10. 魔法を使ってみよう
ブックマーク、評価ありがとうございます!モチベーションがすごく上がります。
今回は、ついに主人公が魔法を使います。
なんだかせっかく魔法を科学的に解明してやろうとしているのに、不思議が増えてしまった感じでもやもやするところはあるけれど、とりあえず魔力の発現はできた。
もう少し練習して、あとは呪文の最適化も必要かもしれない。
例えば先ほどのような文章ではなくて、単語のみでの発音にするとか。
しかしむやみな実験には危険が伴う。最初の時のように細心の注意を払って実験に臨むべきだ。
そのためには、この世界の魔法がどのような呪文で発動されるか、ということが重要になる。先行研究というやつだ。
わたしは教本をパラパラとめくり、各属性の初歩魔法を読んでいく。
火魔法は、指先に小さな火を灯す。
水魔法は、小さな水球を作る。
土魔法は、小さな土塊を作る。
風魔法は、つむじ風を起こす。
見事に四大元素というやつだなぁと思う。
そういえば、この世界では前世の世界にあったような元素というものは見つかっているのだろうか。鉄器や銀食器などはあるので、元素としては認知されていなくても存在はしているっぽい。
この中で、安全でかつ後処理の面倒くさくないのは、水か風かな。火魔法は芝に火が付いたら大変だし、土魔法は土塊を処理するのが面倒だ。いずれは試すことになるだろうけど。
水の初歩魔法の呪文が書いてあるページを見る。
「水よ、集まりて我が手の前に小さな水球となせ、か……」
ふむ。"集まりて"とあるということは、やはり空気中から水を集めているように思える。水球の大きさについての記述が"小さな"で終わっているのは少し気になる。小さな、とはどれくらいの大きさだろうか。もしかしてその前の文言の"我が手の前に"というフレーズから大きさを参照しているのかも。手の大きさに比例した水球ができあがる可能性が高い。
使ってみた方が早いか。お母さまも初歩魔法なら魔力量の心配はないと言っていたし、無茶な大きさの水球ができるようなことはありえまい。
私は手のひらを前に突き出し、呪文を唱える
「《水よ、集まりて我が手の前に小さな水球となせ》、おぉ……」
すると手のひらの前に水が周囲から流星のように集まり、まさに手のひらと同じくらいの大きさの水球が出来上がった。
しかし水球はすぐに重力に引かれ、地面に落ちてしまった。
「今の現象を見る限り、周囲の空気中から水を集めていることは確かね」
しかし空気中から集めるといっても空気中にあるのは水蒸気であり液体の水ではない。
気体を液体にするには気体の持つ運動エネルギーを下げて凝縮させる必要がある。
予想として、水の凝縮で放出される熱を周囲の空間に逃がしているとして考えよう。
そうすると水魔法で水を生成したときには周囲の温度が上がるはずだ。
25 ℃の水の凝縮熱または蒸発熱は約2500 kJ/kgだ。
私の手のひらがだいたい13 cmくらいの大きさだから、水球は直径13 cm。体積はざっくり円周率を3として、だいたい1100 cm3くらい。1 cm3は1 mLで、水の場合密度が1 kg/Lなので、今回できた水球の重さは約1.1 kgだ。
そこから凝縮熱を計算すると、2750 kJということになる。
空気の比熱はだいたい1 kJ/kg⋅Kで、空気の密度は約1.3 kg/m3。わたしの手のひらの前にある空間をざっくり直径20 cmくらいのものとして、体積は0.032 m3くらい。
そうすると手のひらの周囲の空間にある空気の重さは0.04 kgくらいか。
そこから周囲がどれくらい温度が上がるか計算できる。
1 (空気の比熱)×0.04 (空気の質量)÷2750 (凝縮熱)≒0.000015 (℃)
「……そんなのこの世界で測定できるわけがないじゃなーーーーい!!!」
わたしのむなしい叫びが庭に響き渡った。
いや、なんとなく予想はついてたけどね……。
数値はだいたいググってます。
cm3やm3は立法センチメートルや立法メートルです。上付き下付き文字ができればいいのにね……。
主人公はこれらの計算を暗算でやっているわけではなく、買い与えられたノートで計算しています。そういえば、ノートをもらった記述をするのを忘れていましたね。
ただ、電卓などの計算機はないので、計算を楽にするために円周率3をはじめいろいろと近似を使っています。
※比熱: 1 kgの物体の温度を1 ℃上げるのに必要な熱量。
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