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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
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05 学校に通いましたよ




 ブンッ! ブンッ! ブンッ! 力強く木刀を上下に振り下ろして素振りをする


 タッタッタッタッタッタッ…… 学校の周りを無心で走り込む。



 俺は入学してからひたすら体力作りに励んでいた、戦える体を作るために。


 あの時の虚しさは一生忘れはしないだろう。見た目だけの問題では無い、自分の力で勝った訳じゃ無いと解っているから達成感が無く、その事が虚しいのだ。


 どうしようも無い時、俺はあの力にきっと頼るだろう。けれどもそれは最低限に抑えたかった。


 ――あれから三年半、俺は八才になっていた。



 学校では剣術をメインに習っている。先生はアルサス・バーデンセン、父様だ。


 父様の受け持ちは剣術、そして最近では政治・礼儀作法を教えている。


 最近というのはウィレス兄様が十二才となり、この世界での成人まで後三年になった事で跡継ぎとしての教育を本格的に始めたのだ。


 今、父様はウィレス兄様に政治を教えている。去年入学した弟のオースティンも一緒だ。そんな訳で自習になった俺は素振りと走り込みを交互に繰り返している。


 弟は運動より座学が好きな学者肌で学校にいるほとんどの時間は座って本を読んでいる。


 弟と違いあまり勉強の好きでは無いウィレス兄様だったが跡取りとしての自覚はあるらしく父様の講義を熱心に受けていた。


 ただ、その自覚も変な方向に伸びているらしく最近ではマリアへのセクハラ行為も増し増しで、彼女の晩酌の量と愚痴の時間が増えている。


 マリア曰く、ウィレスが引き継ぐ爵位と財産の中にはマリア自身も入っていると勘違いしているらしく、いずれは俺の女になるんだとセクハラ行為に及んでる。


 流石にまだ両親に知られたくないのだろう、あからさまな態度では無いし人目を盗んで二人きりになるチャンスを狙っている様だが妹のカチュアは気付いているらしく、最近ではまるで蟲を見る様な目をウィレスに向けている。


