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異世界魔法の物理学  作者: のん
第一章
26/42

25. 灯火魔法の改良

12時13時頃に1話ずつと、これの直前に1話投稿しているので読み飛ばしにはご注意ください。

ここまでの議論にはカリーヌ先生とお父さまはついてこられているようだった。お母さまは若干怪しい。本当に宮廷魔法師だったのだろうか……。

しかしここからが本番だ。


「本題はここからです。わたしは、不完全燃焼となっている現状の灯火魔法を、完全燃焼にすることができました。さきほども言ったように、燃焼とは可燃物と酸素との激しい反応です。酸素の供給が追い付かなければ、その反応は不完全燃焼となります」


わたしは部屋のカーテンを閉め、部屋を暗くした後、手を前にだして唱えた。


「《発火》」


今まで練習してきたように魔法が発動する。しかし今回は、普段使っている灯火魔法とは様相が全く違っていた。全員がその炎を見て大変に驚いている。


「青い炎ですって……!?」

「本来プロパンガスを燃やした時に発生する炎の色は青白い色です。不完全燃焼から完全燃焼となり、色が青白くなったのです」

「これが初歩魔法だっていうの? 青い炎を発生させる魔法は上級魔法で出てくるものなのに、これじゃあ上級魔法の立つ瀬がないじゃない」

「カリーヌ先生、これはただの灯火魔法です。これに何かを攻撃できるような力はないですよ、触れたらやけどはしますけど、それはもともとですし。ただ、ほかの火属性魔法にも応用は可能かもしれませんね」


わたしは驚愕している両親と先生を後目に説明を続ける。


「わたしがやったことは極めて単純です。プロパンを生成した後、燃焼に必要な酸素分子に選択的に運動エネルギーを与え、プロパンガスのもとへ送るようにイメージしただけです。しかしこれには、酸素分子という概念がなければ達成しえません。なので、先に原子や分子といった概念を説明したのです」

「ということは、あたしたちも酸素という概念を知ったのだから、その青い炎が出せるってことかしら?」

「何をもって知った、理解した、となるのかがわからないので何とも言えませんが、酸素分子の存在を知った今なら可能性はあります。」

「やってみるのがいいだろう。私たちでもできるのなら、それは再現性が取れることになる。魔法を研究している者たちにも認められることだろう」


そういってお父さまは灯火魔法を唱えた。


「《発火》」


成功した。お父さまの出した炎は確かに青白い炎だった。


「成功したぞ! これで私たちも青い炎が出せることがわかったな!」

「えぇ、酸素分子に関する簡単な講義だけで酸素を理解することができたという判定になるのですから、もしかしたらエネルギーの概念をしっかりお伝えすれば発光魔法も使用可能になるかもしれませんね」

「それは素晴らしい。今日はもう無理だがまた次の安息日にでも講義をしてくれないか? クレア」

「もちろんです。この世界の魔法が発展するのはとても良いことです」


その後、お父さまとカリーヌ先生は興奮しながら灯火魔法を使っていた。お母さまはどうやら酸素分子についてあまり理解できていなかったようで、炎は青白くならなかった。

それでしばらくの間拗ねることになるのは秘密だ。


しばらく遊んでいた後、お父さまはわたしに話しかけてきた。


「それでクレア、この魔法は何か役に立ちそうか?」


そ、その質問は……、前世でよくある、基礎研究に対しての「その研究は何の役に立つのか」という質問そのものではないか!!

基礎研究はすぐに世の中の役に立つものばかりではないため、この質問をされた就職活動中の学生などは非常に困ってしまうのだけれど……。

カリーヌ先生もこれには苦笑いだ。カリーヌ先生も多分基礎系の研究者なのだろうなぁ……。


「お父さま、非常に申し上げにくいのですが……、何の役にも立ちません。せいぜい、生活魔法で使うときに鍋の底に煤がつかない程度かと」

「それではこの魔法をどうして改良したのだ」

「この魔法に欠陥があったためです。欠陥があれば、改良したくなるものなのです」

「む、そうか。しかし前にも言ったが人に認められるためにはそれが何に活用できるかを考えておかなければならないぞ」

「うぅ、その通りです……」


前世での、「素人質問で恐縮ですが……」が思い起こされる。いや、お父さまは物理学や科学には確かに素人なんだけど、発言が適格すぎる。

なんだか前世の学会発表でその道の研究者からの質問でボコボコにされているときのような気分だ……。

これ! 火魔法を改良して「青い炎!?」と驚かれるやつ、やってみたかったんです。


筆者は卒論発表の時にマジで「素人質問なのですが……」をやられました。ちなみにきちんと答えられませんでした……。


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