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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
7/39

07 ギルド登録しましたよ




 俺はある建物の前に立っている。……そろそろかな?


 扉を開けて中に入ると若干の汗臭さと酒の匂いが漂ってきた。


 右側と正面奥の壁に窓はあるが広い室内はそれでも薄暗さがあり、年季によって建物全体は汚れていてもそれなりに清潔感が見て取れた。


 左の壁側にはテーブルが六つとイスが四脚づつ置かれていて数人の男達が座ってこちらを見ている。正面の奥にはカウンターとその向こう側に女性が座っていた。


 俺はカウンターまで歩くと『登録しに来ました』と告げる。


 その言葉を聞いた男達は一斉に笑い始めると一人の男が近付いて来た。


 「おいおい、ここはガキの来る様な所じゃねぇぞ、怪我しないうちに帰りな。何なら家まで送ってやるから有り金よこせよ」


 何故だろう、チンピラモドキが死亡フラグよろしくと挨拶してる様に見える……


 「登録に年齢制限はありませんよ、理解力が無くなるまで飲まれてる様でしたら宿まで送ってあげますからサイフの中身を全部下さいね」


 溢れんばかりの笑顔を作って、にこやかに返す。


 それを聞いた男は顔を真っ赤にして殴りかかって来くる。腰の剣を抜かなかったあたり少しくらいの冷静さはあるんだな、ここで抜けば逮捕だったのに。


 向かって来る時から振り上げている拳なんて当たる筈も無く、振り下ろされる拳を右手で受け流すと同時に手首を掴んで捻りながら下へ引き、足を引っ掛けると男は勢い良く倒れる。


 「ほらほら、飲んで走るから倒れるんですよ。気を付けて下さいね」


 他の男達からは手首を掴んだ所は見えていない、男が勝手に倒れたアピールをしつつ周囲を見る。


 男は一人で飲んでいたから仲間は居ないだろう。他の男達は倒れた男を笑っているだけで立ち上がろうとする人も居ない。


 男は顔を顰めて右手首を押さえながら立ち上がる。少しばかり余分に力を入れたからな、軽い捻挫といった所か。


 二戦目突入かと思ったが男は舌打ちすると足早に出て行った。『根性無し!』、笑い声の中にそんな罵声も混じっていた。


 他の客からしたら他人事なんだろう、今の騒ぎを肴に飲んでいるだけで参加しようとはしなさそうだ。


 振り返るとカウンターの女性は登録用紙を用意して待っていた、記入してる最中も顔色を変えず何も聞かれなかった。一通り書き終わり登録用紙を渡す。


 「それではこのオーブに右手を当てて下さい。……ではギルドプレートが出来上がるまでの間、二階の部屋で説明を受けてください」


 あのオーブは魔道具かな? 仕組みを知りたいが教えてもらえないだろうな。それと、あれくらいの騒ぎは日常的なのだろうか、女性は淡々と業務を熟している。


 プロだなぁ、と関心しつつカウンターの奥にある階段で二階に上がると、正面の扉をノックして中に入る。


 部屋はそれなりに広く、部屋の中央にある長方形のテーブルを挟むようにソファーが二つ、その向こう側には執務用の机と椅子があった。


 部屋の中には男が二人。ギルド長だろうか、ガタイの良い男が眉間にシワを寄せて奥側のソファーに座っている。


 その隣にはゲラゲラと笑うスランの姿があった。


 そう、今日隣街の冒険者ギルドへ連れて来たのはこの男だ。今も『な、面白いだろ?』なんてギルド長らしい男の背中を叩いている。


 ギルドの前で『暫くしてから一人で入って来い』って言われた時から嫌な予感はしていたんだ。


 どうやってかは解らないが一連の遣り取りを見ていたんだろうな。まぁ、俺は悪くないから大丈夫だろう。


 「私はここの支部長をしているクルダだ、喧嘩馴れしてるようだがギルドに登録したからには勝手は許さんぞ」


 いや、それ向こうが売ってきただけで正当防衛だし、手加減もしてるぞ!


