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それは夢のようで

勢いのまま書いてみた続きです。


・・・・・・・・・。


 いつもの平凡な日常は、本当に現実なのか。そんなことを考えたことはないだろうか。


 現実は物語と違い、単純で、特別なことなんてそうそう起こりえない。

 退屈な日常を壊してくれるような出来事を期待する者は多い。小説や映画の主人公のように活躍できるような、刺激的な日常に憧れる人はきっと多いだろう。

 しかしそんなものが訪れれば、人は奮起し努力するよりも、きっと不安や恐怖に襲われてしまうだろう。


 これは根拠の無い予想ではない。少なくとも俺はそんな不安に晒され続けている。異世界ファンタジーやSF小説が好きな俺が、そんな幻想に憧れつつもそう感じてしまうのは、俺がちょっと変わった体験をしているというのが理由なのだ。


 いや、ひょっとしたら誰もが感じる感覚なのかもしれない。それを確かめる手段が俺にはないのだ。


 だからさっきの質問に戻る。


 いつもの平凡な日常は本当に現実なのか。そんなことを考えたことはないだろうか。


 例えばある朝、目が覚めると、それまで夢の中で会っていたであろう人物にもう二度と会えないという不安が訪れる。

 それが誰なのかそれはわからない。しかし今までの光景が途切れたことに対して、言葉にしづらい喪失感に晒されるのだ。

 もう1度会おうと思い必死になって目を瞑るも、2度と出会うことは叶わない。それがとても苦しい。その時だけは現実よりも夢に戻りたい。そんな思いをしたことはないだろうか。


 またある時は、どこからか突然、知らない声や表情が頭の中に響く。ほんの一瞬だが、ある人のことがフラッシュバックする。その人のことは知らないはずで、少なくとも会ったことはない。なのに、懐かしい感覚がする。そして、その人のことがすぐに頭の中から消えていき言葉にしづらいような喪失感に襲われる。そんな経験はないだろうか。


 俺がこの感覚を感じるのは物心ついた時からだ。最初は、この感覚がなんだか分からず、喪失感に襲われる度に泣いていたのだ。

 小学生の頃に、この不安感の話を両親にしたら、可哀想な子を見る目で見られ、病院に連れていかれた。

 病院の先生の話では、特に異常は見られないということであった。

 しかし、物心つく頃から泣いていたり、妄言を言い出す俺の状態の事で、両親が離婚寸前の大喧嘩になってしまった光景は、今でも覚えている。

 以来この話を他人にはしないようにしている。


 まあ普通に考えれば、人には聞こえない声が聞こえたり、光景が見えるなんて、頭がおかしいと思われるだろう。


 だから俺は、自分の精神の安全ために、自分で自分を守ることにした。

 簡単な話、突然訪れる光景や感覚のことを、〝夢〟ということで自分で説明し、納得するようにしたのだ。


 脳が活動している睡眠状態をレム睡眠という。

 そしてレム睡眠をとることで見るのが夢である。

 夢とは記憶の整理であり、記憶を元に作られた光景が、覚醒する際に残像として残る。その残像が段々薄れていく感覚が喪失感の正体であり、つまりは錯覚が起きているだけなのだ。


 また、意識が覚醒している時にも喪失感は感じることがあるのだが、それは〝白昼夢〟ということで説明がつく。


 白昼夢とは、体は起きているのにも関わらず、夢のような現実味のない感覚が意識を揺さぶることだ。

 起きているのに夢というのもおかしい話であるが、他の言葉で例えるならば妄想とか想像がこれにあたる。


 言わば俺は、常日頃から妄想している妄想好きな電波さんなのだ。


 自分が妄想好きな電波さんであるというのは正直受け入れづらい。それでも、まともな精神状態ではないって思うよりはマシだと思う。


 こうやって自分で説明するようになった事で、俺は何とか心の安定を得ることが出来た。


 所詮は夢。どんなに喪失感を得ようとも、現実にはなんの影響も与えないのである。



 しかし、俺は時々、〝夢〟では説明がつくのかわからない不思議な感覚を味わうことがあるのだ。


 例えば夢の中で、ある高級食材を食べたことがある。見た目はテレビなんかでは見たことはないが、食べたことはなかった。

 でも、その中ではその食材はちゃんと味がしていたし、美味しかったような気がする。

 そして、たまたまその食材を現実で口にする機会があった。別にうちは金持ちという訳では無い。その時父親が働いている会社が上手くいって、臨時収入があったので、奮発して食事に出かてた際に頼んだのだ。

