32. レーザーを作ろう
13時に2話と18時に1話投稿しているので、読み飛ばしにはご注意ください。
わたしは庭で風に当たりながら今後の方針を考えていた。
わたしは照明魔法具の開発をしているが、それ以外にしたいことはある。
この世界の物理定数の測定だ。
今まで基本的に物理定数は地球の物と同じだと考えていろいろと予測を立てていた。
実際重力加速度はほぼ一致していたし、地球と同じ形態をした人間が活動している以上、ほとんどの物理定数は一致するだろう。
しかし、確かめてみないことには確信が持てない。
というか、わたしが確かめたい。
さて、次のどの物理定数を測定するかだが、電磁気学系統の物理定数はまず電気の開発が必要だ。
発電機の開発からなので、結構な大仕事になってしまう。
そこで、次に測定する物理定数は万有引力定数にした。
地球では、18世紀末にヘンリー・キャヴェンディッシュにより測定が行われた。
二つのつないだ大きな鉛球と二つのつないだ小さな鉛球が万有引力により相互作用し、小さな鉛球が変位する。鉛球が変位することで、二つの小さな鉛球をつないだ棒の真ん中につないだワイヤーがねじれることにより変位角が求まり、その変位角から万有引力定数が求まる。
この実験をするにあたり、レーザーが欲しい。
発光魔法はできているので、レーザーは意外とすぐできると思う。
まずはこれからやっていこう。
「お、何をやってるんだこんなところで。日向ぼっこか?」
「お兄さま。いえ、今後の方針を考えていたところです。とりあえずは、万有引力定数を測定するために、レーザーを作ろうという結論に至りました」
「お、おぉ。知らない単語で殴られるとお兄様困惑してしまうぞ」
「申し訳ありません。ちょっとからかってしまいました。万有引力とはその世にあるすべての物体が持っている引力のことです。万有引力定数はその比例定数となる数字です。レーザーは、まぁ発光魔法の改良版だと思っていただいて構いません」
「すべての物体が持つ引力、か。僕とクレアの間にもその引力というのは働いているのかい?」
「もちろんです。ただ、この大地から受ける引力の方が非常に大きいので無視できるくらいですが」
「無視できちゃうのか……」
ちょっとしょんぼりしている。
からかいがいのあるお兄さまだ。
「今からちょっとだけ実験をするので付き合ってくれませんか?」
「お、いいとも。なんでも手伝ってやろう」
「いえ、特に手伝ってもらうことはありませんが」
レーザーが作れるかちょっと試してみよう。
わたしは頭の中で呪文を組み立て詠唱した。
「《魔力を波長700 erの光エネルギーへ変換し、前方へ波の振幅と位相を揃えて放出せよ》」
するといつもならぼんやりと赤く光る発光魔法が、発動しなかったように見えた。
「失敗か?」
「いえ、お兄さま、わたしの前に立ってみていただけませんか? 距離は1ランデくらいで大丈夫です」
「わかった。おや、これはなんだ? 僕の腹に赤い点が……」
どうやら成功のようだ。
前方にまっすぐ進む光なので、スモークでもたかないと光の軌跡は見えないが、障害物があればそこに光の点として見える。
「お兄さま、その光は目に入れないでくださいね。失明の可能性がありますから」
「わ、わかった。これがさっき言っていた、レーザーというものなのか?」
「レーザーというよりも、コヒーレント光と呼んだ方がいいと思います。波の位相が揃った光という意味です」
レーザーとは本来Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字で、日本語にすると誘導放出による光増幅放射となる。
誘導放出をしているわけではないから、正確にはレーザーとは言えないだろう。というか、実際はコヒーレント光に近いのがレーザー光なのだから、実質上位互換だ。
とはいえ、振幅と位相の両方を完全に揃えるのは量子力学の不確定性原理から不可能なので、多分ある程度は振幅と位相が揃っていないのではないかと考えられる。そもそも量子力学的に理想的なコヒーレント光は実現しないのだ。ただ、わたしが求める用途には十分だから、その意味でコヒーレント光と呼んでも差し支えないだろう。
いつかはレーザーも魔法に頼らず作りたいと思う。
ともかく、これで万有引力定数を測定するのに必要な魔法はできたので、これに対応する魔法陣を作って呪符を作ればいい。
後は実験装置だけど、実はこっちの方が結構面倒なんだよね……。
お父さまにおねだりで通じるかなぁ。
魔法めちゃくちゃやな。
光エネルギーが生成できたら、あとはどう放出するかも決めてやれるのではないかと思ってコヒーレント光ができました。量子光学における不確定性とは、実際は光子数と位相の関係らしいです。光子数と振幅は関係するので、本話では振幅と位相の関係と書きました。
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