20. 光を発生させる魔法 ★
久々に数式が登場します。
今日はお昼に1話と、この直前に1話を投稿しているので、読み飛ばしにはご注意ください。
「《エネルギー》」
あっ、と思った。
夕食と風呂を済ませて2時間くらい。
わたしは自室にこもってノートにエネルギーに該当しそうな魔法語の候補リストを書き、延々と発音していた。
魔力をきちんと感じられるようになってから、わたしは魔法語を発音すると少しだけ魔力が生成されるのに気づいていた。多分、魔法語に反応して若干血液が魔力に変換されているのだろう。
その言葉を発した瞬間、これだ、と思った。
《エネルギー》と発音した瞬間、明らかに魔力が生成された。
多分、過去の人もこうやって魔法語を発見、翻訳していったんだと思う。
わたしは早速、昼間に考案した光を発生させる魔法の呪文に組み込んだ。
発音してみる。
「《魔力を光エネルギーへ変換せよ》」
すると、手のひらが白く光った。やった、成功した。
実験はここからだ。今のは様々な波長の光が混ざって白く見えた。
波長を指定してやることで、いろいろな光を発生させることができるはず。
光のエネルギーを表す式はこうだ。
ここで、Eは光子のエネルギー、hはプランク定数、νは光の振動数、cは光速、λは光の波長だ。
振動数と波長の積は光速となるが、光速は特殊相対性理論により一定なので、振動数が小さくなれば波長は長くなる。可視光線はだいたい400 - 800 nmくらい。例えば赤い光は、だいたい700 - 800 nmの光だ。
まずは、赤い光で試してみよう。
「《魔力を波長700 erの光エネルギーへ変換せよ》」
そうすると、やはり手のひらが赤く光った。erとはnmのことだ。
波長700 nmの光が持つエネルギーは約0.28 aJ。
小さすぎてよくわからないので、エレクトロンボルト表記にすると、約1.8 eVだ。
何が言いたいかというと、とにかく消費エネルギーが小さい。
光を発生させる魔法具も、消費魔力の小さいものが作れるのではないだろうか。
そのあと、一通りいろいろな色の可視光線を発生させて遊んで、カリーヌ先生に報告してみることにした。
時刻は約9時。さすがにまだ寝てはいないだろう。というか、魔法の研究をして遅くまで起きている気さえする。
先生に与えられた部屋をノックしてみると、すぐに返事があった。
やはり起きていたようだ。
「どうしたの、クレアちゃん。子どもなんだから早く寝ないと」
「先生、昼間の、光を発生させる魔法についてなんですが」
「まさか、もうできたっていうの?」
「はい、おそらく昼間に魔法が発動しなかったのは、魔力を光に直接変換しようとしたからだと思うのです。それを改善するために、エネルギーに該当する魔法語を探し当てました」
「よくわからないわ。魔力は直接光には変換できないの?」
「魔力はエネルギーです。エネルギーは、エネルギーに変換するか、仕事をさせるかどちらかしかできません。光ではなく、光エネルギーへ変換しないといけなかったんです」
「とりあえず中へ入って、その魔法を見せてみてくれる?」
「わかりました」
部屋に入ったわたしは、さっそく先生に光を発生させる魔法を披露してみせる。
波長を変化させることで、いろいろな色の光が出せることも伝えた。
カリーヌ先生は、非常に驚いたような口調でこう話した。
「これは、世紀の大発見よ。消費魔力もほとんどないと言っていたわね。これで発光する魔法具が作られれば、世界が激変するわ。少なくとも、夜はもっと明るくなる。市民は夜の暗闇に怯えなくてもよくなるわ」
「そう、でしょうか……」
そう簡単ではないとは思うが、もしこれで世界が良くなる方向に向かうならわたしはうれしい。
ただの発光魔法だが、この魔法が戦争などに悪用されないことを願うばかりだ。
接頭辞は、小さい方はそろってきましたね。
リルl=ミリm、エルe=ナノn、デンd=ピコpって感じです。
aJはアトジュールと読みます。10^(-18) Jのことです。
eVはそのままエレクトロンボルトと読みます。エレクトロンボルトは、電子や陽電子のような、電子一個分の電荷をもった荷電粒子が、真空中で1Vの電位差を通過するときのエネルギーです。高エネルギー物理学などでよく使われますね。
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