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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
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03 変身しましたよ




 マリアとは色々あったが概ね順調に暮らせている。てててっと歩きながら懐いてくる二才の弟妹の頭を撫でると二人をマリアに預け裏庭にある小さな菜園の手伝いをしに行く。 ――俺は先月五才になったところだ。


 菜園ではイザベル母様が土弄りをする姿があった。うちは貧乏貴族ではあったけど侍女を雇うだけの余裕があり、自給自足する必要性は無い。菜園は母様の趣味であり、それが家計の助けにもなっていた。


 「母様、何か手伝える事は有りませんか?」


 聞いてはみたものの正直手伝える事などない。それほど大きくない菜園を母様は毎日手入れしているのだ、足元には毟る雑草の一本すら生えていない。


 「ありがとう、優しい子ね。ここはいいから好きな事をしてらっしゃい」


 そう言われた、人の趣味に手を出しても余計な事かと思いつつ暫く作業を眺める事にした。


 どうやら今は畑を区分けして其々肥料を変えて味の変化と作物の発病率を試すらしい。母様、それは既に趣味のレベルでは無いような……


 マリアに聞いた話では母様の趣味は子供の頃からで、御祖父様に教わったそうだ


 たまに農家の人達が相談に来ているのを見かけるので最初は農家より詳しいのかよ、と思ったのだが実はそうじゃないらしい。


 菜園で試した事をレクチャーして収穫向上に励んでいるのだ。職人というよりは学者に近い事をしているな……。ん? それって俺ら家族は被験者じゃない?


 ちなみに御祖父様は存命してる、早々と男爵位を父様に譲って街外れで自給自足の隠居暮らしを堪能中だ。何というか自由でいいな。


 さてと、手伝う事が無いならこれ以上眺めていても意味はないので『散歩に行ってきます』そう母様に一言告げて背中を向けた。


 「やりたい事が解らないなら学校へ行ってみたらどう? 何か見つかるかもよ」


 菜園から立ち去ろうとする俺に母様はそう言った。


 この世界には義務教育期間がないので基礎は家庭教師に習わせる事が一般的だ。学校ではそれ以上の専門知識を学んだりする。そのため十二才で入学して十五才で卒業していく。


 家庭教師にしろ学校にしろ授業料が高いので学ぶのは貴族か一部の豪商で平民は簡単な読み書きすら出来無いのが普通だが、俺の住む街で言う学校は特殊だ。


 六才前後の幼少期から基礎となる勉強を教え、十~十二歳で卒業していく。学費がタダな事もあり学校に通う子供も多く、その大半が平民だ。


 残念ながら魔術経験者がいないので魔術授業は無いが、読み書き・計算・剣術などの基礎を教えている。そのためか一部ではコルト出身者は就職し易いと言われていて移住希望者が後を絶たない。これは領主である父様の政策によるものだ。


 村と言われてもおかしくない程度の小さな街だから出来た事なのだろう、教師を雇い自分も教鞭を執って指導している。


 父様曰く、――教養は街の発展に繋がり、いずれ領主もその恩恵を受けるのだ。



 うん、いい話だ。先見の明というやつか、とても母様に一目惚れして侯爵家を飛び出して男爵家の婿になった男と同一人物とは思えない。


 好きな相手と結婚を望むのは悪い事じゃないと思うだろうがそこは微妙に違う。


 一目惚れして考え無しに家を出たのだ、誰に反対された訳でもなく荷物を纏めて男爵家に飛び込んだのだ。


 次男とはいえ侯爵家からの求婚に男爵が断れる理由もなく母様もその情熱に押された形で結婚したのだが、家を飛び出したのは間違いだった。本来、侯爵が後ろ盾となるなら男爵といえども肩身の狭い思いはしなかっただろう。


