8. 打ち明け話
転生を両親に打ち明けます。少し長くなってしまいました。
13時と18時に2話投稿してるので読み飛ばしにはご注意ください。
「そのことでお父さま、お母さま。お話があります」
前世の記憶を思い出したことを両親に打ち明けると決めたわたしは、居住まいを正して切り出した。
「わたしには、前世の記憶があります」
「前世の記憶……?」
「はい。昨日から今日にかけて、わたしは高熱を出していましたが、その時に前世の記憶を思い出したのです。今はわたしの記憶と前世の記憶は統合されて、一つのものとなっています。前世のわたしはこことは別の世界……、異世界の日本という国で生まれ、25歳の、だ、男性、でした……」
自らが男だったことも打ち明けるが、さすがに躊躇してしまう。
「なんてこと……」
「お母さま。黙っていてごめんなさい。前世のわたしはある研究機関の学生で、最後の記憶はぼんやりとしていますが、徹夜続きの過労で死んだものと思われます。だから、わたしは……、もしかしたらもう、お父様とお母さまの本当の子どもじゃないのかも、しっ、しれないのです……」
話しながら、涙が出てくる。もしかしたら両親に拒絶されて捨てられてしまうかもしれない。前世の記憶がよみがえったとはいえ、多少前世の僕に引きずられているところもあるが、意識の主体はわたしだ。わたしには物心ついてからこれまでの両親や兄弟との記憶がしっかりとある。それがよみがえってきたら、もう耐えられなかった。
「クレアちゃん!」
お母さまが席を立ち走り寄ってくる。もしかしたら、ぶたれるのかもしれない……、そう思っていたところで、お母さまに柔らかく抱きしめられた。
「クレアちゃんは、クレアちゃんよ! たとえ前世の記憶があったとしても、ここにいるのはわたしたちの大切な子どもなの。だから、そんな悲しい顔しないでほしいの」
「そうだ。レティシアが言ったようにクレアは私たちの大切な娘だ。決して家から放り出すなんてことはあり得ない。心配しないでくれ」
お母さまとお父さまが元気づけてくれる。そのことにまた泣けてきてしまった。
わたしは、ここにいてもいいのだろうか……。
「うぅぅ……、ううぅぅぅ……」
涙が堰を切ったように流れ出てくる。そのまま、お母さまに抱かれ、お父様の優しい視線を受けながら、しばらくの間、わたしは泣き続けるのだった。
―――しばらくして涙も止まり、席に戻って話を続けることにした。
安心して、まるで子どものように泣いてしまった……。ちょっと恥ずかしい。
いや子どもなんだけどね。
「それで、クレアは前世では異世界にいたと」
「はい、お父様。地球と呼ばれる世界の、日本という国で暮らしていました。その世界には魔法はありませんでしたが、逆に科学という技術が非常に発展した世界だったのです」
正確には、古くには魔法や魔術と信じられていた技術もあったようだが、これは置いておいてもいいだろう。錬金術は現代化学に移り変わっていったし、魔法などのほとんどは眉唾ものだとするのが正しいと思っている。
「科学は、この世に起きる事柄に法則を定義し、その法則が正しいかどうかを実験で確かめるという手法により発展してきました。前世の世界では、様々な事柄に対し法則を定義して、まるで未来予知をしているかのような精度で物事の予測ができたりもしていました。非常に便利な世の中でしたよ」
「それは非常に興味深い話だ。我々のいる世界では魔法が発展しているが、そのように世界の法則を発見するといった学問は、おそらく非常に少数だろう」
「そのようですね。先ほど話題に出した重力加速度も、前世の世界で得た知識です。重力とは、地面に引っ張られる力、正確にはあらゆる物体が持つ引力のことですが、そのような力のことを重力と呼んでいます。重力加速度は、重力により発生する加速の割合を指します」
「待て。地面に引っ張られる、とはなんだ?」
「そのままの意味です。わたしたちは、常に地面、正確にはこの星ですが、それに引っ張られているのですよ」
ああでも、この世界が前世の地球と同じように球形の星でない可能性もあるのか?
「お父さま。海は見たことはおありですか?」
「突然だな。あぁ、ある。水がどこまでも広がっていて言葉をなくした記憶がある」
「その時、地平線はどのようにみえましたか? わたしの予測が正しければ、海は途中で見えなくなり、海と空がつながっているように見えていたと思いますが」
「その通りだ」
安心した。この世界の星も球体のようだ。
「やはり。お父さま。この世界は、どんな形状をしているか、ということはわかっているのでしょうか? 科学が発展していないのであれば、おそらく平坦な大地が広がっているというような世界観が予想できますが」
「そうだな。教会は、この世界は神が作りたもうた平坦な大地が広がっていると教えている。しかしどうしてそんなことを聞く?」
「実は、この世界は、球形をしていて、広い宇宙を漂う一つの星にすぎないのです。無限に広がる平坦な大地など、存在しないのですよ」
「そんなバカなことがあるか。地面が球体をしていては、下半分にいるものは落ちてしまうではないか」
「そこで重力なのです。重力はその物体の質量が大きいほど強くなります。一つの巨大な星ともなれば生物をその星に括り付けておくのには全く問題がありません」
「なるほどな……。それも前世の知識なのだな。クレアの前世は、その科学という学問が非常に発達した世界だというのはわかった。それで、クレアはどうしたいのだ?」
「わたしは、この世界の物理法則が元の世界と同じかどうか調べるのと、魔法を科学的に解明したいと考えています。そうすれば、この世界も大きく発展できることでしょう」
「そうかもしれないな。これは、クレアに魔法を教えるのも早いわけではなさそうだな」
「はい、お父様」
そこでいったん話が締めくくられる。
「お話は終わった? ご飯が冷めちゃってるわよ~」
と、いつの間にか自分の食事を終えたお母さまのちょっと拗ねたような声が届いた。
どうやら、ずっとお父さまと難しい話をしていて、寂しく思っていたようだ。
「すまない、レティシア。少し話に夢中になりすぎたようだ」
「お母さま、ごめんなさい」
「はーい、次からは気を付けてね!」
その日の食卓は、冷めていても笑いの絶えない夕食となったのであった。
書きながら少し泣きそうになってました。こういうのに弱いです。
自分で書いてるのになんでやねんって感じですが。
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