13. 単振り子による重力加速度測定実験
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前回の続きで、実際に重力加速度を測定していきます。
昨日の夕方から夜にかけて3話投稿しているので、読み飛ばしにはご注意ください。
「それでは実験を始めましょう。まずは糸の長さとおもりの半径を測定します。これは、普通のものさしがあればいいですね。おもりは球体なので測りにくいですが、我慢しましょう」
この世界での長さの単位はrande、rが単位記号になる。メートルとの換算定数はもちろん正確にはわからないが、おおよそ1 rは1 mと同じだと思う。
質量の単位も接頭辞のあるなしはあるが、ほぼ同じ。これは水球生成魔法で、1 Oの水を作って体積を測ってみたからわかる。だいたい1 L、つまり1 kgだった。
多分、人間にとって都合のいい単位系を作ろうとするときの発想はだいたいどこの世界でも同じくらいになるんだろう。こちらとしては換算が楽でいい。
「糸の長さは200 lr。おもりの半径は10 lrですね」
接頭辞lileは元の世界で言うmilli、ミリだ。この世界では、センチに対応する接頭辞がない。センチメートル、便利だと思うんだけどなぁ。
この場合、糸の長さとおもりの半径を合わせて、振り子の長さは210 lr、つまり21 cmだ。
「次は、振り子の周期の測定になります。お父さま、時計で1分間を測っていただいてもよろしいですか? 1分間に振り子が何回振れたかを計測して、60秒をその回数で割ることで周期を出しますので」
「あぁ、わかった。任せておけ」
振り子を少し持ち上げ、お父さまの掛け声に合わせて指を離して振れる回数を数える
1、2、3、4、5……
「1分だ」
「はい。ありがとうございます。位置的には65.4回といったところでしょうか」
当然1分で元の位置ぴったりに戻るわけではないので、声がかけられたところでおもりを止めて小数までざっくりと求める。
「周期は……、約0.917秒ですね。これで後は先ほどの周期の式を変形して重力加速度を求められる形にして値を代入すれば計算できます」
計算を行うと、
g=4×3.14^2÷0.917^2×0.21≒9.85 m/s2
となった。この値は、元の世界に非常に近い値だ。
元の世界では確か9.81 m/s2くらいだったはずだ。
「どうだったのだ?」
「実は、前世の世界とほとんど同じ値になりました。前世の世界より少し大きい値です。いえ、この精度の実験では正確な値など到底得られないでしょうから、誤差の範囲内で一致していると言ってもいいかもしれません」
「それは興味深くもあるが不気味でもあるな。異なる世界だというのに自然の法則を決める数字が同じだというのは」
「いえ、お父さま。あながち不思議でもないのかもしれません。わたしの前世の世界とこの世界の人間は全く同じ形態をしています。重力加速度が異なっていれば当然物体に働く重力も異なるので、それに対応した異なる生命の形態が現れるはずなんです。それが同じ形態をしているというのは、少なくとも重力加速度に関しては同じ値になっていてもおかしくはないと考えられます。もちろん重力加速度の値が等しいというのは、まったくの偶然かと思いますが」
「なるほど。そう考えると自然ではあるな。9.85 r/y2が重力加速度の値なのだな? これがあれば投げた物体の到達点がわかるということだったから、戦時の投石の弾道計算などに役立てられるかもしれん」
「……お父さま。わたしは決して戦争のために重力加速度の測定をしたわけではありませんよ」
「わかっている。だが、重要な数値だということを理解するためにこういった解釈は必要なのだ。これからクレアは様々な世界の法則を定めていくだろう。その時に、それが何に活用できるかを考えるのは重要だ」
「はい。ですが、自然界の法則を利用するのは、人を不幸にするためにではなく、幸せにするために利用されてほしいです」
「もちろん、それが一番いいのだがな……」
お父さまとの会話はここでいったん締めくくられた。
しかし投石か。この世界には火薬の類はないのだろうか。元の世界では黒色火薬の登場は6、7世紀だぞ。
もしかして魔法による砲撃戦が主な戦い方になっているせいで、火薬の必要がなかったのだろうか。
わたしは作らないので今後も火薬さんの出番はない、ということで。
本文中でも触れられている通り、この世界のMKS単位系に相当するのはROY単位系です。それぞれランデr、オルマイトO、ユリートyです。ユリートは記号でしか出てこないと思います。普通は秒と表記しているためです。今回、最後の方でユリートも出てきました。
s2やy2と表記しているのは、正確にはs^2、y^2と表記すべきものです。上付き文字が表示できれば解決するのですが……。
単位系、ちゃんと考えとかないと今後破綻する気がするなぁ。
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