 だが対外的に見ると家を捨てたのだ、これは醜聞でしかなく表面上は絶縁という形に治まるしかなかった。


 年に数度の手紙のやり取りこそ有るものの父様は二度と侯爵家の領地に入る事は出来ないし、今後表立った援助も望めない。


 『一言相談してくれれば……』と、最初の手紙に書いてあったらしい。


 何ともアホらしく間抜けな話だ。


 さて、話を戻してみると。まぁ、人の事は言えなかったりする。


 俺自身学校には行こうと思っているのだが、何と云うか踏ん切りが付かずに六才からと先延ばしにしている。父様くらい思い切りの良い行動力があればなぁ……。


 情けない話だが何かをするのに切っ掛けは必要だと思うよ、うん。


 そんな自分に言い訳をしつつ街中を散歩すると、行く先々で挨拶や頭を下げられたりする。


 こうして見ると父様のカリスマ性は大したものだ、内政に力を入れ街人の声に耳を傾けている所為もあるのだろう。こうして歩いていても睨まれたり嫌味を言われる事は無い。


 たまにお茶に誘われる事もあるが遠慮はしない、それが子供らしいからだ。


 大半はお茶だけでお茶菓子はないけど希に出てくる時もあり、それを食べながら彼らの話を聞く。


 そうしていると将棋の様な戦略ゲームに誘われたりもする。最初こそ本気で打っても負けていたが、コツを掴めば負けはしない。と言っても子供が年寄りに勝つとか可哀想な事はしない、ギリギリの勝負をして最後に負けて花を持たせる。


 場は盛り上がるし爺さん連中もいい気分で『まだまだじゃな~』とか言ってくるので、悔しがって見せる。


 接待の様な勝負も一通り終わると席を立って散歩を再会する。子供とはいえ貴族に勝って気分が良さそうだ。良いガス抜きになったろう。


 俺も貴族の家に生まれたのだからそれくらいはしないとね、そんな感じに巡回していると街外れに到達する。


 ――ちょっと行ってみるか。少し考えた後、街道を進む事にした。


 このまま真っ直ぐ行けば大きな街がある、さらに進めばこの国の首都にもたどり着けるだろう。とは云え首都までは馬車で一ヵ月以上かかるので近くはない。隣街まででも三日位だろう。……早馬なら一日くらいかもな。


 この辺は治安が良く盗賊が出たという話は聞かないし頻繁に討伐隊が街道とその周辺で狩りをしているので魔物に襲われる事も少ない。


 途中には集落もあり寝泊りや食料の補充も出来るので安心だ。


 そのおかげか多少街から出ても怒られたりはしない。野宿で一泊なんて馬鹿な事をしない限りはの話だが。



 さて、この道をを歩くのには訳がある、街道から少しそれた森の手前に野草の群生地があるのだ。


 山菜的な食べられる野草である。別に食事に困るほど貧困してはいないが食卓のオカズが一品増えるのは嬉しい事なので摘んで帰ろうと思ったのだ。


 そういや以前浅漬けにして酒の席でマリアに出したら喜んだっけ。その後飲み過ぎて絡まれたけど……。


 思い出して苦笑しつつもオカズとは別に小分けにしてポケットに入れる。何ともまぁ、笑えるお人好し加減だ。


 小一時間程で腰に下げた小さな革袋が野草で一杯になる。もう一つ革袋は持っていたがそれには入れない、取り過ぎると生えてこなくなるからだ。


 ホクホク顔で立ち上がると森の方からガサガサと勢いよく人が飛び出してきた。


 森を散策するには不似合いな真っ白いドレスに赤い靴、軽くウェーブのかかった金色の長い髪には葉っぱが数枚絡んでいる。同い年くらいの幼女だ。


 幼女は俺を見つけるとコースを変えて俺の後ろに回り込み、屈んで震えている。俗に言うカリスマガードだ、初めて見たよ。


 何事かと身構えると森の中から野犬が飛び出してきた……。


 いや、コボルトだ。おそらく子供のコボルトだろう。最初は二対一になった事に驚いたが後ろの幼女が戦力外だと解ると警戒しながら距離を詰めてきた。


 俺も男だ、前世では喧嘩もそれなりに熟してきた方だが殺し合いの経験は無い。


 まして今は丸腰だ、森に入らなければ安全だろうと油断していた自分も悪いがコボルトを連れて幼女が出てくるなど想定外だったのも事実だ。反省は後でしよう。


 こちらに攻撃手段が無いと悟ったのかコボルトは勢いを付けて飛び掛かってくる



 ―― ヤバッ!


