112話 迷走
家に帰ると母さんが珍しく怒っていた。 理由はサボった時からわかってる。 学校から連絡がきたのだろう。
「健斗! どういう事かしら? 健斗はそんな子じゃないと思ってたのに」
「あー、ちょっとこれには理由があってさ……」
「理由?」
「この前えりな連れて来ただろ? ちょっとあいつ悩んでたようだから気分転換って事で俺が無理矢理学校サボらせた」
母さんは「ああ、えりなちゃん!」といってポンと手のひらを拳で叩いた。
「それでさ、俺お金なくてえりなに全額負担してもらったからさ、お金欲しいんだけど…… いいかな?」
「なぁんだ、そういう事! 誘っておいてえりなちゃんに払わせるなんてお母さん恥ずかしいわ。 一万円預けるから今週の休みえりなちゃん誘ってこれでお詫びしなさい」
母さんは財布から一万円を俺に預けた。 母さんこういう話になると甘いから助かる。 サボった事も大目に見てくれそうで安心だ。
「ところで健斗、そこまでするって事はえりなちゃんって健斗の彼女?」
「え? なんでだよ?」
「だってえりなちゃん凄く美人じゃない! だったらお母さん嬉しい!」
そしてこの手の話題になると凄くウザくなる…… そういえば前の世界で俺が死んだ事ってどうなってんのかな? 時間が戻ったならなかった事になってるんだろうけどここがあの世界とは別だったらそのまま進行してた事になって俺って物凄い親不孝者になってただろうな。
父さんや母さん、響紀も悲しんだだろうなと思うとやり直せて本当に良かったと思う。 まぁ俺しか覚えてないからな。
えりなにも花蓮にも沙耶にも上野だってあの時の事は覚えてないしそもそも起こってない出来事だ。 まぁあんな事あったなんて誰にも知られたくないけどな。
次の日学校へ行く途中えりなが待っていたけど少し様子が違った。 頬が少し腫れていた。
「おはよう」
「おはよう…… どうした? 頬っぺた腫れてるぞ?」
「別に…… なんでもないわ」
えりなは素っ気なく返事した。 そうか、俺が親に連絡行ったようにえりなの家にも…… そしてえりなも怒られたんだな。 あの親ならやりそうだ。 てか俺の行動も軽率だった。
「ごめんな、えりな」
「なんで足立君が謝るのよ?」
「俺が勝手に連れ出したからだろ? それ……」
「足立君のせいじゃないわ、こうなるってわかってて私も行ったんだもの。 私も気分転換したかったの。 だからどうって事ない」
そんな事言われたってなぁ、気にしないわけないだろ?
「これから気をつけるよ」
「だから気にしてないってば。 昨日はあんな強引だったくせによく言うわよ」
「落ち込んでるえりなを元気付けたかったからだよ」
「なら休みの日に…… 誘ってもいいわよ」
え? 最後の方はよく聞こえなかったけど遊んでくれって事か? とりあえず前進したって事?
「じゃあ今週末またどこか行くか?」
「今度はちゃんとお金あるんでしょうね? 今度私にお金縋ったら手錠掛けるわよ?」
掛けてどうすんだ? って言いたいけどこいつの場合本当に持ってるからな…… でも前のえりなみたいに凶器出して無理矢理脅してこないのは良い意味で捉えていいんだよな?
そして学校に着くと俺の隣に知らない人が…… ってこんなの前にもあったよ。 沙耶が唐突にイメチェンしていた。 なんでだ!?
「さ、沙耶? どうしたんだ?」
「私も…… 少しお洒落してみたくなって。 健斗君、私変かな?」
「いや、可愛いけど……」
俺今回そんなキッカケ沙耶に与えたか? そして俺はハッとした。 まさか村上からノート借りた事で沙耶が対抗意識で?
「健斗君、他の人に頼らなくていいから…… わ、私が隣に居るから何か忘れた時とか私に言ってくれていいから」
やっぱりかぁ…… 同じような道を辿ってしまった。 あれ? でもそういう事は最終的にはあのバッドエンドも辿ってしまうって事か!? 違いが些細だから?
もっと根底から覆すような変化が必要って事か? でも確実に前とは違くなって来ている所もあるんだ。 些細な違いで大きく変わるってのは俺の楽観思考なのか? どっちなんだ?
「健斗君、そういえば昨日なんで学校休んだの? 新月さんも少し気にしてたよ?」
そうなるよな。 花蓮は少しとかじゃない気もする。 だってえりなも休んでる事に気付かないわけないから。 花蓮をチラッと見ると俺にニコッと笑顔を向けるがその裏に何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。
俺はなんとなく教室から廊下に出る。 はぁ〜、何か聞かれたら上手く誤魔化す言い訳なんかを考えていると声を掛けられた。 少し緊張した様子の村上だった。
「足立君おはよう」
「ああ、おはよう。 なんか用か?」
「昨日言おうと思ったんだけど足立君休みだったみたいだから…… あのね、今度のお休み暇かな?」
「今週末?」
えりなと遊びに行こうかと思ってたんだけどなぁ。 まぁえりなが優先だ。
「その日えりなと遊ぶ約束あるんだ」
「美咲さんと…… じゃああたしも一緒ってのダメかな? 正確にはあたしとあと知り合い数人なんだけど」
「うーん、えりなに聞いてみないとな」
「あ! だったらあたしが美咲さんに聞いてみるよ! よかったら遊ぼう?」
そう言って村上は自分の教室に戻って行った。 えりなの奴いいよって返事するかなぁ?
「聞いちゃった!」
「うわッ! 花蓮、上野もどうしたんだよ?」
「面白そうじゃん? 私らも混ざっちゃおうかなぁ?」
「ええ? マジで言ってんの?」
花蓮は満面の笑みで「そうだよ!」と明るく言った。 上野も乗り気だ、なんか微妙な雰囲気になってきた……