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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
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04 復興しましたよ (番外編)




 私はセロ・バートン十二才。一応貴族らしいが自分では平民だと思っている。


 父は男爵家の末子で継承権は無かった。実家では冷や飯食らいの居候扱い、家族はおろか家付きの侍女にさえ嫌味を言われても言い返せない程冷遇されたいた。


 御爺様が引退し長男(父の兄)が跡を継ぎ父と私は屋敷を出される事となった。


 父は母と私に平民として街で暮らすと告げる。私としては自分が貴族という自覚はなかったのでなんとも思わない。むしろ息苦しい思いをしなくて済むと思った。


 翌日、母は父と私を捨てて実家に帰った。母もまた男爵家の末席に位置する冷や飯食いだったが例え冷遇されてでも貴族である事を捨てられなかったのだろう。


 私と父は小さな家にいた。ここは以前使用人が使っていた領主の持ち家、情けで譲られたのだが宛の無い私達にとってはありがたかった。


 街で買った硬いパンと水で食事を取りながら今後について話し合う、と言っても二人共何も出来ないのだから話は進まない。


 結局話は纏まらず、何か出来るかも知れないと手当たり次第に働き口を探す事にした、結論から言えば父も私も全滅だった。……情けなくもひもじい。


 年の終わりも近づいた頃、叔父から使いが来た。どうやら呼び出しのようだ。


 実家に良い思い出はなかったので内心気落ちしていたが、家を出たからだろうか客人としての扱いに、微妙に背中がムズ痒くなる。


 少しして叔父がやってきた。


 叔父は簡単な挨拶を済ますと本題に入っる。今夜行われる国王即位三周年記念に一緒に出席しろと言う事だ。


 「生活が上手くいって無いんだろう、あの頃より痩せているぞ。


 お前にだって意地は有るだろうがこんな時くらい息子に美味い物を食わせても良いだろう?


