8.5. 初めてのトイレ
少しだけ間話を挟みます。今回は、8話直後の話です。
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お父さまとお母さまに前世の記憶があると打ち明けた日の夕食後。
わたしは今生最大の危機に瀕していた。
それは、トイレだ。
わたしはクレアの記憶が主体とはいえ、桜井透の記憶が混じったいわばハイブリッド状態。当然男性としての自意識もあるわけで。
わたしは自室のトイレの前で、葛藤していた。
わたしは元男性。女の子のトイレの場に居合わせるのはアリなのか。いやわたしが今は女の子なのだけれど。
一方で尿意は割と危機に瀕している。わたしは幼いとはいえもう6歳。漏らすわけにいはいかない。
女子は男子に比べて我慢しにくいと聞く。
迷信かもしれないが、今のわたしには確かめようもない。
「うぅ、漏れそう……」
恥を忍んでアニーに手助けしてもらうべきか。いやだめだ。わたしは別に女子のトイレ事情を知らないわけではないのだ。
わたしにはクレアとしての6年間の記憶がある。その中で何度も自分で排泄したことはあるし、今更アニーを呼んでもアニーに不信感を持たれるだけだ。
そもそも問題はそこじゃない。男性としての記憶を思い出したわたしが自分という女子の排泄の場に居合わせるのがどうなのという話なのだ。
アニーを呼んだところで解決しない。逆に背徳的な感じすらする。
心の中で葛藤するも尿意はさらに膨らみ、わたしの思考を圧迫していく。
そ、そうだ。排尿の感覚はもはやどうしようもない (漏らしたらどちらにせよ感じる) として、音を聞かないというのはアリだ。耳栓を使おう。
しかしわたしの部屋に耳栓はない。使うならメイドのだれかに取ってきてもらうしかない。そんな時間はない。
なら指で耳栓すればいいじゃないか。
それでいこう!
焦りからかわたしは完全に混乱していた。
わたしは意を決してトイレの中に入り、下着を脱いだ。下を見るのは別に風呂でも見たから特に何も感じない。というかそんなこと感じている状況ではない!
スカートをまくり、便座へと座る。とりあえず、もう漏らすという心配はなくなった。
便座へと座った安心感からか、わたしは全身の力を抜いてしまった。
「あ」
体から何かが抜けていく喪失感。開放感。そして、少しの快感。
「ああぁぁぁぁ……」
指で耳栓なんてする暇もなかった。
わたしは音をばっちり聞いたし、感覚だってばっちりわかってしまった。
しっかりと流して、トイレから出たわたしは独り言ちる。
「……直前の葛藤はなんだったんだろう」
完全に賢者タイムだった。
記憶を取り戻して初めてのトイレは、なんとも締まらない形に終わった。
力を使い果たしたわたしは、ぼーっとしながらベッドに寝転がり、そのまま夢の中へと旅立っていった。
TSモノの定番、初めてのトイレでした。
なお、この小説にはエロ要素は含まれません。
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