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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
27/39

14 交渉しましたよ




 旅は概ね順調に進んでいる。例え後ろに馬車が列を成して付いて来ていたとしてもそれは目的地が偶然同じだからだし、泊まる宿屋が同じなのもきっと街に宿屋が一軒しかないに違いない。


 宿から出ると街の外で休憩してる多くの馬車が移動を開始するのも、魔物を倒す度に歓声が上がるのも、キャンプ地が同じなのも。俺達の馬車を取り囲むように陣取るのも、みんなみんな偶然だ。


 (あまつさ)え休憩時に話し掛けて来るのだってたまたま(・・・・)休憩場所が同じなよしみ(・・・)で気を利かせているのだろう。

 きっとそこに他意は無い筈だと信じよう。……うん、ストレスが溜まるよな。


 「誰の馬車に乗っていても状況は変わらなかったと思うよ、例え歩いていたとしてもね。だけど物は考えようじゃないかな? レイグラート領にこれほどの大商隊を連れて行くと思えればこれは大きな利だよ」


 確かにそうだが、何か納得いかないと云うか、気楽に旅をしたいんだがなぁ。


 「それに、もう少しの辛抱だと思うよ。彼等だって遊びで付いて来た訳じゃないんだ、仕事となれば皆思い思いに動き始めるさ」


 『ほら』と、指差す先にレイグラート領最初の街が見えてきた。


 その街の様子が近付くにつれて鮮明になってくる。……これは、予想以上だ。


 一つ前に泊まった街とでは大違いなほど活気が無い。というより”死んだ街”と言うのが合ってるのかもしれない。


 半数以上の家には人気(ひとけ)が無く、半壊したまま放置されている家も少なくない。


 人通りも疎らでこんな所に来て商売になるのかと心配にさえなってくる。


 「前領主が統治していた頃に大半の住人が近隣の領へ逃げたんだよ。しかもその事に対策の一つもしなかった結果がこれさ。

 ただ、そんな領主を廃して成人前に継いだって孫が鬼才って噂でね。だから今来てる商人達は領内の街々に散って行って良い場所を確保するつもりなのさ。

 発展に貢献できれば領主様に恩も売れる、云わば先行投資みたいなものだね。要はこれを儲け時と見た商人が群がって来たって訳さ」


 ボクもその内の一人だけどね、と付け加える。……ふぅん。で?誰が何だって?


 「鬼才って、継いだばかりで復興はこれからなのに噂になるものなのか?」


 「君の故郷は王都から随分と離れてるから話に出なかったのかもしれないけど、グルファスト王立学園は十二歳になる貴族に入学を勧めているんだ、もちろん君の兄である侯爵にも話が来たんだ。

 今期はもう始まっているけど成績次第では中途入学させようって流れになって、テストを受けたらしいんだけど、十四歳で習う所まで満点だったって話だよ。

 そしたら侯爵はね、『領地の復興が忙しいから時間の取れる時だけの通学でいいだろ』って、ほぼ形だけの入学になったんだよ」


 そういや、この数年はみっちりと勉強漬けだったもんな。それにしても、学校のテストってそんなに簡単なものなのか?


 「それに、君のお父さんの話は商人達の間では【村を商館の建つ街にした】って事で有名だからね。その辺も評価されての事だよ」


 いや、確かに父様は政治チートだけど、だからってウィレス兄様がそうと言えるかどうかは別の話かと……。


 反応に困りながらも無難な相槌を打つと、少し首を傾げるようにして『近いと見えない事もあるって所かな? まっ、商人の鼻は伊達じゃないからね』


 フフン、と軽く笑って街を通り過ぎる。この街で一泊するのかと思ったが、どうやら先を急ぐらしい。


 「悪いけどもう一つ先の街へ行くから今日明日はキャンプだね。距離が微妙なんでそうしないと到着が夜中になって街の手前で野宿する事になるんだ」


 なるほど、どうせ野外で二泊するのなら速く着いた方が良いって訳か。


 青年商人(ファーレ)の言った通り兄様の領地に入ると後続の商人達は散り散りに離れ、更に数日が過ぎて兄様の居る街へ入る頃にはファーレを含めて馬車は三台だけになっていた。