 咄嗟に幼女を抱え込むように身を丸くすると


 『ギィィン』と金属を硬いもので叩くような音が直ぐ傍で聞こえてきた。


 振り返ると俺の背中をコボルトが引っ掻いている。しかし痛みは無い、何で?


 何が何だか解らず立ち上がってコボルトの方を向く、今度は胸のあたりを引っ掻かれるが痛みは無い。



 『コボルトの攻撃、しかしダメージは与えられなかった』

 『俺は様子を見ている』


 『コボルトの攻撃、しかしダメージは与えられなかった』

 『俺は様子を見ている』


 『コボルトの攻撃、しかしダメージは与えられなかった』

 『俺は様子を見ている』


 『コボルトの攻撃、しかしダメージは与えられなかった』

 『俺は様子を見ている』


 ……そんな感じだ。



 最初は何が起きたか解らなかった俺だが、ここに来て一つの答えに辿り着く。


 変身能力だ、おそらくは鋼鉄並みに硬い体に変身したのだろう。お願いした時のニュアンスによる意思の食い違いに苦笑した。


 さて、俺の安全は保証された様なものだが何時矛先が幼女に向くか解らないので戦うことにする。



 ドン! と両手でコボルトを突き飛ばして距離を作ると、子供の頃に憧れていたシーンを思い出し、腕を回しながらセリフを口にする。


 「変身!」


 俺が想像したのは昔懐かしのバッタ型特撮ヒーローだ、木の棒かスプーンでもあれば空に掲げて宇宙人タイプのヒーローに変身しただろうが今はバッタ型だ。



 そして変身した自分を見て脱力した。両膝と両手を地面に付いてのマジ凹みだ。

 

 ……死にたい。心の中で呟く。本当は少なからず解っていたさ、うん。


 今の俺の身長で変身してもこうなるって、昔バラエティー番組で見た事あるよ。


『チビノ○ダー』、あんな感じ。


 俺は脱力したままゆっくりと立ち上がると、このやるせない気持ちをコボルトにぶつける事にした。


 見た目はアレだが力は本物だった。八つ当たり? だからどうした? とばかりに顔面とボディーに一発づつパンチを入れた所でコボルトの意識は飛んだ。さらに斜め上に突き上げるようなアッパーでコボルトの体が遥か先の宙に舞うと――


 俺の中で何かしらのスイッチが入った! あまりにも俺とコボルトの距離と角度が理想通りだったのだ。


 ココしかないというタイミングで渾身の飛び蹴りを放つ。


 『ファイナルアタック』俺ではない機械の様な人工音声が聞こえた気がする。


 轟音とともに金色に輝くエフェクトを纏った俺の蹴りがコボルトに炸裂!


 さらに吹き飛ばされたコボルトの体は森の遥か上空で汚い花火となって散った。



 そして、戦いの後に残ったのは虚しさと静けさだけだった。


 俺は変身を解くと幼女の方を向く、何時の間にか立ち上がっていた幼女はポカンと口を開けて動かなかった。


 直後、森の方からガサガサと音がしたので警戒すると騎士らしい人が数人駆けて来たので『お迎えが来たよ』と頭を撫でてその場を立ち去った。



 よし、明日から学校に通おう。変身しなくても戦えるように。


 俺は大人になるまでライダーは封印しようと固く心に誓う。




 ――今夜はミルクに酒を数滴入れて飲もう、飲んで忘れるんだ。






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