36. 万有引力定数測定の講義1 ★
万有引力定数の測定の前に、恒例の講義をします。
式がたくさん出てきます。
実験回路が成功してまた数日後。
そろそろ前世の記憶を取り戻してから二か月くらい経つ。
この二か月は本当にいろいろなことがあった。
そして、今日はお兄さまとお姉さまが学院都市エルメーアに戻る日だ。
「クレア。また物理学、教えてくれよな。投げたボールの着地地点が分かったのは、とても面白かった。比較的簡単な範囲だったが、なぜこの世界には物理学が出てこないんだろうな」
「お兄さま、もしかしたらわたしたちが知らないだけで研究されていて、どこかの国では科学が発達しているかもしれませんね。残念ながらそういった話は寡聞にして聞きませんが」
「クレア、あなた研究のことになると若干日常生活がおろそかになるから、ちゃんとしなさいよ。特に夜は早く寝ること! まだ6歳なんだから、早く寝ないと背が伸びないわよ」
「お姉さま、一応睡眠時間は確保しています。背が伸びないなんてことはないはず……。ないですよね? ちょっと心配になってきました」
お兄さまやお姉さまはお父さまやお母さまにも挨拶し、学院都市へ向かう馬車へと乗り込んでいった。
「お兄さま、お姉さま。行ってらっしゃいませ。頑張ってくださいね」
「あぁ、クレアも元気でな」
「クレア、寂しくなったらいつでも手紙ちょうだいね」
そしてお兄さまとお姉さまは学院都市へと戻っていった。
次に会えるのは半年後か。短いようで長い。
それまでに、魔法をもっと進歩させなければ。
お兄さまとお姉さまが戻っていってからさらに一週間ほどが経ち。
ついにわたしのもとにキャヴェンディッシュの実験装置 (の簡易版) が届いた。
お父さまは最低二週間と言っていたが、本当に二週間ほどで出来上がるとは、職人さんが頑張ってくれたのだろう。感謝しなくては。
ちなみにこの日まで魔法に関して何もやってなかったわけではない。
レーザーもといリーパ魔法の呪符化に成功した。
位相と振幅を揃える部分には苦戦させられたが、何とか開発できた。
これで実験も心置きなくできるというものだ。
装置を実験室 (ただの空いている部屋) に運び込み、机に装置を固定する。
後はお父さまがお休みの日を待つだけだ。
そしてその日がやってきた。
その日は朝食を取ったらすぐにお父さまと部屋に入る。
今回はカリーヌ先生も一緒だ。
実験をしているとお昼を超過してしまう上に部屋の出入りは厳禁なので、昼食用のパンと飲み物も用意した。
さて、部屋に入って扉を閉めると、部屋が振動してしまい、実験装置の天秤が揺れる。これが安定するのを待つ間に、お父さまとカリーヌ先生へ今回の実験方法を説明するとしよう。
「お父さま、カリーヌ先生。実験装置が安定するまで、2時間ほどかかりますので、その間に軽く実験方法を説明いたします」
「待っていたぞ。そもそも今回の実験は万有引力定数を測定すると言っていたが、どのようなものなのだ」
「こちらの式をご覧ください」
わたしは持ち込んだ黒板に静かに式を書く。
「これが万有引力の式になります。Fが二物体間にかかる力、つまり万有引力です。m1とm2は二物体の質量、rは二物体間の距離、そしてGが万有引力定数となります。万有引力は2つの物体の質量と距離のみで決まります。ここで、質量の片方をこの星の質量、もう片方をこの星にある物体、距離をこの星の半径とするとこの星の重力となります」
「なるほど、今回はその比例定数を測定するのだな」
「その通りです。実験装置の概略図はこのようになります」
わたしは黒板に2つの絵を描いた。
「お父さまには設計図を渡した際に説明しましたが、この装置は回転する大鉛球と小鉛球の間に発生する引力を測定するものです。こちらはわたしの前世の世界でヘンリー・キャヴェンディッシュという人が考案したものを小型化したものです。大鉛球が箱に接すると大鉛球と小鉛球に引力Fが働きます。そのため箱の中でワイヤーで吊られた小鉛球は回転し、ワイヤーがねじられます。このような機構をねじり天秤と呼びます。ねじり天秤はねじられたワイヤーが元に戻ろうとするため、あるところで引力とつり合い、小鉛球は箱の内側にぶつかりません。小鉛球同士をつなぐ棒の真ん中には鏡がついています。ここにわたしの開発したリーパ光を当て、鏡に反射させてスケールに投影させます。ねじり天秤が最もねじれたときのスケール上の反射リーパ光の位置をそれぞれP1とP2とします。この時、この2点間の距離はSと置きます。」
わたしは図を指さしながら説明を続ける。
「ねじり天秤の中心からスケールまでの距離をLとします。LはSに対し非常に大きいものとします。ねじり天秤が最もねじれた時同士の角度をθとすると、反射リーパ光の最大角はその2倍の2θとなります。ところが、ねじり天秤は実際には小さい変位を起こすのみですので、このθは小さいものになります。また、ねじり角が小さいので天秤はほぼ箱の中心線上にいます。そのため、天秤の中心から小鉛球までの距離をdとすると、大鉛球Mと小鉛球mに作用する万有引力Fによる偶力のモーメントNはこのような式で表せます。」
「偶力のモーメントによりねじり天秤は回転しますが、ねじられた天秤は元に戻ろうとして(2)式とつり合う反対向きの力のモーメントN'が発生し静止します。」
「ここでκはワイヤーのねじり剛性率を表します。(2)式と(3)式のNとN'は等しいので、ここから万有引力Fを求めることができます」
「ここで、リーパ光の最大角度差は2θですので、tan2θの値について考えます。tan2θは二倍角の公式から、(5)式のように展開できます。一方tanθの値は、図から(6)式のようになります」
「(5)式に(6)式を代入して整理すると、(7)式のようになります」
「ここで、SはLに対し非常に小さいので、(7)式の分母の第二項は消去できます。また、θも非常に小さいので、tan2θは2θへ近似できます。したがってこれらの式は次の結論に至ります」
「(4)式へ(8)式を代入すると、スケールに表示された距離から、万有引力Fを求める式が出来上がります」
「ここでいったん休憩にしましょうか。次はねじり天秤のねじり剛性率κを求める式を導出していきます」
わたしはそうして一息ついたのだった。
長くなりそうなので途中で切りました。次話はなるはやで投稿します。短めになる予定です。




