123話 嘘の代償2
「嘘…… どうして足立君が村上さんとここに?」
「えりな、どうしてここに?」
「美咲さん……」
俺とえりなは意味は違うが同じ事を言っていた。 俺はその時急に思い出した。 前もえりなは俺を驚かそうとして密かに俺を尾行していた事に…… なんでこんな重要な事を忘れていたんだ!
「足立君を驚かそうと思ってついていったのに村上さんの所に行って何してるんだろう?ってここまで来たら……」
「え、えりな、黙っていた事は悪かったんだけどこれにはわけが!」
「あたし! 足立君の事好きって言ったよね美咲さんにも! 早い者勝ち、美咲さんがいくら美人でも美咲さんが足立君を狙ってたってあたしの方が早いもん! もうキスだってしたし」
「村上、それはいきなり村上が……」
久し振りに味わうこの嫌な感じ…… あの時の廃病院での修羅場を思い出していた。 えりなは唖然としながら急に下を向いてブツブツと言い出した。
「えりな?」
「…… つき」
「え?」
「嘘つき! 足立君の嘘つき!!」
えりなは俺に近付いて手を振り上げたかと思った瞬間俺はえりなにビンタされていた。 バチンとした音の後頬がジンジンと痛み出した。
「嘘つき!嘘つき!! 」
えりなは俺の胸ぐらを掴み泣きながら俺を責め立てる。 だが村上が俺を強引に引き離し村上はえりなに俺のお返しとばかりにビンタをした。
えりなはポカンとした顔になり村上に叩かれた頬を押さえた。
「え……?」
「美咲さん見苦しいよ? 言ったでしょ、早い者勝ち。 美咲さんが変に迷っているからあたしチャンスだって思ったの。 それの何がいけないの? 美咲さんやる気ないのかな?って思う方が普通だよ。 なのに足立君を責められる? 足立君は悪くないよ、足立君はモテるから私はそんな駆け引きなんかしない。 ストレートに奪いに行く。 美咲さんも新月さんも日々野さんも膠着してるならあたしには好都合だもん。 どこかあたしに悪い所ある? あるなら言ってみて?」
村上はえりなにまくし立てえりなに詰め寄る。
「さぁ? 何かあたしに言う事ある?」
「……ッ! あ、足立君は私の事どう思ってる?」
詰め寄る村上に圧倒されたのかえりなは村上を避けるように俺にそう問う。
「ダメだよ? 足立君に逃げないで美咲さん。 ビンタしといて言い返せなかったら足立君に助け船求めるの? それって卑怯よね?」
「わ、私はそんなつもりじゃッ! 私にとって足立君は…… あッ!」
村上はうだつの上がらないえりなから俺に向き直し俺の手を取った。
「ほら、他の場所行こう? ここ空気が悪いし」
「いや、でもえりなが…… 」
「来ないでッ!!」
えりなに駆け寄ろうとした時えりなにそう叫ばれた。
「来ないでよ……私バカみたい…… なんて惨めなんだろう」
えりなはポタポタと涙を流してへたり込んで泣き出した。
「ほら、本人もああ言ってるし足立君が行ったら余計に美咲さんが惨めになるだけだから行こう?」
「…………」
俺は村上に手を引かれその場を離れた。 俺がこの誘いを断っていれば…… 俺は少し歩いた所で止まる。
「美咲さんの事が気になる?」
「え?」
「足立君は悪くないってあの時は言ったけど足立君も本当は悪い所あるんだよ? 美咲さんを好きなのにあたしのこんな誘いに乗ったりして。 あたしは嬉しかったから別にいいんだけどね」
「う……」
そう言われると本当にそうだ。 だけどえりなを放っておいてこのまま村上となんて……
「どっちにしたって今戻ったって何にもならないよ? 美咲さん何も受け付けそうにないし、嫌な気分になるくらいならあたしと楽しもう?」
村上は俺を押し倒し俺に跨がる。 そして再び俺にキスをした。 やっぱり違う、 こんなの違う。 俺は何しに戻って来たんだよ? えりなの為だろ!
俺はキスする村上を退かした。
「足立君……」
「ごめん、村上。 俺やっぱりえりなの事が好きなんだ」
「足立君!」
俺は立ち上がりえりなの所へ戻る。 いてくれよ、えりな!
高台の方へ戻るとえりなはまだそこでへたり込んで泣いていた。 俺の足音に気付いたのかえりなはこちらを見上げた。
「来ないでって言ったのになんで来たのよ?」
「俺えりなに嘘ついて村上に会ったのは確かだ。 嘘ついてごめん。 だけどこんな事になるなんて…… て言い訳だな。 村上が俺の事好きだって知ってて行ったんならこうなるって別れよって思うよな、山菜採りの時花火一緒に見ようって言われて約束しちゃったから黙ってたんだ」
「…… もういい、こっちこそぶってごめんなさい。 村上さんは?」
「あ…… えりなの事で頭いっぱいで。 置いて来ちゃったわ。 俺ってどうしようもないな」
「どうしようもないのは私も。 さっき村上さんに何も言い返せなかった……」
俺とえりなはしばらく沈黙した。 俺はどうしていいかわからずにとりあえずえりなの隣に座った。
「てかどうして足立君は私に謝るの? 足立君は私をどう思ってるの?」
えりなは涙混じりの目で俺を見つめてそう言った。 俺はえりなの事が…… 好きと言いたかったけどえりなに黙って村上と会っていた俺がそんな事言えた立場じゃないのでえりなから目を逸らした。
「そう……」
えりなは力なくそう答えその日の夜は終わった。 大事な話って結局どうしたんだ? なんて言えるはずもなかった。