118話 健斗&えりなside
えりなに手錠で繋がれて来た道を引き返していた。 どこも同じに見えるなと帰り道に集中しているとえりなの視線を感じた。
俺がえりなに向くとプイッと目線をズラす。 なんだよ、言いたい事あるならハッキリしろよ。 あ! そういえば森の中で迷った時こいつ心中しようとしたんだ。 まさか手錠で繋いだのも俺を逃げられないようにする為では……
えりなの事は好きだけど森で迷って諦められて心中されたら困る。
「何ソワソワしてるのよ? 怪しいわよ?」
「えりなこそさっきからチラチラ見てなんだよ?」
「だって足立君が迷いなく進むから帰る方向わかってるのかなって思っただけよ」
「その言い方だとお前全く帰り道覚えてないだろ?」
その時持っていた懐中電灯がふと消えた。 電池切れかよ……
「え!? 真っ暗じゃない!」
「おい! 手錠で繋がってるんだから暴れるなって」
「ど、どこ触ってるのよ?! 足立君暗いから何したっていいと思ってるんでしょ?」
「だったらこの手錠外せよ!」
「外して逸れたら私1人だし迷子なんて恥ずかしいじゃないの!」
相変わらず無茶苦茶言う奴なんて思ってると携帯のライトを使えばいいやと思いライトを点ける。
「ほら、これで明るくなったろ?」
「ライトで顔照らさないでよ!」
ライトでえりなを照らすとえりなは顔が真っ赤になっていた。
「ていうか道わかんなくなった……」
「まったく、なんで足立君は方向音痴なのかしら?」
「それ俺もお前に言いたい」
「はぁ、コテージに戻りたいわ。 とりあえず歩きましょう?」
とりあえず歩くって…… どんどん迷子が加速していくような気がしてならないのだけど。
そして森の中を彷徨いえりなとしばらく会話なく歩いている。 えりなをチラッと見るとムスッとしているように見えたので一応謝っておこう。
「なあ」
「何?」
「ごめんな、方向音痴で」
「…… 私こそ方向音痴なのに怒ってごめんなさい」
えりなが謝った、なんて珍しい。 こりゃ心中の一歩手前な状態なのか!?
「えりな、変な考えは起こすなよ?」
「何よそれ? それ私が足立君に言いたいんですけど? 一体何を考えてるのかしら?」
「いや、えりなが心中するのかと……」
「はい? 心中? 何言ってるのよ、そんなのするはずないじゃない、あはははッ!」
何がおかしいのかえりなは笑い始めた。 お前、前は俺にカッター首筋に当てて心中しようとしてたくせに!
「何言い出すかと思えば、あははッ! 私ね、半年の命だけどそれまでになんとかしてやるって思ってるのにみすみす死ぬなんてあり得ないわ」
「な、なんか強くなったな、えりな」
「さっきから何言ってんのよ? しっかりしてよね。 もう」
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足立君と森の中で迷子になってしまって足立君がいきなりおかしな事言うから笑っちゃったじゃないの。
私が強くなったって? 多分それは足立君のお陰。 なんだか彼と知り合ってから前より楽しくなった。 お母さんやお父さんに叱られても彼がいると思ったらなんて事なかった。
上野君の事は残念だけどそれより自分が足立君の事を考えている方が多くなっている自分に戸惑っていた。
隣を呑気に歩いている足立君にはわからないでしょうけどね。 どうして私は足立君の事をこんなに考えているんだろう? あの日御社で不思議な出来事があったから?
ううん、それはただの幻として私の中では完結した。 だけど足立君が私の家に来てキスの練習とか言って足立君とキスをした時私は足立君の事……
キスをしてわかったんだ、足立君とのキス、私は自分でも驚くくらい胸が締め付けられた。 会って間もないのにそんな事した自分にもビックリだったけど何より泣きそうなくらい嬉しかった。 嬉しかった? なんで嬉しかったの? 私は考えてもわからなかった。
これじゃあ私足立君の事が好きみたいじゃない。 ポッと出の足立君を私が? その時はないないと自分に言い聞かせてた。 ただの気の迷い、足立君を上野君に重ねただけと。
そして上野君に実質的にフラれたような次の日足立君は私を励まそうと柄にもなく強引な振る舞いで私を引っ張り回した。
ちょっとムカついたけど私は足立君と一緒にどこかへ遊びに行く事を選んだんだ。 足立君に励ましてもらいたかった? 誰でもよかった? いいえ、足立君だから……
これはもう気の迷いとかじゃないのかもしれない、私彼の事が好きなのかも。 だけどもし足立君が私に気がなかったら? 写真で脅したから仕方なく私に付き合ってるだけ?
もし彼が私に気がなく私は足立君に告白してダメだったら元の生活に逆戻り。 それって耐えられる? 花蓮ちゃんや地味子、村上さんとか足立君にとってはよりどりみどり。
特に花蓮ちゃんが居るのに私を足立君は好きになるだろうか? ていうかなんか私らしくない……
もっと私は強引で手段を選ばなくて。 足立君を好きだって思うとそんな行動も取れないくらい私は戸惑っているの?
私がそんな風に考えているのを知らないで足立君はキョトンとした態度で私を見たのでなんかムカついた。