104話 家にご招待
「ふう〜ッ! やっと山から学校に戻れたね! もうびちゃびちゃで気持ち悪い」
「お前がこんな日と時間に行くからこうなるんだろ? 俺なんて泥だけだよ、どう説明したらいいもんか……」
なんて2回目ともなると展開がわかってるから大した事はないけど。
「な、何よ!? ジッと見て……」
するとえりなが自分の濡れて透けている制服を見た。 そして透けてる部分をパッと腕で隠す。 あれ? 前はサービスとか言って見せてきたくせに何やってんだこいつ?
「この変態ッ!!」
「いてぇッ!」
みぞおちにえりなの右ストレートが直撃した。 殴られる展開は同じだけどまたみぞおちかよ……
「やっぱり足立君私の体目当てなんじゃないでしょうね!?」
「体目当ても何もこんな所に連れて来て振り回してるのはお前だろ?」
「私女の子なんだから気を遣いないよ! って話聞いてる!?」
そろそろ電波が入る頃なので携帯を見てると母さんや響紀から電話が何回か掛かってきてる。 なのでメールを入れておいた。
「携帯なんか弄って花蓮ちゃんにでも報告してるんじゃないでしょうね?」
「いや、花蓮じゃなくてうちの家族が心配してるだけだよ」
「へぇ、足立君のご両親は心配してくれるんだね…… だったらやっぱり私も謝りに行くべきね」
「え? ああ、ありがとな。えりな」
前とは同じようで違う会話だしえりなの態度も幾分柔らかい。 御社の時も前回と全然違ったし俺が気絶した時に何か前と違う事があったのか?
そんな事を考えながら家に着いた。 玄関を開けると前と同じくうちの家族全員が出迎えた。
「健斗! 一体こんな時間まで! …… ってあら? そちらのお嬢さんは?」
母さんが怒るのを辞め美咲に注目する。 母さんだけじゃなく父さん響紀も一斉に美咲を見た。
「こんな時間にごめんなさい。 私は足立君と同じ学校で同級生の美咲えりなと申します。足立君に不良に絡まれている所を助けてもらって…… そのせいで足立君泥だらけになっちゃって」
そうそう、前にもこんな嘘ついてたよなえりなの奴。
「まぁそういう事なんだ、母さん悪いけど美咲に何か温かい物でも飲ませてやってくれないか?」
「え? あ、ああ、そうね。えりなちゃん、怖い思いしたのね、どうぞ上がって? 」
「お、お兄がこんな美人な人を助けたなんて……」
「奏、それとタオルも持ってきた方がいいな、えりなちゃんもびしょ濡れだ」
父さんにそう言われ母さんはせかせかと風呂場へ行きタオルを美咲に渡して紅茶を淹れた。
「いただきます」
余程俺が女の子の美咲を連れて来たのが珍しいのか家族一同美咲をジッと見ていた。
「ほぁ〜、えりなさんってやっぱり凄く美人……」
響紀は美咲に見惚れて間が抜けた声でそう呟く。
「健斗ったらいつの間にえりなちゃんみたいな子と仲良くなったのかしら? もしかして昨日帰りが遅かったのもえりなちゃんと居たから?」
「はい、足立君にもうちょっと一緒に居てくれって言われて……」
「ああ、そうだよ」
あ…… 思わず俺の本音が出てしまった。えりなも全く間髪入れず俺がさも当たり前のようにそう言ったからほんの少し驚いているような気がする。
「お兄不潔よ! えりなさんと何してたの!?」
「何もするわけないだろ!?」
「ま、まぁ奏と俺も高校生の時はこんな感じだったかもしれないけど節度は守れよ健斗?」
「いや、だから……」
会話自体は同じなのになんだかえりなの雰囲気が若干違うから少し戸惑う。
「えりなちゃん可愛いから変な人に絡まれやすいのかもしれないわね、健斗じゃちょっと頼りないけどちょっとは役に立ったようでお母さん嬉しいわ」
「…… いえ。 今日は本当に足立君のお陰で助かりました」
なんだか俺の発言が違うせいかわからないけど前とは違ってえりなは少ししどろもどろになっていた。 えりなの態度も気になるし前はしなかったけど今度はえりなを送っていくか。
「じゃあ私これで失礼します、紅茶ご馳走さまでした。とても美味しかったです」
「こんな暗いし遅いからさ、俺えりなを家まで送ってくよ」
「え!?」
えりなはそんな俺の発言にビックリしてたけどうちの家族は大賛成のようだった。 そしてえりなの家に向かう最中……
「わざわざこんな事しなくてもいいのに……」
「まぁ変な奴いたら怖いだろ?」
「私の隣にその変な奴が居るんですけど?」
「あはは、一本取られたな。 まぁえりなの家族も心配してるかもしれないだろ? 俺だってえりなが怒られるなら一緒に怒られてやるよ? これでおあいこだろ?」
するとえりなの表情が暗くなったのがわかった。 一応確認のつもりだったけどやっぱりえりなは前と同じく両親に冷たくされているようだ。
「バカじゃない? 私の親はあんたのとこの親と違うから…… でも気持ちだけ受け取っておくわ」
えりなの家に着くと家には灯りが点いてない。 どうやら両親は帰ってきてないようだな。
「じゃあ風邪引かないようにしろよ?」
「足立君……」
「なんだよ?」
「うちの親まだ帰ってきてないようだし………… お茶でも飲んでいく?」
物凄く迷いながらえりなはそう言った。