4. 風呂と、自分の見た目と、初めての魔法
主人公の見た目の説明と、初めての魔法になります。といっても生活魔法ですけどね。
そこまで考えていたところで、部屋の扉が開いた。
母親が来たようだ。
「クレア……、熱は下がったと聞いたけど、体は大丈夫?」
「お母さま、大丈夫です。まだ少しぼーっとしますが、もう熱っぽさはないですし、強いて言えば少し寝汗が気持ち悪いくらいです」
「良かったわぁ。すぐにお風呂の準備をさせるわね。アニー、すぐに湯あみの準備をしてあげて」
「かしこまりました、奥様。お嬢様、少々お待ちくださいませ」
アニーと呼ばれたメイドは風呂の準備をするために部屋を出ていった。
待て……、風呂? こちとら25年間彼女なしの童貞だったのに少女の風呂など覗いていいのか。
いや、そもそも自分なのだが……。
「お嬢様、それではこちらへどうぞ」
わたしが迷っている間にすぐに風呂の準備が終わったようだ。
仕方ない。この体は僕でありわたしのものなのだ。今更何をためらうことがあろうか。
アニーはタオルなどのアメニティを持ってきただけで、風呂自体は部屋に備え付けてある。
しかし風呂はもう沸かしてあるのだろうか。
と思っていたが、浴槽の中は空である。
アニーは浴槽の横に取り付けられたでっぱりに手を触れ、小さく何かを呟いた。
するとどうだろうか、急に浴槽の中に水が現れ、瞬く間に浴槽を満たしてしまった。
きちんとお湯のようで、湯気が立っている。
(これが魔法か……、いったいどういう原理で水が出てきてお湯になったんだろう)
記憶にはある。いつもアニーに風呂に入れてもらっているとき、確かに同じ方法で湯をためていた。
しかし記憶が再編成され透の記憶が混じった今は、その技術に舌を巻いてしまう。
「はい、それではお嬢様、服を脱がせますので手を上げてくださいね」
そうアニーに指示され、素直に手を上げ、服を脱がせてもらう。
服を脱がせてもらって脱衣所の鏡の前に立つと、そこには妖精がいた。
透けるような白い肌。ふわふわとウェーブした母親譲りの銀髪が背中まで垂れている。
驚くほど整った顔で、大きなくりくりした目は父親と母親の両方の血を受け継いだのか右が抜けるような青色で左が血のような赤色だ。虹彩異色症、いわゆるオッドアイってやつだ。
体は年相応だがしっかり女性であり、腰は少しくびれている。
胸もやはり年相応だが、母親が大きいのできっと大きくなる、はず……。なるよね?
っていかんいかん。何を自分の体に見惚れているんだ。これではナルシストではないか。
わたしはアニーに連れられ風呂場に入り、体を洗われる。
その際に、先ほどの疑問を解消しようとしてアニーに質問をしてみた。
「アニー。今の、お湯を張ったのって魔法、だよね?」
「ええ、そうですよ。いつも見ているのに今日はどうされたのですか?」
「えっと、あの魔法ってどうやってお湯を出しているの?」
「え? どうやってお湯を出しているか、ですか? そうですね、今のは魔法具に魔力を流して呪文を唱えることでお湯を出しているのですよ」
「じゃあ魔力って何? どうして魔力を道具に流すと魔法が発動するの?」
「さぁ……。わたくしは魔法に関してはあまり詳しくないので、奥様に聞かれてはいかがでしょう」
「うん、そうしてみる」
「お力になれず、申し訳ありません」
「大丈夫だよ」
どうやらアニーはあまり魔法のことは知らないみたいだ。
お母さまは元宮廷魔法師のようだし、きっといろいろと知っているはず。
この世界での魔法がどれだけ解明されているのか、知りたい。