 「……以後気を付けます、【クルダダ】さん」


 クルダ、だ! クルダ! 顔を赤くして怒っている。よし、予想通り。


 俺のささやかな仕返しにスランは腹を抱えて笑い転げてる。


 「別に好きで貴方を笑わせてる訳じゃ無いですが丁度良いからそのまま笑い死にして下さい」


 冷ややかな目をスランに向ける。


 「キミは、容赦が無いな」


 「死なない程度に手加減してますよ」


 俺の返しにクルダは『ふむ』、とまた難しい顔をした。


 和むと思ったんだけどなぁ、この男の笑いのツボは何処にあるんだろう?


 そんな俺を見たスランから意外な一言が出た。


 「そいつが眉間にシワを寄せてるのは笑いを堪えてるからなんだぜ」


 なん……だと……?


 その後色々と話してみたが何の事は無い、クルダは所謂【勘違いされ易い人】で先程の『勝手は許さん』もギルドの一員となった心構えの事で喧嘩云々の話では無かったのだ。


 一通りギルド規約を聞いた所で受付の女性が入ってきてギルドプレートを手渡してくれる。


 何というか淡々と仕事を熟す彼女を見て、わりと綺麗なのに勿体無いなぁと思い『綺麗なお姉さんありがとう』と、子供らしい笑顔でお礼を言ってみると、子供は素直ね。なんて少し顔を赤くして上機嫌で帰っていった。


 うん、美人は笑顔が一番だ。我ながら良いことしたなぁ


 そういや前世でも窓口の女性公務員は事務的ながらも笑顔だったしな。うんうん


 「口説くなとは言わんが、せめて仕事が終わってからにしてくれないか?」


 「……お前、マリアにチクるぞ」


 ちょ! 違っ! 言いそうになって思いとどまる。ここで慌てたら更にからかわれるだけだ。


 「別に口説いてません。それに、マリアとはそういう関係でもないですから」


 「そぉかぁ? 夜中にこっそり逢ってるくせに」


 「何で知って――」


 そこまで言って口を塞ぐがもう間に合わない。


 「えっ、マジだったのか!」


 乗せられた! ありがちな誘導に引っかかっちまったよ。俺のバカ……


 まぁ、今更否定しても遅いし狼狽えれば思うつぼだな。開き直るしかないか。


 「別に疾しい事はしてません、彼女の晩酌に付き合ってるだけですから」


 「お前、こんな所まで隙無しかよ、面白みねえな。親父を見習えよ」


 「父様は尊敬してますがそこを見習うつもりはありません」


 そう言いながら受け取ったギルドカードに目を向ける。



―――――――――――――――――――――


 エルドニア・バーデンセン 人間:男 9歳


 ギルドランク:F


 称号:無し


 スキル:剣術:E/格闘術:A


―――――――――――――――――――――



 そこで気が付く、そういや昨日で九才になったんだな。こっちの世界じゃ誕生日を祝うなんて習慣が無いから忘れてたよ。王族ですら成人になる十五才以外は何もしないんだから仕方ないが……。うん、まぁいいや。


 そしてもう一つ気になる事が【格闘術:A】だ。長年部活動をしてきたが目立った成績を残した覚えは無い。県大会への出場経験はあるが二回戦止まりで、当然人に教えられるようなもんじゃない。


 剣術がEなのを考えれば良くてもCでDくらいが妥当だろう。『どれ、見せてみな』とスランが俺の手からカードを取るとクルダも『どれ』と覗き込んだ。


 「何だこりゃ? 見た事あるか?」


 「いや、……これは初めてだ」


 どうやらツッコミ所はスキルランクだけじゃ無いらしく『エル、武術なら解るが格闘術って何だ?』と聞かれた。


 そうか、こっちの世界に武闘家はいても格闘家はいないのか。所見のスキルならそりゃ驚くよな。


 でもランクAの説明はつかないぞ? 以前にスランを投げたのだって相手が受ける気でいたからこそで、真剣勝負だったらあそこまで上手く行く筈も無くこっちが倒されていただろう。