 そこは領主の住む街とあって道中の街よりは人気(ひとけ)と活気はあるが、それでも過疎化しているのが見て取れる。


 街の入り口から真っ直ぐに続く大道りを進み、街の中心部まで来てもそこそこの活気しかなく開いている商店も疎らで品数も少なそうだ。


 そのまま中心部を抜けて進んで行くと、大きな門とその奥に館が見えてきた。


 アーチ状の門はしっかりした作りで年季を感じるものの古惚けた感じはしておらず、鉄で出来た格子状の扉にはサビの一つも無い。


 門で一旦馬車を止めて、ファーレが門番と何やら話して扉を開けてもらった。


 左右に植えられた針葉樹の道を先へ進む事二百メートル、館の手前で道が開けてその全容が明らかになる。大きな館……というか、これは小さなお城といった方がいいのだろうか、門同様に年季と手入れが見て取れる。


 中世の小城を思わせる作りとその威圧感に圧倒されるが、領主がウィレス兄様だと思うと途端に陳腐に見えてくるのが不思議だな。

 いや、別に兄様を小馬鹿にし(ディスっ)ている訳では無いんだけど、本当何でだろうな。


 館の入り口にの前に馬車が止まる頃に扉が開かれ、使用人らしき人と兵士らしき装備をした人が出てくる。


 ……ん? そこで一瞬自分の目を疑い兵士を二度見してしまうが、間違いないあれはコルト街の民。厳密に言えばウィレス兄様の取り巻きの一人、ラズだ。


 向こうも気付いたのか俺の顔を見るなり『げっ! 弟だ』と驚かれた。


 だが知り合いが出てきたのでこの後の話は楽だった。ただ、ファーレも兄様に用があるらしく馬車をラズに預けると、俺と共に執事に案内されて館に入った。


 どさくさに紛れてしれっと入る辺り、いい度胸してるよな……。


 案内されるまま二階奥の部屋へと通される。そこは広さのある執務室らしく正面奥の三連執務机には大量の書類とそれを処理するウィレス兄様の姿があった。


 「エル、終わる、待って、何だ」


 一度顔を上げて俺を見た兄様が書類に目を戻すと、意味不明な言葉を放つ。少し前に同じ症状の偉い人に会った様な……。


 何となく言いたい事は解るので部屋の中央付近にある横長のソファーに座ると、ファーレもそれに続いて隣に座った。



 暫くすると、一段落ついたのかノビをした後立ち上がり、俺達の向かい側のソファーまで歩くと腰掛けた。


 兄様は目を瞑って天を仰ぐように上を向きなが両手で目をグリグリとマッサージしている。俺は隣に座るファーレを突いて話を促した。


 「公爵様におかれ――「いい、入れ」


 挨拶の言葉を兄様に遮られたファーレは固まってしまう。まぁ、そうなるだろうと一人納得しつつ『挨拶はいい(・・)から本題に入って(・・・)』とフォローする。


 「用件は二つ。まず、一つ目は”お探しの品”を運んでまいりました。もう一つはこちらになります」


 そう言って俺達と兄様の座るソファーの間にあるテーブルに一枚の紙を置くと、兄様はそれを手に取て見る。


 「そこに書かれているのはこの度新設された商工会のメンバーです。私は代表のファーレ、以後お見知りおきを」


 その商工会が何か? と、紙を机に戻した。


 「恥ずかしながら当商工会は発足したばかりで拠点がありません。現在そこに連なる者達は領内の格街へ散って店を構える準備をしておりますが、それを個人店舗としてではなく商工会メンバーとして正しく理解していただきたいとお願いに上がりました」


