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0日目 始まりを告げる「おかえりなさい」

狐耳いいよね


…って、知り合いが言ってた。



「風鳴神社前ー風鳴神社前ー。ご乗車ありがとうございます。お忘れ物御座いませんよう確認の上お降りくださいませ」


心地よい揺れに微睡んでいると、運転手の渋いテノールボイスが現実へと俺を引き戻した。

運転手に礼とともに料金を支払いバス停へ降りる。振り向けば広がる古き良き田園風景と最近できたばかりの小さなコンビニ。

後ろには神社へとつながる石段がある。のんびりとした風景に、帰ってきたと小さく一息をついた。


「駅前から山道方面に20分でこんなに田舎になるとは、クラスメイト(あいつ等)絶対知らないよなぁ」


小さな優越感を胸に、俺、代守 しろもりそらは我が城たるこの辺で唯一のアパートへと足を向ける。

高校生で帰宅部の俺は特にどこにも寄らずに帰ってくるので、周囲はまだまだ明るい。

クラスメイトなんかはゲーセンによく誘ってくれるけど、あんな煩いところで遊ぶより、静かなところで昼寝したいんだよなぁ。

考え事をしながらあぜ道を歩いていると近所のおっさんやおば様方(よくお裾分けをくれるので敬語は外せない。ばーさまとか言ったらダメ!絶対!)が畑で働いているのが見える。


「こんちわーっ!お疲れっす!!」


「おう!空坊!今帰りか、お疲れさん。今日は掃除はせんのか?」


「掃除じゃなくって寝床作りな。今日は道具持ってきてないしこのまま帰るよ。おっちゃん達も頑張って!」


「そうか。すぐそこだが気を付けて帰れよ!」


「サンキュー!今度休みは手伝うからなー!」


簡単な会話をして通り過ぎる。この村は小さいので、ご近所さんは皆家族みたいなもんだ。

最初こそよそよそしかったが、しょっちゅうあっていればおっさん達の気の良さもありすぐに仲良くなれた。

今度の休みの日の脳内予定におっさん達の手伝いを書き込み、見えてきたアパートを何となしに眺める。4畳半のワンルーム、台所とトイレ風呂がついて家賃4万円という我が家は築43年を迎えながらもしっかりとそこに存在している。この村へ一人越してきた俺をずっと守ってきてくれた大切な城である。

越してきた当初を思い出していると直ぐに着き、鍵穴に鍵を…


「あれ?」


普段はすんなり入る鍵がうまく入らない。鍵穴を見てみると、凹凸がいつもと逆方向を向いていた。つまり…


「…開いてる?」


鍵は確かに俺が持っているし、合い鍵は金庫の中だ。親にも友人にも渡していないし彼女はそもそもいない。

大家さんでも来てるんだろうか。それとも…泥棒?


(ゴクリッ…)


唾を大きく飲み込むと、音をたてないように気を払いつつ、そっとドアを開ける。

隙間から中を見ると、入り口に小さな草鞋が奇麗に揃えて置いてある。当然ながら俺のものではない。

俺は草鞋なんて持っていないし、そもそも俺の足には小さすぎる。大家さんは俺よりも体格のいいおじいさんなので大家さんという線も消えた。

一応部屋の番号を確認。


「302…」


間違いない。俺の部屋だ。

こっそりとドアを俺が入れるくらいまで開けて、立てかけてある傘を手に取る。相手が泥棒か何か知らないが、ないよりはマシだろう。

ゆっくりと音をたてないように扉へ近づく。聞き耳を立てると小さな声が扉の向こうから聞こえてきてた。間違いない。誰か、いる。

ノロノロと震える手で扉に手をかけ…


バンッ


と勢いよく開く。同時に片手で傘を振り上げ…


「ひゃぁ!!」


響く女の子の悲鳴にそのまま固まった。視線の先には小学生…いや、ギリギリ中学生か?そのくらいの子が、アイロン片手に身を縮こまらせてこちらを見ている。

そのまま数瞬が過ぎ、再起動したらしい女の子はその顔に満面の笑みを浮かべて言った。


「おかえりなさい!お兄さん!」


あー、びっくりした。ところで、その傘はどうしたの?

