12話 えりなの笑顔
次の日学校に登校すると隣に見知らぬ女の子が座っていた。 いや、知っているけど俺の知らない日々野の姿だった。野暮ったいおさげは解かれ長い前髪は切られほんのりと化粧をしていた。 思わぬダークホース的な存在になった日々野にクラスは騒つく。
なんの心境の変化だ? 昨日美咲に地味子と連呼されたのが堪えたのか? だけどとても可愛らしくなった。
「なあ健斗、お前日々野になんか言ったのか?」
「いや別に俺は何も……」
「へえ、日々野さん凄く可愛くなったじゃない」
日々野の変化に新月も少し驚いている。 だがすぐに新月は上野に向き直り上野と2人の空間を作り出した。 だが今日は美咲に言われた野外演習の班を上野達に言わなければならない。 美咲の制服を台無しにした俺は仕方ないので提案してやる事にした。
よくよく考えたら別のクラスと一緒になれるが美咲だけ別のクラスだな…… まぁいい、逆に上野と新月のラブラブぶりを見て発狂しても知らないからな。
「あのさ上野、野外演習あったろ? 俺と一緒の班になるよな?」
「ああ、もちろん」
「上野君が足立君と一緒の班なら私も当然入るからね!」
可愛らしく新月は上野と俺にそう言うが俺はお前の本性を知っているので素直に可愛いと思えなくなったよ…… そんな俺の反応を新月は不思議に思ったのか俺を見て少し首を傾げる。 おっと変な態度取ったら勘付かれそうだ、新月と美咲は要注意だ。
「それでな、美咲の奴も俺達と同じ班になりたいんだってさ」
俺がそう言った瞬間新月は少し表情が変わったような気がした。 来るなら来なさいと言ったような感じか……
「ふぅん、美咲がねぇ。 もしかして健斗が居るからか?」
なんてお気楽で鈍感な奴なんだ…… お前狙いだよと心の中で呟いた。 だけどある意味知らない方が平和でいられるのかもしれない。 こいつだけな! 俺はお前が美咲と付き合ってくれないと困るんだよな。
「いやぁ、どうかな? 案外上野が居るからじゃないか?」
「何言ってんだよ? 俺には新月が居るんだから流石にそれはないだろ」
それがあるんだよ! そんな上野を見て新月は「だよねぇ」と上野に甘えるように言う。 あざとい奴だ、まぁ本性知ってるからだけど。
「そうなると私達入れて4人ね、もう1人誰を誘おうかしら?」
「日々野でも誘おうかなって思ってたけど」
「わぁ、やるじゃん足立君。 今日で日々野さんのハードル物凄く上がっちゃったけど隣の席でそれなりに足立君と日々野さんも仲良かったしね、大丈夫じゃない? それにしても上野君、美女ばかりで浮気したら私泣いちゃうんだから!」
「いや、日々野を誘ってOKするかもまだわかんないし決まったって言うのはまだ早いよ」
あんな事があった後で変態と罵られてもおかしくない俺の誘いを日々野は受けてくれるだろうか? 美咲もいるしなぁ、案外優しいのかもと日々野は言っていたけど一緒に行動するのは勘弁という可能性だってあるし。
てかイメチェンした日々野の人気凄いな、俺の席に他の男子座って日々野と話しているから席に行けないじゃないか。 いつもは日々野をガン無視してたような奴らも見た目が変わっただけで日々野に接するなんて現金な奴らだ。
そしてようやく授業が始まる少し前になり他の奴らも席に戻り始めたので俺も自分の席へと戻る。 俺が来ると日々野は俺をチラッと見て下を向いてしまう。 ああ、この反応誘っても無理かもしれないな。 昨日は誤解が解けて元に戻れたと思ったけどよくよく考えると危なそうな奴と認識されちゃったかな?
そう思って日々野が断ったら誰を誘うか考えていた所に日々野の視線に気付き俺は目をやるとなんだか遠慮がちに俺の事を見ていた。 そして思い出す、美咲が日々野が俺の事を好きと言っていた事を。日々野が俺なんかをな…… 美咲の言う事が本当にそうだとしたら俺って結局日々野の事をどう思ってんだろ?
「あ、足立君、私変かな?」
「え? どうしてだ? 凄く可愛くなったじゃん」
「可愛い? 足立君、そ、それって私の事可愛いって思ってるって事の解釈でいいの……かな?」
「いきなり変わらなくても前から日々野は元が可愛いと思ってたし今更だろ」
そう言った途端日々野の顔がボッと赤くなり俺から目を逸らし下を向いた。 ヤバ…… なんか変に気不味くしてないか?
誘い辛くなってきた。
そして先生が来てしまい俺も前を向く。そして時折隣から日々野の視線を感じた。 俺に好意があってもなくても俺と美咲のあの場面を見てしまったし昨日の今日なのでやはりまだ引きずっているのだろうか? ちなみに俺はめちゃくちゃ引きずっているけど。
でもこのままじゃ話が進まない。休み時間になり俺はまた日々野の周りが騒がしくなる前に単刀直入に言った。
「日々野、野外演習一緒の班にならないか? 俺と上野と新月、それに…… 美咲も居るんだけど」
「ほえ? 私、私が入っていいの!?」
「え? だから誘ったんだけど……」
「入る!私も入りたい!」
若干前のめりになっている日々野に少し圧倒されてしまったが俺の事はとりあえずそこまで変に思ってはいないようなので安心する。
そして案の定騒がしくなり始めたので俺はその場から一旦退散した。すると後ろから肩をグイッと掴まれ廊下に出された。 この強引さは美咲かと思うとやはり美咲だった。
「どう!? 私と上野君は一緒?」
「ああ、安心しろ、一緒だ」
「そっか…… そっか! よかったよかった! でも当然あのクソ女も金魚の糞よね?」
クソ女と言ったり金魚の糞と言ったり新月に対してはとことん口が悪いな……
「まあな、 だけどそこは承知の上だろ?」
「そうね…… でも足立君ちょっとは役に立つじゃないの。見直しちゃったわ!」
「じゃあ画像削除してくれ」
「調子に乗らない!」
美咲ははにかんだ笑顔で俺のおでこに人差し指で突いてそう言った。 あ…… 普通に笑った。 別に美咲以外なら思う事のような事でもないのだがこの時はなぜかそう思った。