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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
26/39

13 囲まれましたよ




 徒歩で王都を出たが翌日の昼前には次の街が見えて来た。王都に近い事もあって街と街の間隔は短い。


 ならば何故行きの一ヶ月、街も無く人と会わなかったのか。後で聞いた話だが、それはあの場所一帯が王国管理の演習場だからだ。

 年に数度大規模な訓練を数日掛けてするらしく、期間外は立ち入りこそ禁止されていないが建物や畑を作るなど、地形に変化を加える事は禁止されている。


 道を反れだした時こそ運悪く街を避けるような形になった訳だが、王都近くにそんな場所があるとは思いも寄らないまま迷い込んでいたらしい。


 ちなみにあのまま進んでいても一時間程度で街道には出たそうだ。


 とか考えてるうちに街に着いた。門番はいたが俺の顔を見ると『どうぞ』と素通りさせてくれた。有名になるのも悪くないかもな、なんて思ってしまう。


 街は賑やかさと生活振りから生活基準は高く、治安も良さそうだ。


 ここ迄の道程で魔物とは出くわさなかったが、取り敢えずギルドに寄って挨拶くらいはしておこうと思う。


 ついでにギルドでメシ屋と風呂のある安宿も紹介してもらうか。


 街に入ってから背後に感じていた視線が道を進むにつれて徐々に増えていく。振り返るべきか悩むが、ここまで何も無かったので余計なリアクションは薮蛇だろうとあえて無視する事に決めた。


 そして街の入り口から続いていた大道り、街の中心に近い場所に冒険者ギルドの看板を見つけたので入った瞬間――


 「キミに、護衛依頼を出したいんだ!」「まて俺が先に見つけたんだ」「俺はコイツ等の倍、いや三倍出すぞ!」「こっちは指名依頼だ!」「うちには病気がちの妻とお腹を空かせた子供が……」


 等々、後ろから沢山の声が掛けられる。負けられないとばかりにその声は大きさを増して発言内容もエスカレートしていく。


 いつの間にか俺を囲む様にして怒鳴りあう商人達。正直耳が痛いしウザイ事この上ない。誰だよ有名になるのも悪くないとか思ったのは。……あ、俺か。


 優勝した事でこんな弊害が出るとは思わなかった。ってか、最後のは明らかにおかしいだろ!


 俺は目に見えて不機嫌な顔と殺気を商人達に向けて手を剣に掛けると、商人達は静かになって数歩下がった。


 こういうやり方は好きじゃないが今は仕方が無いだろうと、自分に言い聞かせながらカウンターまで行く。


 「賑やかな街ですね、それに活気もある」


 ギルドカードを差し出しながら何事も無かったかの様に世間話を始めメシ屋と安宿屋の場所を聞くと今度は『奢らせてくれ』だとか『屋敷に招待したい』だの『娘の婿に!』や『子供の名付け親になって下さい』と、また騒ぎ始める。


 だから婿とか名付け親って何だよ! ……ん? 屋敷に招待? そっと振り向くと商人達に混じって祝賀会で見た顔が、って事は貴族か!?


 直轄地だから領主って事は無いだろうが、押し合うように騒ぎに参加している。……うん、ここは無視しておこうと思う。


 そこでギルドの受付嬢がカードを返しながら奥の部屋へと入るように言われた。まさか昼間から子供を個室に誘うとか……無いよな?


 一瞬怯んだ俺を否定するように一睨みすると


 「エルドニアさん、お話がありますので来て頂けますか? 私としてはこちらでお話しても構いませんが、今よりも騒ぎが大きくなると思いますよ」


 脅すように少しドスを効かせた声で言われた。どうやら御立腹の様ですね。


 大人しく部屋まで付いて行くと手前の椅子を進められるがままに座る。受付嬢は机を挟んだ俺の正面に座ると、深呼吸一つ。


 「ギルドランクですがCランクに上がるにはパーティー経験も必要になります。必要であればコチラで斡旋する事も出来ますが、このままソロで旅を続けるおつもりでしたらその事への理解をしておいて下さい」


 なるほどね、受付でそんな話をしたら、あの騒ぎに冒険者も加わってた訳だ。そりゃ部屋に案内するわな。……変な勘繰りで怒らせて悪いね、心内で謝っとく。


 しばらくは気ままに旅をしたいんでパーティーとかは後回しだな。別にランクに拘ってないしな。


 「それと、食事処と宿ですが、お勧めする事が出来ません」


 なんとっ! ……何でまた?


