127話 新村side2
「あははッ! 麗央君強いなぁ、お姉ちゃん負けちゃった」
「わーい! かれんお姉ちゃんにまた勝ったぁ」
新月と麗央はブロック崩しで楽しそうに遊んでいる。 麗央は楽しそうだけどずっと幼稚園児の遊びに付き合っている新月は楽しいのだろうか?
てか子供が好きなんて意外だな。 そんな風に見えないけど。 あ、麗央が新月にドツボだからか、本人もそう言ってたしな。
「学校帰りで疲れてるのに花蓮ちゃん悪いわねぇ」
「いえいえ、麗央君の笑顔見てると元気になれます、ついでに真央ちゃん」
「俺はついでかよ……」
「花蓮ちゃんも帰ってから夕飯準備するの大変でしょ? 今日もうちで食べてって? その方が麗央も喜ぶと思うし」
そう言うと新月は少し考えていたようだけどそれならと了承した。
「なんだったら明日は学校お休みでしょう? うちに泊まっていっても良いのよ?」
「おい母さん、勝手に話進めんなよ!」
「あら? お部屋余ってるんだからいいじゃない? 将来麗央の部屋にでもしようと思ったお部屋がね」
「かれんお姉ちゃん帰っちゃやだ! うちにいよーよ?」
麗央が新月の制服を掴んでウルウルした目でそう言った。 そして新月はそんな麗央にキュンとした顔になっていた。
この光景を見ると麗央の奴が女たらしに見えてきた。 新月はすっかり麗央に夢中になっている。 俺の事は嵌めたくせにな。
「えー、あー、どうしよ……」
新月が珍しく困ったように俺を見た。 いや、俺に振るなよ。 俺だって知らねぇよ、てか母さんは余計な事言うな。
「別に新月の好きにしたら?」
「じゃあ私着替え持ってくる!」
「なら真央ついて行ってあげなさい」
「ええ!?」
またかよ…… そして新月の家にまた向かう事になった。
「ねえ真央ちゃんバイクの免許あるのに乗って行かないの?」
「2人乗りなんか出来るわけないだろ俺の免許で。 あー、面倒くせぇ」
「そんな事言ってついてきてくれるんだね? やっぱり優しい。 それとも私に惚れちゃったとか?」
「はぁ?」
新月の奴は何が言いたいんだ?
「ねえ真央ちゃん、私が麗央君だけに会いに来てると思う?」
「違うのか?」
「違うよ、私は真央ちゃんにも会いに来てるのよ?」
「だってお前はカラオケの時の健ちゃんだかって奴が好きなんじゃなかったのか? なのになんで俺に構うんだよ」
そう言うと少し複雑そうな顔をした新月はにへっと笑った。
「そうなんだよね、私にもよくわかんなくてさ、麗央君が可愛すぎて最初は私麗央君の為に行ってるんだろうなって思ってたけどさ。 うーん、ハッキリしないね私」
「それだと俺の事も気になってるみたいな言い方だな」
「うん、真央ちゃんの事少し気になってる。 真央ちゃんってなんなんだろ?」
「お前ってあっさりしてるなぁ。 要は俺とその健ちゃんとどっちがいいか選りすぐりしてんだろ? 趣味悪いな」
「あはは、酷いなぁ」
サラッと新月は俺を気になっていると言っても本当にあっさりしていた。 なのでそんな事を言われた気に全くならない。
「うーん、まぁでも健ちゃんの方が最初に好きになった分思い入れは健ちゃんの方がやっぱり強いかな」
「よく俺の前でそんな事を言えるな、お前の神経どうなってんの?」
「性格悪いって言ったの真央ちゃんでしょ? はいはい、その通りですよ」
そうして新月の家に着き俺はアパートの前で待ってようとしていた。 すると……
「何突っ立ってんの? 来なよ」
「え? 入っていいの?」
「いいよ、真央ちゃん女の子みたいなもんだし」
「お前……」
「嘘だよ嘘、そんな怖い顔しないの! 私ね、健ちゃん以外で男の子家に入れるの真央ちゃんが2番目よ? 私好きじゃない人は入れないから。 まぁ好きと言っても気になってるって感じだし…… 」
そう言った新月は少し慌てたように言い直した。 本当にハッキリしないなと思ってなんだか笑えてきた。
「何笑ってんの? あー、もう…… はやく入りなよ」
「悪い悪い、お邪魔します」
うん、なんか女の子の部屋って感じだな。 健ちゃんとやらとここで何してたんだろ? なんて思ってると新月は俺にジュースを差し出した。
「これでも飲んで待っててね」
「サンキュー」
あ、あんな所に下着がある。 まぁ普段男入れてないからそうなるかなんて思ってると新月が気付いた。
「あ! こら! なんでそういうの見るかなぁ? 私だって女の子だし一応恥ずかしいんだよ?」
「お前が忘れてたのが悪いんだろ?」
新月は干していた下着をパッと取ると本当に恥ずかしかったのか少し顔が赤くなっていた。
「だってこうなるって思わなかったし…… 私もいきなりだったけど真央ちゃんのお母さんもいきなりなんだもん」
「母さんの性格もなかなかアレだったし似た者同士なんじゃねぇの?」
「あー、よく親に似た人好きになるって言うしね。 もしかして真央ちゃんも……」
そう言って新月はフフフと笑ってこちらを見た。 本当こういう揶揄う所は母さんにそっくりだな。 でもだからなのか女の子みたいと新月に言われてもこいつの明るいふざけたようなテンションのお陰で腹が立つとかそういうのはなかった。
「でもさ、今もそうだけどさっきも笑った真央ちゃんって素敵だね! もっと私の前でも素直になりなよ、麗央君みたいにさ、そしたら…… 」
「ん?」
「え? ううん、なんでもないよ! じゃあ行こっか?」
新月は座っていた俺に自然に手を差し出していた。 そして俺はその手を掴んだ。 なんて事ないつもりだろうけど手を差し出した新月自身がなんだか不思議と少し戸惑っていたように見えた。