 「つまりこの領内に拠点と新たな商人ギルドを作りたいとでも?」


 「前半分はその通りです。侯爵様には正式な(・・・)商工会として取り扱って頂きたいと思っています。


 後半部分ですが、商人ギルドは既にありますので新たな商人ギルドを創るとなると諍い(いさかい)が起こります。ですので既存の商人ギルドへ加入したままになりますが、それでは何の力もありません。


 我々は一団体としてギルド内での力ある発言と運営に携わる力を欲しています。その為となるならば我等一同、復興への助力を惜しむつもりはありません」


 ふむ。と、考え込む兄様。……話としては悪くないと思う。復興するに当たり、商人を招致する事は必要な事だが寂れた街に呼ぶとなると費用がいくら掛かるか解らない。


 相手が商人である以上儲けを考えて吹っ掛けて来るのは当然、それ以外にも色々な条件や権利を求めてくるだろう。


 それが向こうから遣って来たのだ、条件はあるものの不条理なものでは無い。


 ただし、そのまま了承するのも問題が有るのだが……


 「ならば、一つ、商館を領内の全街に建てる事。これは既存する商人ギルドが数年前に撤退した時の建物を使っても構わない事とする。

 二つ、商工会の経営する商店は格街に四店まで。ただし、これは街の発展と共に上限方向に変更する事を約束する。

 三つ、取り扱う分類に対して責任者を決め役員とし、代表を含め役員を七名以内とする事。

 以上の三つの条件を呑むのなら領内においてこの商工会を正式な団体として支持(・・)しよう」


 なるほど、悪くないな。


 一つ目、これは商工会側としては願ったり適ったりで文句の無い条件だ。むしろ他の条件を相殺させるためのエサといった所か。


 二つ目、三つ目は足枷でしかない。二つ目の方は街全体の掌握を防ぎ価格操作を防ぐのが狙いだ。発展が進めば店舗数も増やせるならそこまで問題視する条件でも無いだろう。


 三つ目は販売の独占を防ぎ、今後他の商人の入り込む余地を残すもの。街の発展には必要な条件だがこっちは完全な足枷だ。

 役員七名、つまり七つの分類までしか商品を取り扱えないので今後、別団体もしくは個人商店が他の分類での新店を出し易くさせるのが狙いだ。


 流石にファーレもその事に気付いたのか苦い顔をしたが、最初の条件と最後の言葉【支持】、つまり侯爵が後ろ盾になるという事は無視出来無い。


 特に支持の方は無名の商工会が商人ギルドに対して力を発揮するだろう。


 俺はメンバー表を手に取って見てみると、見知った名前に驚いた。


 「何で公爵お抱えの商人の名前があるんだ?」


 そう、マークの名前が書かれていたのだ。つまり、この条件を呑めば王家の血筋である公爵と拠点となる領地の侯爵の両方が後ろ盾になる。


 なるほど、これなら”ギルド内での力ある発言と運営に携わる力”には十分過ぎるだろう。……ファーレ、恐ろしい子。


 だが、この二人の繋がりってなんだ? 間に伸ばすがある位しか思い付かないんだが。


 「ボクと彼は同じ教会(いえ)の出なんですよ」


 何でまた【芸組】から商人が出るんだよと思いながらも納得してしまうのは、二人の雰囲気が何処か似ていたからだろうな。


 「解りました、その条件をお受けしましょう」


 「それで? もう一つの話だが、何も発注を掛けた覚えはないが?」


 少し考えて答えを出したファーレと、そうなる事が前提だったかの様に次の話に入る兄様。


 兄様が眉間に皺を寄せて怪訝な顔でファーレを睨むが、今度はファーレがそう聞かれる事を予想していたとばかりに何食わぬ顔で答える。


 「はい、ですからお探し(・・・)の品と申しました。荷は農民殺し(・・・・)です、馬車の方に積んでありますので後程ご確認を」




 ――農民殺し『何故そんな物を』と、その名前に俺は驚愕して思わす声が出た。






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