136話 健斗 えりな
あの後じゃあまた明日なとえりなに言ったけど全て理解したばかりのえりなは俺と離れたくないらしく俺の家に一緒に行く事にした。
「本当に俺の家についてくるのか?」
「当たり前よ! 私からしたらようやくちゃんと健斗にまた会えたようなものなのよ」
「でもなぁ、この怪我なんて説明しようかなぁ…… 本当の事言うわけにもいかないし」
「だから私がいるんじゃない。 健斗が川で転けて石に頭ぶつけて心配で私がついてきましたで解決じゃない。 私が髪の毛ビショビショなのもそれで解決」
ああ、なるほど。 確かにそれで解決だな。 川なんかで何してたの? みたいな感じだけど。
「今回は花蓮ちゃん顔を殴られなくて良かったわ。 せっかく思い出したのにまた休んだりしたら健斗と会う時間少なくなるもの。 それに……」
えりなはクスクスと不気味に笑った。 なんなんだ?
「なんだよ?」
「あの花蓮ちゃんをボコボコにしたのよ? 気分爽快だわ! あれだけじゃ全然足りない気もするけどね」
「ああ。 でもあれって花蓮が戦意喪失してたしお前その前に花蓮に蹴られたりゲロパン食らってたり窒息させられてたりしただろ?」
「思い出したくない事思い出させないでよ! 私の中では花蓮ちゃんを唯一ボコボコに出来た良い思い出なんだから」
あの光景が良い思い出か? なんて思ったけどえりなが戻って来たんだしまぁいいか。
「それにしても本当に戻ってるのね? なんだか凄く不思議だわ。 こうしてねもそんな気全然しないのに確かに戻ってる。 私の時と制約が全然違うのね、やり直した気分はどう?」
「2回目のえりなはなんか横暴さが少し影を潜めていて丁度良かったよ」
「丁度良かったって何よ? 最初の私がダメみたいに言わないで!」
「あはは、でも本当にえりながえりなに戻って嬉しいよ。 どのえりなも好きだけどな」
そう言うとえりなは真っ赤になって下を向いた。 照れてるんだよな。
「健斗…… 私を照れさせて面白がってるでしょ?」
えりながジトッと睨んでそう言った。
「いや、面白がってとかじゃくて可愛いなって思ってるんだよ」
「可愛い………… もっと言って」
「え?」
「可愛いって私のイメージじゃないけどやっぱり嬉しい、健斗に言われると嬉しい」
「うん、えりなは可愛いよ」
「えへへ」
そうしているうちに家に着いた。 てかもう真っ暗だし本当に遅くなってしまった…… 怪我した上にこんな時間だし俺は恐る恐る玄関を開けた。
「ただいま……」
「お兄! 何時だと思ってんの!? あれ? またまたえりなさん? てかえりなさん髪濡れてるよ?!」
「ごめんね響紀ちゃん、健斗川で怪我しちゃって。 心配で付き添って来たの」
「ええ!? お母さん、お兄怪我したって!」
響紀は怒ったと思ったらえりなにそう言われて母さんの所へ行った。 そして母さんもちょっと心配した様子でこちらに来た。
「えりなちゃんごめんね? もう健斗ったらドジなんだから! 大丈夫? 見せてごらん」
「血は止まったから大丈夫だって」
母さんは俺の怪我を見ると少しホッとしたような顔になる。
「うん、これなら縫わなくても大丈夫そうね。 えりなちゃんにまで心配掛けてまったく……」
「良かったね健斗、大した事なくて」
「ああ、わざわざごめんな? ここまで付き添ってもらって」
「ううん。 じゃあ私はこれで」
えりなが帰ろうとすると母さんはえりなを呼び止めた。
「えりなちゃん今日はありがとね。 これからも健斗をよろしくね」
母さんの言葉にえりなはパァッと笑顔になり「どういたしまして、こちらこそよろしくお願いします」と答え帰って行った。
そして夜寝る時これは長い夢なんじゃないか? 朝起きたら全部今までの事はなかった事になるんじゃないかと不安になったが眠りに就いた。
そして夢を見た。 例の御社に俺は居た。 そしてどこからともなく声が聞こえた。
「良かったな健斗。 ずっと見守っていたぞ、お主がまたここに来た事も」
「どうしてえりなが死ぬ前の記憶が戻ったんですか?」
「私の中では時間は戻ってはいない。 だがお主達はまた来てくれただろう? だから私もまた力が少し戻った。 えりなが不幸になってしまったのが残念で仕方がなかったから想いが叶った時全て思い出させてあげたかった。 積み重ねが消えてしまったままではお主も寂しかろうと思ってな」
「やっぱりそうだったんですね、こんな芸当出来るのはやっぱりあなたしか居ないと思ってました」
「私もこれでようやく落ち着いた。これ以降はこうして会う事もないだろうがたまにはまた私の所へお祈りに来てやってくれて良いのだぞ? では達者でな」
そう言った瞬間俺は目が覚め朝になっていた。 今日は雨か。それにしても夢? いや、違うな。 殴られた頭が少しズキリと痛むけど俺の気分はいつになく晴れていた。