6. 魔法に関する考察 ★
魔法に関して主人公が考察します。
初めて数式が出てきます。
数式はPowerPointの数式エディタで作って図として保存して作っています。
お母さまとの昼食を終えたわたしは、自室でお母さまとのお話について考察していた。
まず魔法について。こちらは今はどうしようもない。
風呂でお湯を出した魔法。
水を発生させるには空気中から水蒸気を集めて凝縮させる方法が考えられるが、無から水を発生させているのだとしたらこちらとしては何もできない。
火魔法で水を温めるのは、水にエネルギーを与えているのだから、なんらかのエネルギーが発生しているとしか思えない。
魔法に関しては家庭教師を付けてもらってからでも遅くはないだろう。
先に魔力について考えるべきかもしれない。
「魔力と血液は関係がある……」
お母さまの話をまとめると、
1. 魔法を使いすぎると血液がなくなる
2. 総魔力量は加齢とともに増える
3. 同じ年齢の場合総魔力量に違いは少ない
ということだ。
魔力を根幹とした技術が発展した世界で魔力に関する理解があまり進んでないのは遺憾なことだが、ここから言えそうなことは、
「魔力は血液そのもの、なのかも」
ということだ。
おそらく、火魔法で水を温められたことから、魔力は力と名がついているがエネルギーの一種だ。
血液は物質で、魔力はエネルギー。一見この2つは関係がないように思えるが、わたしは、いや僕はこの2つを結びつける理論を知っている。
そう、特殊相対性理論における物質とエネルギーの関係だ。
ここでEはエネルギー、mは物体の質量、cは光速、pは物体の運動量だ。
右辺の第一項のみを取り出した数式はあまりにも有名で、知っている人も多いだろう。
これは物体の運動を無視した場合の数式だ。
ちなみに右辺の第一項を無視して第二項のみを見ると、こちらはニュートンの運動エネルギーとなっている。
魔力というエネルギーは、血液という物質をエネルギーに変換したものではないだろうか。そう考えれば、魔法の使い過ぎで亡くなったという魔法師のことも理解できる。
あれは、血液の欠乏による失血死だ。血液を魔力に変換しすぎたのだろう。
加齢により総魔力量が増えるという点にも納得がいく。人間の血液は基本的に体重に依存する。この世界の人間の血液量がどうかは知らないが、前世の地球では、体重の8%程度が総血液量だ。当然子どもの頃は血液量も少ない。
成人すれば、基本的には体の成長も止まるから、血液量の増加は必然的になくなる。これが成人すると総魔力量の増加が止まるということになるのだろう。
なんということだ。そう考えると、この世界では人によって魔力量に差がなくなってしまう。確かにお母さまも同じ年齢なら総魔力量は同じと言っていたが、やはりそういうことなのだろうか。
魔力はエネルギー、そう考えると、先ほどのお湯を出した魔法もなんとなく理解ができる気がする。
水を出現させる方法に関しては依然としてわからないが、火魔法で水を温めるというのは意外と簡単かもしれない。
魔力はエネルギーだ。エネルギーには様々な形態があるが、基本的には相互に変換できる。この場合、魔力を熱エネルギーに変換したのだろう。
質量の持つエネルギーは、光速の二乗がかかっていることからもわかる通り、莫大だ。風呂の水を温めるくらいならほんの少し血液を消費するだけで事足りるだろう。
水を出現させるのは、やはり無からでは厳しいだろう。風呂の水をためるだけでもその莫大な質量エネルギーを補えるほどの血液は誰も持っていないと思う。そうするとやはり空気中の水蒸気を集めているのだろうか。
まだわからないことはあるが、ある程度魔力に関しては考察ができた。
考えていたことを何かにまとめておきたいが、あいにくとわたしの部屋にはノートの類はない。これから魔法の家庭教師もつくだろうし、お父さまやお母さまにおねだりしてみよう。
考えている間にずいぶんと時間が経っていたようだ。
部屋の時計を見るともう夕食の時間。ちょうどいい。そろそろアニーが呼びに来る頃だろう。
振り子時計をみていて、この世界の物理法則も調べたいんだった、と思い出す。
「差し当っては重力加速度、かな? 振り子があるなら調べるのはできそう。」
時計の振り子でもいいが、やはりきちんとした振り子の方がいいだろう。
振り子もおねだりかな。別に高いものじゃないだろうし。
そもそも腐っても侯爵家、それなりにお金は持ってると思う。いや腐ってはないだろうけど。
そう思ったところでアニーが夕食に呼びに来た。
夕食にはお父さまもいるはず。二人にお願いしてみよう。
特殊相対性理論: アルベルト・アインシュタインが提唱した、慣性運動する観測者が観測する電磁気学的現象や力学的現象を取り扱う学問。重力のある系に関しては一般相対性理論が用いられる。本文中に出てきた質量とエネルギーの関係式はあまりにも有名。
実は筆者は相対論には詳しくないです。大学院の講義で少し習ったくらい……。