこまで深刻にならないのは花蓮ももうそんなつもりはないからだろう。
「健ちゃん今日は来てくれてありがとう。 やっぱり健ちゃん優しい。 私が好きになっただけある! 今でもとっても大好きだけどね」
「私の前でよくそんな事言えるわね、まったく……」
花蓮の家を出てちょっと歩くと見覚えのある人物が前から歩いて来た。 あれって確か新村じゃ? こんな所で何してるんだ? そして新村もこちらに気付いた。
「足立と…… 美咲だっけ? こんなところで何してんだよ?」
「それはこっちも聞きたいんだけど?」
そう言うと新村は溜め息を吐いた。
「俺の弟が花蓮に会いたいってうるさくてさ。 あいつに来てくれないか?って頼んだんだけど怪我してるから治るまで行けないって言うからさ。 ちょっと気になって」
んん? 新村って花蓮の家知ってるのか? 確か花蓮って男は好きな奴しか家に上げないって……
まさかいつの間にか新村の奴と? 少し胸の奥がチクッとする感覚を覚えたけど俺にはえりながいる。 それに花蓮と新村はお互い家に行き交うくらいの仲なんだろ? それってつまりそういう事だろう。
「ああ、それ私花蓮ちゃんをボコボコにしたからよ。 ごめんね新村君」
「ええ?! あの花蓮を? お前が?」
新村は信じられないという顔で驚いていた。 まぁちょっと違うんだけどな。
「新村君、花蓮ちゃんをよろしくね、あの子あんなんだけどさ」
「え? ああ。 なんかよくわかんないけどわかった」
新村の表情を見てこいつも花蓮の事満更じゃないんだなってのがわかった。 俺からも花蓮の事よろしく頼むと新村の前では言えないので心の中でそう思った。 それにしてもあんなに仲悪そうだったえりなが花蓮の事を気遣うなんてな……