 「本来なら紹介をする所ですが貴方様の場合、紹介されなかったお店から贔屓との苦情が出る可能性が高いので、私の判断で申し訳ありませんが表向き断らせて頂きます。

 ……ただ、このまま通りを中心に向かって歩くと竜の飾りのある商店がありますので、その手前を右に曲がって道なりに行きますと食事が美味しいと評判の宿屋がありますよ」


 これも優勝の弊害……有名税ってやつか。これは顔を変えた方が良いのかもな。


 そして部屋と外を繋ぐ裏口から出る事を薦められた。


 案の定、裏口を張っていた人達も居たが表ほどではないのでそのまま教えられた宿屋に向かう事にする。


 このまま宿屋へ行っても騒がれるだけだが、今更なのでこの際気にしない事にしよう。


 まるで団体客の様に宿屋に着くと、一泊食事付きで部屋を借りた。大勢引き連れての事で迷惑かと思ったが、後ろの人達も我先にと宿を取り、あっと言う間に満室となったので宿屋としては問題無かった様だ。


 宿帳に名前を書く時に、30cm四方の板に名前を書いて欲しいと頼まれた。どうやら宿に飾るつもりらしいが数年後には薪になる事だろう。食事代を引いてくれると言うので快く書いてあげた。


 元々贅沢の無い一人旅だったし、優勝賞金もあるのでお金には困ってなかったが【値引き】とか【限定品】なんて煽り文句に弱いのは前世日本人だからだろうな。


 食堂は騒がしいので食事は部屋へ持って来てもらう事にして今日は部屋でのんびりする事にした。 というか、観光どころでは無いので出掛けるのは諦めた。


 ……くそう、観光の出来無い旅なんて肉の無い牛丼だ。あ、ネギだけ(・・・・)ってのを出してる店があったな。


 夜中、騒ぎも収まり集まっていた人達も諦めたのか其々の宿に帰っていった。俺は様子を伺いながら静かに食堂に下りる。……よし、誰も居ないようだ。


 カウンターの上に置かれた木のコップを持つと、脇に置かれた樽の中の水を汲んで適当な席に座る。


 そこで部屋の隅で静かに酒を飲む青年に気が付く。騒がれる前に部屋に戻るかどうか躊躇していると、向こうも俺が気付いた事が解ったのか小さく杯を持ち上げて小声で『災難でしたね』と挨拶をして晩酌を続けた。


 俺はそれを見て安心すると青年から少し離れた席で水を飲みながら一息つく。


 やっぱ部屋に篭りっきりってのは精神衛生上良くないよな。


 それから暫くして自前の酒が無くなったのか青年は部屋へ戻ろうと立ち上がる。


 「皆、興奮して我を見失ってる様だけど悪気は無いんだ、同じ商人として恥ずかしいよ。普段はもう少し賢しいんだけどね、商人を代表して謝っておくよ」


 すれ違いざまに苦笑しながら小声で謝られた。


 「……貴方は他の人とは違うんですね、謝罪は快く受け取らせてもらいます」


 「先輩に『信用の次に大切なのは察しと思いやり』と教えられたので」


 黙って見送る事も出来たのだが、一言くらい会話がしたくて出した言葉に答えが帰ってきた。……なかなか出来た人だったな。


 見送るように視線を向けながら最後の一口を飲み干して俺も部屋に帰った。



 翌朝、待っていたとばかりに様々な人達が入り口を囲んでいる。……うん、どうしよう? 悪党なら蹴散らすんだがそうも行かないだろう。


 いっそ、この中から同じ目的地の商人を見つけてそれに決めちまうか、とか考えていると昨日の青年が俺の脇を通って宿屋を出て行く。


 ……試しに行き先を聞いてみるか?


 「昨日はどうも、これから何処へ向かわれるんですか?」


 青年は振り向いて少し申し訳なさそうな顔をすると『レイグラート領、おそらく君と同じだね』そう答えた。


 「昨日その話をしなかったのは?」


 「あの場でそれを言ったら彼等とかわらないでしょ? それに自分から言ったら卑怯だとも思ったしね」


 卑怯? それでさっきそんな顔をして答えたのか。でも何が卑怯なんだろう?


 「朝、こうなる事は昨日から解ってた事だからね、それを提示して誘うのは卑怯な取引じゃないかい?」


 言われてみればその通りだ、納得の答えだな。昨日の夜そう言われてたら断っていただろう。もしかして、それも見越してとか……まさかな。


 まぁ、彼なら安心出来そうだしいいか。


 俺が彼との同行を決めると、残念がる商人達。諦めて帰る人も居れば、しつこく交渉してくる商人も居た。


 それ等を断って青年の馬車に着く頃には野次馬だけになっていた。


 内心、何処かで絡まれるんじゃないかとも思ったが、これだけ人目があると何かが起こる筈もないわな。


 俺は青年の馬車に乗ると野次馬達に見送られながら街を出た。




 ――目指すは兄様の管理するレイグラート領だ。






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