13話 花蓮という女の子
「で、そういう事で私達の班で野外演習の企画を決める事になったの。 だから放課後残って何するか決めようね!」
「はぁ? 何勝手に引き受けてんだよ?」
「そうだそうだ! 私も聞いてないー! ブーブー!」
美咲が勝手に企画係を引き受けてしまったので俺と新月から非難轟々だ。でも美咲の事だ、絶対上野絡みで引き受けたんだろ……
「私って断れないタイプなの。ごめんね上野君」
「え? 俺!? いや、大丈夫だよ。な?新月」
「え!? そうだね、上野君がやるなら私もやるよ」
さっきまで俺と一緒に美咲を非難してたくせに上野がそんな態度を取ると新月もそれに従わざるを得ない。 そんなやり取りを美咲はニヤニヤして見ている。 そこまでして上野を奪いたいか…… その執念をもっと違うベクトルに活かせよ。
「足立君、なんかトントン拍子に話が進んでて良かったね」
横から日々野がそんな様子を見てそう言ってるがトントン拍子で面倒事が増えていっているの間違いじゃないのか?
放課後になり美咲達は上野に夢中で持ってきた話も進みそうにないので俺と日々野がやらざるを得ない状態になってるんですけど……
上野の取り合いに先に上野の方がギブアップして俺と日々野の所へ逃げ込んできた。
「どうした上野? 」
「なんか気不味い。 新月と美咲ってあまり仲良くないのかな? 2人とも笑ってるように見えて笑ってないというか…… バチバチ火花が飛んでるというか」
仲良くない、まったく仲良くないぞ上野。 しかもその原因は上野、お前だ。 だけど上野も被害者のようなもんなのでなんとも言えないけどな。 腹黒女2人から異様な執念を燃やされてるし。
「はぁ、とにかく疲れた、それでお前ら何やる事にしたんだ?」
「面倒だから日々野と話して定番通りのコースで行こうと思ってるんだ。 行事内容は確定してるから空いた時間の埋め合わせだからキャンプファイヤーとか肝試しとか花火とかな」
野外演習のしおりを見るとなかなか場所は広い所で各班ごとにコテージも用意されている。 まぁグループ一緒で寝泊まりするって聞いた時から区切られてるんだろうと思ったけど。
「でもなんだか楽しみだね足立君!」
「え? あ、ああ。そうだな……」
日々野はやけに楽しみにしている。 だが俺は美咲に野外演習まで付き合わされると思い楽しみにしているどころか憂鬱なんだけどな。
いつの間にかバチバチと火花を散らしていた美咲や新月は居なくなっていた。2人で思う存分本性を表し思う存分に罵り合いたいのだろうか? だったら上野のいる所では出来ないもんな。
喉が渇いたので俺は売店にジュースでも買いに行こうと思い教室を出て廊下を歩いていると……
「えりなちゃんったらまったく……」
新月がキョロキョロと辺りを見渡し呟いていた。 取っ組み合いでもしたのだろうか? 少し髪と着ている制服が乱れていた。 新月はショートカットなので髪をサラッと撫でて元通りにしていると俺に気付いた。
「ん? あれ? 足立君こんな所で何してんの?」
「あー、喉渇いたからジュース買いに売店にな」
「ふぅん……」
「お前こそ何してたの? 美咲は?」
制服を直しながら話していた新月は「ああ、これ? 」と言いながらいつものお得意のキラースマイルを向けて俺にグイッと近寄る。
「えりなちゃんと鬼ごっこしてたらついね! 私も疲れたから喉渇いちゃったぁ、一緒に行こッ!」
上野とでも行けよと思ったけど別に断る理由もないので一緒に行く事にした。
「なんか足立君って少し壁を感じるなぁ」
新月が俺の顔を覗き込んでそう言った。 どちらかと言うと壁を作ってるのは新月の方じゃないかと思ったがややこしくなるので俺はそうか?と答えた。
「だって友達の上野君にだって上野って呼んでるでしょ? 上野君はしっかり足立君を名前で呼んであげてるのにさ、そう思わない?ねぇ健斗」
「え?」
いきなり新月に名前で呼ばれたのでビックリして新月を見ると妖艶な笑みを浮かべている。
「ドキッとした? 可愛いね健斗は。ねえ私も名前で呼んでごらん? 花蓮って」
新月が俺の胸に両手を置き見上げながら言ってきた。 な、なんだってんだ? お前演技だろそれ? 何企んでるんだ?
「ねえ早く呼ばないと…… もっと密着しちゃうよ?」
「…… か、花蓮」
そう言うとニッコリ微笑んでよく出来ましたと新月は言った。まぁこいつはそもそも上野が好きって言うのも美咲への嫌がらせだもんな…… 御構い無しか。
「健斗はさ、えりなちゃんと仲良いの?」
「いや、そんなでもないけど……」
「そうは見えないけどなぁ。 実は私ね、上野君と付き合う前から健斗の事いいなって思ってたよ?」
まさかそれは美咲と俺が手を組んでいるから引き裂きに来る作戦か? あの時の新月を見た後だと嫌でもそう思ってしまう…… だけどこいつらの演技ってなんか真に迫っているような気迫があるので実際やられるとどうなのかわからなくなる……
「だってお前は上野の彼女だろ?」
「彼女だけど健斗をいいなって思って悪いのかな? そんな事ないと思うけど。上野君の友達が健斗だから私上野君と…… 」
「え?」
「あ…… ううん! なんでもない」
自販機の前に着いて俺が財布から小銭を出そうとしていると新月が止めた。
「私が健斗に奢っちゃうよ! だから名前呼びしたのは上野君には内緒にしてようね? でも私と2人だけの時は花蓮って呼んでいいよ? 私も健斗って呼ぶからさ」
新月は弾けるような笑顔でそう言って自販機にお金を入れて俺に何飲みたい?と聞いてきた。 まぁ余計な争いが怒ると面倒なので俺もそれに従う。
「じゃあお言葉に甘えて」
コーヒーを押すとガコンッと落ちたコーヒーを新月が取り出しプシュッとそのまま開けて一口飲んだ。 何してんだこいつ? と思うとそれを新月は差し出してきた。
「苦い、健斗は大人だねぇ。はい、 これ! 友達の印!」
か、間接キスが友達の印なのか? 受け取っていいのか? 一応上野の彼女なのに…… だが断るとお後が怖そうなので受け取りグイッと飲んだ。 はぁ、俺何やってんだ……
「フフッ、しちゃったね。間接キス…… これも上野君には内緒だよ? 健斗」
新月は顔を少し顔を赤くさせそう言った。 すると足音が聞こえ角から美咲が飛び出してきた。
「やっと見つけた! 何してんの2人で!?」
「別に何もしてないよ、ねぇ足立君?」
今度は悪戯な笑みを向け俺にそう言う、ますます新月も謎だ。 そして何事もなかったように美咲と俺に振る舞った。