11話 やっぱよくわからない
体育の授業が終わりみんな教室に戻ってくると教室の扉から美咲がこちらを覗いていた。 正確に言えば日々野の方だが…… 日々野を見つけたジャージ姿の美咲は教室に入り新月を一瞥し明らかに舌打ちをして日々野の手を掴み教室を出た。
そしてしばらくして日々野が先程まで美咲に貸していたシャツを着て帰ってきた。 俺は日々野に今声が掛け辛いが一応聞いてみた。
「日々野それって……」
「えっと、美咲さんが返してくれたの。私の服着てるとデブに見えるからいらないって……」
あいつは感謝という言葉を知らないのか? 素の態度は上手くみんなの前では誤魔化しているようだけど本性を見せた相手にはとことん容赦ないな…… まぁ事故とはいえ今回あいつの服そんなにしたのは俺のせいだけど。
「なんか美咲さんって酷い人のように見えたけど案外優しいかもね…… だから足立君も美咲さんにあんな事」
「いやいや、それは誤解なんだって! あいつが俺の事嵌めて写真を撮ったから俺は取り返そうとしてあんな事になったんだ」
「服の中に手を入れて?」
「いや、それはあいつが服の中に携帯を……!」
俺はだんだんと否定する度に声が大きくなってしまっていたので一旦会話を止める。 すると新月と目が合うと笑顔で手を振られた。 あいつは俺が美咲とのやり取りを聞いていたのは気付いてない。あんな笑顔を振りまいているが中身は美咲並みの性悪女だ、これからは注意して接した方がいいかもしれない。
「そっか、そういう事なんだ。うん……」
日々野は納得したのかしてないのかなんだか曖昧だ。 というより少し距離が開いたような気がするが。 美咲の奴……
そして授業が終わりこれ以上今日は学校に居たくなかった俺はササッと帰る準備をして俺は教室を急いで出て昇降口へと向かった。 美咲の姿もない、よし! 今日はあいつに振り回されなくて済むと思い下駄箱から靴を取ろうとしたらガシッと腕を掴まれた。
まさか美咲かと思い憂鬱な気分になりながら振り向くと日々野だった。 日々野は少し息を乱しながら「やっと追いついた」と俺に言った。
「あ、あの…… 今日はごめんなさい!」
「え? なんで日々野が謝るの?」
「だって…… 私足立君と美咲さんの事邪魔して。 そ、それで足立君に変に気を遣わせちゃって」
やっぱり日々野は俺と美咲の事をまだ俺が好きなんだと勘違いしているようだった。 もう学校を出るので遠慮しなくて済む。
「いいか日々野、俺は別に美咲の事は好きとかじゃないし無理矢理付き合わされてたんだ、さっきも言った通り写真を撮られて脅されて。 だから昼休みは取り返そうとして美咲は服の中に隠したんだけど俺ももう無理にでも取り返そうとしてああなってそこに日々野が来ちゃったんだ。 それだけだ」
「でもそれだったらなんで美咲さんは私と話してた時合間合間で少し悲しそうな顔になっていたの?」
「え? 俺には見えなかったからわからないけどあいつの演技だろ? あいつはそういう癖があるからよくわからないけど美咲は上野一直線だし俺もそれはわかってるからなんでもないさ」
あいつはまったく何を考えているのかわからないからな、どんな顔にどんな意味すら持っているのか掴み辛い。
「良かった」
「うん?」
「ううん、足立君とよく話せた気がした! じゃあやっぱり私の勘違いだね?ごめんなさい、引き止めちゃって」
ようやく理解してくれたか、まったく美咲が絡むとややこしくなる事ばかりだ。あいつと会わないうちにとっとと行かなきゃと思い日々野に今日はいろいろと悪かったな、また明日と言って学校を出た。
はぁ、ようやく家に帰れる、ここ数日は遅かったしいろいろあったので疲れた。今日は帰ったらまず寝よう、そう思いながら美咲の家も通り過ぎると……
「今日は早いのね」
横から声を掛けられた。 この場所でこの声はまさかと思い恐る恐る声の方向へ顔を向けると美咲が家の玄関の前に立っていた。 ついでに機嫌も悪そうだ…… 水中から息も絶え絶えでやっと水面に出そうな時にまた水中に引きずり込まれた感覚になる。
「なんでお前ここに?」
「誰かさんが私の制服引き裂いたからでしょうが。 それで? 私の地味子と足立君がくっつけ大作戦上手くいった?」
「え? あれってそういう事なの? てっきり日々野を追い詰めていただけかと……」
「はぁ、私があそこまでしてあげたのにそれってあんまり進展しなかったようね。まぁ足立君と地味子なんてどうでもいいけどあのクソ女と上野君の事放ったらかして何帰って来てんのよ!?」
言われると思った…… 美咲は俺に詰め寄り俺を責め立てる。 迂闊だった、回り道してこいつの家を通らないで帰るべきだった。 だけど俺を責め立てる割には通り掛かった時よりは機嫌が悪くなくなったように見えた。 まぁウザい事この上ない事は変わりはないが。
「足立君わかってる? 上野君と私が付き合えないと私死んじゃうの。足立君はそれがわかっててもし私が死んだら寝覚めが悪くないの? 遺書にも書くよ? 足立君のせいで死ぬ事になりましたって」
「それはズルいだろ!」
「頼りにしてるんだから役に立ちなさいよ! あ、それとね1週間後に野外演習あるでしょ? クラス合同の」
ああ、そんなのあったな。 ここ数日大変だったから頭からすっかりそんな事抜けてた…… ま、まさかな。
「その顔は察しが付いているようね? なら話が早いわ」
美咲はクククと不気味に笑い始めた。 だからいちいちホラーのような演出するのやめろよ……
「足立君は私と同じ班になりなさい、もちろんその中に上野君も入れてね。 そうなるとあのクソ女も付いてきそうだけどまぁそれは仕方ないとして班は5人だから…… 後はあの地味子でも入れればメンバーは決まったも同然ね」
「また勝手な事を…… そう簡単に思い通りにいくわけないだろ?」
だが美咲はまったく話を聞かずもうそのメンバーでこいつの頭の中は決まっているようだ。 野外演習は二泊三日、何か間違いが起こりそうな気がする。珍しく班のメンバーと部屋が男女別れておらず同じなんだよな…… うちの学校何考えてんだ?
そんな所にこいつを解き放ってしまえば新月とバトルが起こり再び修羅場…… いや、考えたくもない。
「いい? そういう事でその時は足立君は私の為に存分に活躍しなさいよ? なんとしても上野君をあいつから奪い取るんだからッ!」
「お前いくら新月から上野を離そうとしても上野がお前を好きだと思うか?」
「そんなの私があいつより上野君を愛してあげれば大丈夫でしょ! 私が憎くて私の嫌がらせの為に上野君に近付いたあいつなんかより私の方が絶対相応しいに決まってるんだから!」
「うん、そうだな。 じゃあ帰るわ」
もう面倒なので話を切り上げて帰ろうとすると話はまだ終わってないと引き止められる。 勘弁してくれよ…… 制服の件があるので俺もそこまで強引になれないのでしばらく美咲の話に付き合わされた。