 それを食べた瞬間に夢で食べた味とそっくりだと思った。何故か食べたのが2度目だと感じたのである。


 夢とは記憶の整理であり、経験のないものは再現出来ないと考えるのが妥当である。

 すると、あの時夢で食べた高級食材は、一体どうやって再現したのだろう。



 もしかすると、夢だと思っていた高級食材が本物で、家族との食事で食べた高級食材が夢だったのではないか。


 そんなことを思うのだ。



 実は今日も不思議な夢を見た。


 淫夢というものを経験したことはないだろうか。異性の恥ずかしい想像や性的な妄想から出来た夢のことだ。少々恥ずかしい話ではあるが、異性に興味のある思春期の若者にはよくあることではないかと思う。


 俺は交際経験がないのだが、別に羨ましいなんて思ってない。異性は考え方の違いがよくあるし、同性の友達と話していた方が気が楽だと思う。異性との1体1の関わりでさえ疲れるのに、関わる異性次第では同性の敵を作ることになってしまうこともある。面倒と感じるのが正直なところだ。


 だから俺は別に交際経験がないからって寂しいとかそういうことは思ってない。

 決してモテないから言い訳をしている訳では無いのだ。


 話を戻すが、淫夢というものを俺は思春期の若者らしく見たのだ。

 交際経験のない俺なので、淫夢と言っても己の持つ知識程度のものしか見れないはずだ。どこかの雑誌なんかで見たことのある光景くらいしか見ることが出来ず、触れたりは出来ない生殺し状態の夢しか見れないはずなのだ。


 でも、今日俺が見た夢は違ったのだ。


 俺の夢では、まず見たこともない広いベッドの上に俺が腰掛けていた。

 そして目の前には一糸纏わぬ少女が屈んでこちらを見下ろしていた。

 夜の帳の色をしたショートヘアー、長さは肩にかからない程度。肌は弾く様な艶があり、白い肌で薄いピンクであった。

 胸は程よい大きさで張りがあり、正直なところすごくエロい。

 交際経験はないが性欲がない訳では無いのだ。

 俺がその少女に見蕩れていると、少女の方から俺に近づいてくる。そのままベットへと押し倒されていく。


 くっ、男の俺がこんな可愛い女の子にリードされている!


 と、ちょっと悔しい思いもしたが、そんなことは関係なく、少女の吐息が耳元に当たる。

「ねぇ、・・・・・クト・・・ム」

 俺が知らない誰かの名前が耳元で囁かれ、細い指で背中を撫で回される。ほかの男の名前を呼ばれているのにも関わらず、その仕草に思わずゾクゾクしてしまう。

 金木犀のような甘い香りが脳を蕩けさせる。


 そして小さな桃色の唇が、俺の唇と交差し、雷に打たれたかのような衝撃が走ったのだ。


 しかし、ここでやはり気になってしまうことがあった。


 交際経験のない俺。当然ファーストキスも経験したことはない。

 このような感覚は知らないのだ。

 それなのにはっきりと唇の感覚が残っているのである。


 キスの後も何かあったような気がするのだが、起きてしまってから夢は急速に萎んでいく。覚えているのは夢の中でも強烈なものが中心なのだ。


 くそ、こんな時に童貞である自分が恨めしい!



 後になってからはそんなふうに思えるが、起きた直後はそんなことは考えられなかった。


 目が覚めた俺は、しばらく喪失感が反響していたのだ。もう1度眠ったとしても、もう2度とあの少女と出会うことは無いのだろうという感覚が。


 ふと顔に手をやると、瞳から涙がこぼれていた。

 初めてではないが、たまにこうしていつの間にか涙がこぼれていることもある。


 「今何時だよ・・・」


 そう言ってスマホで時刻を確認してみる。

 時刻は夜中の2時30分過ぎ


 普段ならそのまま寝てしまうが、涙で顔が濡れたまま寝ると気持ちが悪いので、お絞りで顔を拭いてからもう1度布団に入ろうと思った。


 電子レンジで濡らしたタオルを温め、洗面台の前で念入りに顔を拭く。


 顔と先程までの喪失感は今はスッキリとしている。


 だが、唇に感じた感覚は不思議とまだはっきりと残り続けていた。

登場人物の名前は次の話から登場します。

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