そんな事を聞いてくる少女を前に、俺はいまだに固まっていた。何故なら…


「…お兄さん?」(ピコピコ)


その頭頂部に、かわいらしい狐耳が鎮座していたのだから。

つまり、その、えっと…どういう、ことだ…



****



家に帰ると、狐耳の少女が居ました。…簡潔にまとめてみたけど、やっぱり意味が分からない。

件の狐っ子はというと…


「~♪」


機嫌よさそうに、何故か洗濯物を畳んでいた。

大変ありがたい。大変ありがたくはあるが…なんでこうなってるんですかねぇ…

楽しそうな少女を改めて観察する。

どこからどう見ても狐の耳だ。

しっかりと観察する。

普通に狐の耳だ。髪の毛に隠れて付け根は見えないが、カチューシャのようには見えない。

じっくりと観察する。

時折ぴくぴくと動くそれは、触ると気持ちよさそうなふさふさの毛が生えている。

真剣に観察s


「あのー、お兄さん?」


「…どうした?」


「そんなに見られると、ちょっと気になっちゃいます…」


気が付くと、アイロンがけしていた手は止められ、所在なさげに膝の上を彷徨っていた。視線はせわしなく動きながらも時折、こちらをうかがうように見つめてくる。

うん、流石に女の子に対して行うことじゃなかったかもな。


「っと、すまん。…で、君、誰?」


「あ、申し遅れました!私、ふうと申します。いつも我が家がお世話になっております」


ふむ、風ちゃんね。…知らん!名前聞いてもわからんわ。この付近の家なら大体名前覚えたと思ったんだけどなぁ…けど、この子の家の人とは付き合いがあるみたいだし…だれだろう?

こんな特徴的な女の子一度見たら忘れないと思うんだけどなぁ…


「あー、ごめん。名前言われてもわからんかったや。もしかして田代のにーさんとこの子?」


近所に住むお兄さんの名前を出してみる。このくらいの子供を持ってそうな人あの兄さん以外にいなさそうだし。

しかし、なんで俺の部屋に入ってきてるんだろう?いや、そもそも鍵だってかかってたわけで…


「いえ、違いますよ?家名は風鳴と申しまして…」


ん、風鳴?そんな人近所にいたっけな?…思い出せない。

しばらく俺は、この女の子の家を真剣に考えるのであった。




****



はい。わかりませんでした。

というか、学校帰りで早くも眠気が限界だ。日課の昼寝も午後の授業が体育だったからできなかったし、一刻も早く眠らなくては。


「っと、風ちゃん。洗濯物ありがとう。もういいから、今日はお家に帰りなよ。君の家の人にありがとうって伝えておいて?」


「え?」


いや、そんな心底不思議そうな顔をしなくても…そんなおかしいこと言った?あ、もしかして洗濯物のご褒美とかいるやつ?どうしよう、今うちお菓子の貯えとかないんだけど…


(というか、勝手に上がって勝手に畳んでお礼要求とかひどくね?)


訴えたら勝てるレベル。うん。


「あの、私しばらくここに居候させていただくようにと送り出されたのですが…」


「え?」


二人して顔を見合わせて首をかしげる。その動きが示し合わせるでもなく同時に行われて、ちょっと笑いが出てしまった。

当家から聞いていませんかという風ちゃんであるが、いくら記憶を漁ってもそんな記憶は出てこなかった。


「あの…やっぱりだめ、ですかね?」


正座した膝の上の握り拳を小さく震わせながら不安げにしている風ちゃんは、そういって目をふせた。


「えっと、これダメって言ったら風ちゃんどうするの?」


「帰って来いと言われるまでは…その、どこか小屋を借りて寝泊りを…」


「OKわかった。いいよ、じゃんじゃん泊って行ってだからお願い泣かないでぷりーず!」


言っているうちにどんどん涙目になっていく風ちゃんに耐えられず、思わず許可を出してしまう。同時に輝きだす瞳が二つ。


「ありがとうございます!洗濯掃除にご飯に添い寝全部全部頑張ります!不束者ですがどうかよろしくお願いします!」


「いやちょっと待ってそれいろいろ違う!」


これは


「あ、お兄さんお兄さん」


頭から狐の耳をはやした少女と過ごした


「ん?どうした?」


たった一週間の何気ない日常


「改めまして、おかえりなさい!」


「おう、ただいま」


そんなお話。

「母さん!うちに狐耳の美少女が来たんだけど!」


「は?あんた頭大丈夫?」


「ですよねー」


まあ、こうなる。

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