 お前が望むなら――「兄さんっ!」


 話の途中で父が声を上げて静止した。叔父は何が言いたかったのだろう……


 少しの沈黙の後、父は叔父の勧めを受けてパーティーの出席を決めた。



 その日、事件は起きた。国王を狙ったであろう矢が運悪く直線上に入って来た父の左肩に当たったのだ。毒などが塗られていなかった事が幸いだった。


 その後何があったかは知らない、ただ『隣国からの政治的な警告』と噂された。


 父は国王を守った者として男爵位と領地、そして新たな性、バーデンセンを授かった。旧姓バートンと国王の幼名デンセンを併せた名誉有る性だ。


 この時の感動と誇らしさは一生忘れないだろう。


 領地には小さな村が一つあるだけだが領内には後二つまで建村する許可も貰えていた。


 元々貴族である事を諦めていた父と私にとっては有難い反面、困惑もしている。


 致命的な程に統治の仕方が解らない、何も出来ない私と父は村民と共に農業に明け暮れるしかなかったのだ。


 数年後、過労と心労から父は早く亡くなり悲観に昏れていた頃、一組の親子連れが村に彷徨い訪れた。


 その母親は耳が長く尖っておりエルフのそれを思わせるが、見た目は人族と変わら無い事からハーフエルフなのだろう事が伺える。


 母親によると村の顔役だった男と結婚し娘を産んだそうだが、ある時モンスターの襲撃にあって亭主を亡くしたそうだ。


 顔役である男の一存で村に暮らせていた母娘はその日の内に村から追い出された


 事情を説明する母親の顔が、何故か疲れきった父の顔と重なって見える。 


 ――その日から母娘は侍女として屋敷で暮らす事となる。


 食い扶持は増えるが収入が増えるわけでは無い、それでも家族が増えた気がして嬉しかった。


 明るく聡明な娘、マリアはクォーターの為か見た目は人族と変わり無くその事が母親を安心させていたが、寿命の長さはエルフ寄りなのだろう見た目と年齢に差が出始めていた。


 ここが領主も畑仕事をする田舎の村だった事から差別意識は殆ど無く、平穏に暮らせる事が救いにもなっていた。


 母娘が来てから三ヶ月ほど経った頃、安心したのか急に母親の容態は悪くなる。


 隣街から医者を呼んで診て貰ったが徐々に母親の体力は衰えていった、そして一年と経たず別れを迎える。


 励まし、看病しか出来なかった私に母親は微笑み礼を言ってくれた。


 弔いをしたその日、私とマリアは泣いていた。そして私は母親の墓標の前でマリアを責任を持って育てると心に誓う。



 あれから数年、私は村役の娘と恋に落ち、娘が産まれた。


 名前はイザベル、きっとマリアは良いお姉さんとなってくれるだろう。


 だが嬉しい事ばかりでは無い、村が寂れ始めていたのだ。


 理由は貧乏、それしか思い付かない。商人も寄り付かない国の最東端、出稼ぎに行く村人はいても移住しに来る人は居ない。


 外から来た人は私の知る限り今はマリアだけだ、だが何も無い村を発展させる方法なんて知らない。


 結局、私に出来るのは畑仕事と無力な自分を嘆く事だけだった。



 ――そんなある日、突然転機が訪れる。娘と結婚したいと侯爵家の次男が家に押し掛けてきたのだ。


 屋敷の横にテントを張ると毎日私に頭を下げ、娘に熱い言葉を語り続けるその姿に私も娘も何時の間にか結婚を了承していた。


 ただ、侯爵家を捨てたらしく絶縁状態だったのは呆れたが、私としては久し振りに村人が増えた事が単純に嬉しかった。


 村の寂れた様子を見たアルサスにここ数年の政策と村の変化について聞かれたので正直に答えると、頭を抱えられた。


 アルサスは特に貧困に苦しむ村人数人を集めると前金を渡し仕事を与え始める。


 村の中の比較的広い場所に学校を、村の中心に近い空家を教会に建て直させると教団に手紙を送った。


 また、工房を作ると隣街の職人に通いで来て貰い、農具や食器類を直しつつ村人に手解きをお願いした。


 修行中の村人の生活も保証していた為か家計は厳しかったが、それで村人が助かるならと黙っていた。


 アルサスの頑張りとは裏腹に村人も私も彼のする事を冷めた目で眺めていた。


 人が減り続ける村に学校や教会なんて建てるだけ無駄、所詮はボンボンの思い付きだと皆が思っていたのだ……


 けれどアルサスは止まらない、腕の立つ村人を集めると村外れへ討伐に出かける


 ゴブリン等は必要部位を採取し、猪や熊は焼いたり鍋にして教会で振舞った。


 そんなある日教団から派遣されたと神父がやって来た、明らかに左遷されましたと不満顔だったが、アルサスはそんな彼にお布施を渡すと意外な事をお願いした。


 神父は学校で神学や道徳、計算なんかを教え始めた。アルサス自身も手の空いた日に剣術を教えている。


 何故か学費は無料にした。しかも少ないながらも昼食まで出している。


 この学校の運営は狩りによるもので、魔物の部位は売ってお金にして一部をお布施にし、残りは困窮に苦しむ村人に改築などの名目で仕事を与えている。


 熊などの獣は狩猟メンバーと分け、自分の取り分を学校の昼食としていた。


 だがそんな事は長く続かないと思っていた、解りきっていたが魔物も獣も狩れば数が減るのだから。


 その考えは当たっていた。ただ、その先は想像と違っていた。


 村の周囲が安全になると商人達が通い始め、物価が安くなり、学費が無料だと噂になると隣領や集落から移り住む人が増え始める。その中に薬草の知識が高い人がいれば薬師として独立するまで世話したりと様々な才能のある人の援助をして職人や商売人や教師が増えていった。


 家が足りなくなると何時の間にか建築家となった村人が移住者からお金を受け取り家を建始め、村人が増えた事で税収も増えると学校の運営も賄え神学により信仰が増えるのと比例してお布施も増えて教会も安定して成り立った。


 最近では神父も自分のすべき事はこの村に有ったと活き活きしている。近々教会を大きく増築するようだ。


 いつの間にか南にある海で塩田を作り村に塩を格安で卸してもいる。


 通いの鍛冶屋は何時の間にか住み着き、数人の商人も定住しており商館を建ててギルドの支部を作ろうとアルサスと相談していた。


 ここまで来ると彼の治政能力を疑った自分が恥ずかしくなる。後は任せようと私は男爵位をアルサスに譲り妻と二人で暮らす事に決めた。


 ――気付けば村人は倍以上に増えていた。


 そして娘夫婦に長男が産まれた翌年の事だ、国から一通の手紙が届く。



 『――人口及び流通量、並びに教会・学校等の特定施設の運営状況。


 独立した複数の職人業種と生活施設、ギルドの確保。


 その規模と将来性からアルサス・バーデンセン男爵領 コルト村を


 本日付を持ってコルト街と名乗る事をここに許可する。


          第十七代国王 クルフタグ・デンセン・エセル・ファーツ』



 村人を中央広場に集めると、アルサスは手紙を村人に読み聞かせる。


 それは奇跡としか言い様がなかった。私を始め誰もがそう思っただろう。


 ただ、アルサスと数人の商人は『当然』と満足気な顔をしいる。


 コルト街が誕生した瞬間を街人全員が喜び、祭りの様に飲んで騒いだ。




 ――この日、古くからこの街に住む人々は、アルサスを救村の英雄と呼んだ。






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