 大体、部活動と道場通いで試合はしても命を取り合う実戦なんて……あれかっ!あ~、つまりこのAってのはあの時に変身した能力込みでAなのか。


 スキルに変身が無いって事はスキル=【技・技術】修練を積んで鍛えていくもの、変身は個人的能力【パーソナル・アビリティ】で先天的なものを指すのだろう。


 まぁ、スキルに【変身】なんて載ってたらツッコまれまくりだったな。

 

 「しかしAか、C以上だとは思ってたが……」


 「Aって事はお前の剣術と同じじゃないか?」


 えっ?! それって変身した俺とスランは同格なのか? 確かスランはランクBの冒険者って聞いたぞ? それじゃランクSの冒険者なんて国滅ぼせるんじゃね?


 ランクとスキルは別物とは言え低スキルで高ランクは考え難い、スランがソロで活動している事を加味してもSランクは尋常じゃない強さなのだろう。


 俺が思案に固まっていると。


 「まっ、秘密にしたい事もあるわな。……ほれ、簡易表示にしといたぞ。スキルは冒険者の生命線だからな」


 そう言って返ってきたカードには称号とスキルの欄が消えていた。



 『さて、登録も終わったし帰るか』そう言うと馬に二人乗りして街を出た。何故登録のために隣街まで来たのか、あの酔っ払いじゃないが早い登録に意味はあるのか聞いてみる事にした。


 「あのな、人生の半分を修行に打ち込んで片手でドラゴンを倒せる達人になったとしても、ギルドに登録した時点ではFランクだ。コボルト一匹に必死な新人と同じ扱いなんて馬鹿らしいとは思わないか?


 弱い奴は地力を付けてから登録した方が良いが、強い奴はさっさと登録して自分に合ったランクまで上げた方が何かと便利なんだよ。特に相手をランクで判断する奴は多く居る、冒険者にも依頼者にもな。


 お前が冒険者になるかどうかも解らないが、なっても可笑しくない実力があるなら登録だけでもしといた方が良い。今後、本格的な実戦もするつもりだしな」


 つまり剣術を教えながら魔物討伐をして行くと……。もう学校の授業じゃないよなそれ。


 あれか? 俺に合わせると授業が実戦になるのか? 


 そんな事を考えてるうちに街との中央あたりにある集落に着く。もう日が暮れているので今日はここで一泊だ。


 馬車と違い早いのは良いが腰と尻が痛い。少し早いが軽く柔軟をして寝よう。


 早朝、馬に乗って出発だ。この時間なら昼頃にはコルト街に帰れるだろう。


 「……おい、前を見てみろ」


 集落を出て三時間くらいした頃、異変に気付いたスランは俺に声を掛けると馬を急がせた。


 前方を見ると馬車が道から少し反れた位置に止まっている。装飾から見ても貴族の馬車なのが伺えるが……


 そこで馬車の影に魔物の姿を確認すると、腰の剣に手を掛ける。


 馬車に接近すると従者一人とゴブリン三匹が戦闘していたが分が悪そうだ。馬から飛び降りる勢いそのままに斬りかかるが浅く、致命傷には程遠い。


 「どうした、腰が引けてるぞ!」


 解っている、これは忌避だ。覚悟は出来ている筈なのに魔物相手でもどうしても迷いが出てしまう。もう何度も倒しているのにだ。


 横目で確認するとスランは既に他のゴブリン二匹を倒してこっちの様子を見ている。くそっ! 何をやってるんだ俺は。


 ゴブリンの攻撃を剣で受けて反撃するがまだ半歩足りない。結局、一匹倒すのに七度も切りつける事になった。


 怪我をしなかったのは良かったがスランに『お前、強いのか弱いのか解らんヤツだな』と嫌味を言われた。


 スランは従者の手当をすると乗っていた馬を馬車に繋ぎ、俺と従者を後ろに乗せて馬車を走らせた。




 ――馬車の紋章はレイグラート、父の実家のものだ。






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