運命のヒト。
「俺、レオ=エレナオールはエミリア=アルバータの不義を持って、婚約を破棄することをここに宣言する!そしてこのターニャ=パメラディアス男爵令嬢と婚約を結ぶっ!」
ホールの真ん中で自信満々に口上を述べ立てるこの方は、帝国の第二皇子であり、私の……婚約者でもあります。
今は、国内だけでなく国外からも重要人が集まる大切なパーティーの真っ最中。
国の皇子ともあろう方がこんなことをしでかすなんて、国の品位が疑われるのですが、何してくれてるんでしょうかこの馬鹿め。
音楽も止まり、皆がこちらに注目しています。
うぅ〜。視線が痛いっ
「アルバータ、何か反論があるなら言ってみろ」
反論?あるに決まってます
完全なる濡れ衣です。
こうなったらもう、手心は加えません
「不義、とは何のことでしょうか」
「白々しいぞアルバータっ
お前は此処にいるターニャ嬢を恫喝し、危害を加えたのだろうっ!今此処でお前の罪を断罪するっ」
皇子のそばに立つ小柄な少女は瞳をうるませ、此方を伺ってきます。
貴族界で顔の広い私ですが、会ったこともないですね。まぁ、名前ぐらいは知っていますが。
ついこの間パメラディアス男爵の養子になった平民出の令嬢でしょう?婚約者がいる男をたぶらかすと悪評が広まってますよ。
へぇ〜、殿下はその子の味方をするのですね。へぇ〜そうですか、よ〜く分かりました。
「濡れ衣でございます殿下。私にはこの令嬢を虐める理由がございません」
「まだ言うかアルバータっ」
まだ一度しか言っておりませんが。
「お前はターニャに嫉妬して、虐めたのだろう⁈」
「私には嫉妬する理由がありませんって
何度言えば分かるのかなこの馬鹿皇子。」
「ば……馬鹿⁉︎」
「あ、私としたことがつい本音が」
「お前は、俺とターニャがイチャイチャしているのを見て嫉妬したのだろう?」
自覚あったんですね。
「婚約者がいる身でありながら、他の令嬢と逢引だなんて。不義があるのはそちらではなくて?」
「煩いっ」
はぁ……
「まぁ、一応聞いておきますけど虐めるとはどのような内容で?」
「えっ……えと、その、あのだな……」
「はぁ……」
濡れ衣を着せるにしても、もう少し設定を作り込んでおいてください。
そんなんでよく断罪するなんていえましたね。
「しょ、証人もいるんだっ!出て来い」
……誰も来ませんけど?
まあ、こんなことしでかす馬鹿が一人だけで良かったです。
「……まぁいい。証人なんていなくても、本人に聞けばいいだけだ。
ターニャ、このアルバータに虐められたんだよな」
「はいっ、エミリア様に階段から突き落とされたり、ドレスを破かれたりしましたっ……怖かったですぅ」
「ターニャが言ってるんだ。間違い無いだろう」
殿下が馬鹿なのは知っていましたが、此処までとは……。
「パメラディアスさん、もっと具体的に教えてくださる?」
「えと……一昨日の夕方、帝国の王城で開かれた茶会のときに、ドレスを……」
「残念ながら、その茶会に私は参加していません。我が国の下町で、炊き出しをおこなっていました」
「ふぇっ……」
まだまだ甘いわパメラディアス。
「まぁ、婚約破棄はしてもいいですよ」
「本当かっ⁈」
「えぇ。私、エミリア=アルバータはレオ=エレナオールとの婚約を破棄致します」
「よっしゃあっ!」
「では、私が帝国に留まる理由はもうございませんので我が国に帰らせていただきます」
「あぁ……?我が国?」
「こんの馬鹿息子がぁっ」
あら、帝国の国王がいらっしゃいました。茶髪にスカイブルーの瞳の、まだ若い国王様です。
「何故アルバータ様との婚約を破棄した⁈」
「この女に様なんてつける価値はないですよ。父様」
「何を言う⁉︎この方はあの大国、ウィッシュ国の姫君だぞ!」
「えぇっ……こいつが?」
「長年交渉して、やっと取り付けた婚約だったのに……」
「そんなことより父様。俺とターニャの婚約を認めて下さい」
「……分かった認める」
「「やったぁ……」」
「お前には幻滅した。お前とターニャ=パメラディアスを国外永久追放に処す。レオ、お前はもう二度と帝国第二皇子を名乗ることを許さない。精々頑張って生きることだな」
「な、何故っ」
「連れて行け」
パメラディアスと馬鹿皇子……いや、もうただの馬鹿な人は、衛兵に連れていかれた。
「そしてアルバータ様、今回の無礼をどうかお許し下さい」
「大丈夫です。こうなることは分かっていましたから」
「分かっていた……?あぁ、なるほど」
国王は私の瞳をみて頷きました。
緑色の瞳は全てを見通す。私には千里眼の能力があります。
「婚約を破棄されることを知っておりながら婚約を結んだと……」
「ふふっ、ではまた」
んー、私の運命の人はまだ来ないのかしら。茶髪にスカイブルーの目をした男の人は……。