 カチュアが学校に行かないのにはその辺に理由があるらしく、母様が菜園で作業している時間はマリアに張り付いているそうだ。


 妹なりにマリアを守っているのだろうな、六才とはいえ同じ女性として思う所があるのかもしれない。


 まぁ、単純にウィレスに近付きたくないのもあるようだけど……



 そんなカチュアは少し前からマリアに料理を教わっていて最近は食卓に妹の料理が並ぶようにもなった。


 本来なら貴族に料理のスキルは要らないと止められる所だが、うちがそうじゃないのには理由があった。


 それは一昨年、マリアが風邪をひいた事だ。


 この地域は気候が安定していて風邪をひく人は頬んどいない。ましてマリアは健康な方でオレが知る限り一度も無い事だった。


 母様は料理が出来ない、包丁も持ったことが無いそうだ、まぁそうだろう。


 兄弟達は論外、頼みの綱の父様は『料理? できるぞ、肉を焼けばいい』だ。


 最悪それでもいいさ、でも病気のマリアに焼肉はないだろう……


 俺は料理が出来た、だてに一人暮らしを三十年以上してきたわけじゃない。


 ただ子供を演じている今は違う、料理を手際良く熟す六才児なんてありえない。


 だけど手抜きをするのは食材に対して申し訳なくもあり、マリアに不味い料理を食べて欲しくもなかった。


 俺は悩んだ挙句台所に立った。幸いこの世界には米がある、醤油も味噌もミリンさえあった。


 流石にカレーが作れる程の香辛料は無いが、ある程度の香辛料と調味料はある。


 俺は釜土の上の鍋に目を向ける、そこには昨日の野菜のスープが残っていた。


 だが人数分は無いので水と野菜と鶏肉を骨ごと加えて出汁を取る事にしてその間にご飯を炊く。


 こまめに灰汁を取ると最後に野菜と鶏肉を取り出す。鶏肉は骨を外し身は醤油・砂糖・ミリン・お酒等で甘辛く味付けをする。


 スープを二つに分けて、量の多い方に野菜を戻して味を調えスープに。


 このスープと鶏肉を家族分に分けてご飯をよそる。


 少ない方のスープは一旦冷まして油を取り、ご飯を加えて煮立たせたら鶏肉をほぐして上に撒き、溶き卵をかけ少し蒸らして雑炊風にすると


 最後に少量刻んだ三つ葉モドキを乗せてマリアのご飯にして持っていった。


 そんな感じでマリアの風邪が治るまでの二日間は俺が料理を作った。


 家族からは不思議な目で見られたが以前マリアに教わったととぼけておいた。


 まぁ、ツッコミたい気持ちは有っただろうが美味い食事とツッコミを天秤にかけて食事を選んだんだろうな。 ――俺でもそうしたさ。


 そのすぐ後、妹は料理を教わりたいと言い出したが当然両親に反対された。


 今後同じ事が起こらないとも限らないし男が台所に立つよりは良いと思うと俺が援護射撃をした事もあり最後は渋々ながら了承を得た。


 ただ、四才になったばかりの妹に刃物は持たせられないと学校に通う年齢の六才まで待たされたのだ。


 それと、母様とマリアから空いた時間に勉強を習う事も条件に入れられた。



 考え事をしながら素振りをしていたら何時の間にか男が一人近付いて来ていた。


 見かけた事が無い、外の人か。……革製だろうか軽装ながら一式装備した感じで腰には剣が下げられている。


 一瞬驚いたがそれを表に出さないように警戒しつつ口を開く――


 「どちら様でしょうか、学校へはどうのようなご用事でしょう?」


 両手で握っていた木刀を右手で持ちゆっくりと下げる。これは警戒心が無いと思わせる事と、万が一の時に投げるための初動作だ。


 投げるといっても振りかぶって上から投げるのでは防がれやすい、だからこれは下手投げだ。この方が防がれにくく動作も少ない。


 この男の力量はわからない、だが俺より強いのは確かだ。ならおかしな素振りをしたら木刀を投げて逃げる。


 最悪一瞬でも足止め出来れば俺が切られる事があっても、その一瞬で叫び学校の中の人達に危険を知らせる事くらいは出来る筈だ。


 「その木刀を投げる気かい? 凄いな、一瞬でその判断は賞賛に値するよ。


 オレの名前はスラン・エーロゲ冒険者だ、隣街で依頼を受けてこの学校に来た」


 不安なら剣を外そう。そう言ってゆっくりと腰から鞘に入ったままの剣を地面に置いた。


 男からは敵意や害意は感じ取れない、俺は熟練の剣士じゃないから元からそんなものは感じられないけど、そうした雰囲気はなさそうだ。


 「私はエルドニア・バーデンセン、今は授業中で責任者の方も指導中なので剣を持って中でお待ちください」


 わかった、と剣を拾ったので案内しようと背中を向けた瞬間、首筋に悪寒を感じて咄嗟に膝を落としつつ低く飛ぶような前転で距離を取って振り返る……


 男は動いていない。というか、それを見て拍手していた。


 「いいね、良い意味で裏切られた気分だよ。先が楽しみだ」


 何の事だか、からかわれたのは間違いないだろう。


 「大人なんですから子供相手に悪趣味なおふざけは遠慮してくださいね」


 「あ~、それよく言われるわ」


 ボリボリと頭を掻きながら視線を反らして呟かれた。


 『よくやってるのかよ! 誰に言われてんだよ!』ツッコミたい気持ちを抑えて深呼吸を一回、気を取り直すと体に付いた草や土を払いながら応接室に案内する。

 

 仕返しに部屋を出ていく時に鍵を掛けようかと思ったが相手と同レベルになるのが嫌で止めといた。



 授業が終わり中休みの短い時間、子供達が教室から出て思い思いに遊んだり次の授業の準備をし始める。


 あの男は責任者……父様と話しているんだろうか。流石に男爵をからかいはしないだろうな。


 俺は日陰に座り学校の壁にもたれ掛かりながら汗を拭いて体を休ませていると、あの男と一緒に父様がやってきて説明してくれた。


 「自己紹介は済んでいるんだったな、今日から暫くの間剣術の先生になる。


 多少性格はアレだがこう見えてBランクの冒険者だ、色々と残念な事にな……


 悪趣味なイタズラをされると思うがお前なら怒らずに適当に流せるだろう」


 あ~、誰に言われてるか解ったわ。


 「そう言う事だ、オレの事はスランでいい。よろしくな」


 伸ばしてきたその手を取って握手した。エルでいいです。よろしく、と。


 「……しっかし、娼館に誘っただけで真っ赤になって逃げてたお前が子持ちとはなぁ、変われば変わるもんだ」


 その一言を皮切りにスランと父様の過去の暴露合戦が始まった。


 もちろん勝者など居ない不毛な戦いは互いに傷を残すだけで終わったのだが、二人共楽しそうだった。



 暴露話の中身を整理してみると、父様は結婚する大分前にスランや他のメンバーと冒険をしていたらしい。


 ――遊歴というやつだろうか。


 ある時、仲間の一人が怪我をしてしまい引退する事になった。


 スランはどうしようも無い事故だと言うのだが、どうやら父様は自分の所為だと冒険者を辞めた、自分には資格が無いと言って……


 父様は剣を教えていたけど冒険者だった事は初めて聞いた。おそらく名乗る事さえしたくなかったのだろう。


 「授業が始まるから私は教室に戻るが、解らない事があったらそいつに聞くといいぞ。何とか流の師範の資格持ちだからな」


 柔剣流だ柔剣流!いい加減憶えろ。怒鳴るスランを無視して父様は教室に戻った


 まあいい、と呟いたスランは振り向くと睨むような真剣な目を俺に向けて一言


 「木剣を片付けろ、二度とそいつで素振りをするな」


 はっ? 理由が解らない。




 ――ただ、それが剣術指南の始まりだった。






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