表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
25/39

12 旅を再開しますよ




 国王陛下との話も終わったが、疲れていた俺は祝賀会場へは戻らず、隠れる様に

裏口から抜け出た。


 おっと、そこでフードを目深に被る様にしてローブを着た男とぶつかりそうにな

った。互いにかわす様に動くと、男は無言のまま外への道を歩いて行く。


 俺は部屋に戻ろうと後宮の方を向くと誰かが後宮へ入っていくのが見える。暗く

て遠かったので解らないが侍女だろう。


 何の気なしに、ふと振り返ったがそこに男の影は無かった。逢引きか何かだった

のだろうか、気にするまでの事では無さそうなので部屋に戻るろう。


 大会の疲労感とパーティーでの緊張感から開放された俺は部屋に戻るとベッドに

倒れ込む様に身を投げ出して直ぐに眠りについた。



 翌朝、妙に機嫌の良いサリーが起しに来た。その顔を見るに昨日の婚約話しを聞

かされたのだろう。後ろに付いていた侍女は静かに頭を下げて挨拶していた。


 見た目四十台前半だろうか、茶色く長い髪を後ろで丸く纏めていて、その立ち振

る舞いと清楚さは”これぞ侍女”といった感じだ。


 「おはよう、いい事があったって顔だけど、昨日の事を聞いたのか? 忘れては

いないと思うけど試合前の約束は覚えているよな?」


 俺自身、成り行きで大会参加を決めたが、元は彼女の希望でもあったので、二つ

ほどお願いをしていた。 一つはレイグラート姓での出場。


 もう一つは万が一爵位を下賜った場合、彼女が手を回してくるであろう婚約の話

しを【その場しのぎ】とし、将来誰か良い人を見つけて婚約を破棄する。

 ただし、俺を含まない事(・・・・・・・)、この二つだった。


 特に二つ目は渋々ではあったが彼女自身、俺に執着があるわけでもないので納得

してくれた。所詮はただの恩人だ、そこまで拘ってはいないのだろう。


 「分かってるわ、それでも思い通りに行ったから嬉しいのよ」


 だ、そうだ。彼女の目的である政略結婚回避は阻止できたのだ。それが取り越し

苦労なのは黙っておこう。


 「そうだ、その話よりもリデル、エルにアレを渡してあげて」


 そう言われ侍女が俺に渡したのは指輪だった。……婚約指輪か、こういう形のあ

る物を渡されると真実味と言うか”話の重さ”を感じるな。


 指輪を見ていると、あることに気が付いた。これ、王家の紋章が刻んである。思

わず視線を指輪からサリーに戻す。


 「遠縁とは言っても私だって王家の人間なんだから当たり前じゃない。これから

また旅に出るんでしょ? その指輪を見せれば大抵の貴族は優遇してくれるわよ。

 もっとも、殆どの貴族は昨日の大会を見てるでしょうから、エルに喧嘩を売る様

な貴族は居ないでしょうけどね」


 サリーは俺が何を言いたいのか解ったようで、何を当たり前な事で驚いてるの?

という顔をして、そう説明した。


 そりゃそうだろうが、いきなりだと驚くものは驚く。


 「それより体の方は大丈夫? 何か魔力の付与された宝石で治してたみたいだけ

ど、結構な怪我だったじゃない」


 彼女なりに心配してくれてたのか……。俺は屈伸したり左腕を回したりしながら

大丈夫と応えると、サリーは安心したようだ。


 「それならよかったわ。リデル、お願い出来るかしら?」


 「お断りします」


 サリーが何をお願いしたのかは解らなかったが侍女のリデルさんは解ったらしく

キッパリと断った。


 少し拗ねるような顔をしたサリーと、理解出来無い顔をした俺を見てリデルさん

が言葉を続けてくれた。


 「私とこの方では勝負になりませんのでどうかお諦め下さい」


 まさか、俺と侍女を戦わせたいとかないよな? サリーも大会を見てた訳だし。


 そんな俺を見てリデルさんは目を閉じて小さく頷いた。


 ……マジか! 何? リデルさんってそんなに強いのか? いや、まて。仮にも

令嬢付きの侍女なら荒事に対応出来る可能性はあるのかもしれない。


 「昨日は大会後に貴族の集まりだったから言えなかったけど、優勝おめでとう。

あっ! リデルさんチィッス!」


 そんな遣り取りを知らないマークが部屋に入るなりリデルさんをみて直立不動で

挨拶をする。


 ……何があったマーク。


 そして『あ、もしかしてアレですか。ボクも見てみたいな~』とか言い出した。


 「マーク、お前もしかして……」


 『負けましたよ』とアッサリ応えた。マークはこれでも戦闘経験もあり、そこい

らの村人よりは強いだろう。商人とは云え旅をしている以上そうでなければとっく

に死んでいてもおかしくないのだから。


 それにマークにだって男としてのプライドみたいなものはある筈だ。何をしたら

こうもアッサリ負けを認めさせられるのだろう。


 俺の思考を読み取ったのか、マークは苦笑しながら説明してくれた。


 「最初はお互いに素手だったんだけど、全然勝てなくてさ。それでボクだけ武器

を持つ事になったんだけど、まったく勝てなかったよ~。こう……ね、結局ボクが

諦めるまで倒され続けたよ」


 身振り手振りを加えつつ説明するマークだが。……スランですら護身術を知らな

かった、なのにマークの手振りだとリデルさんはそれが使える?


 彼女も転生者とか無いよな? でも確かめようが無いよな……。


 あ、もしかして優勝後に現れる【真のボス】的なアレとかないよな。玉座の裏と

かお城の裏の毒の沼を調べてもないし。


 取り敢えずリデルさんが頑なに拒んだので手合わせはしないで済んだ。サリーに

言わせれば彼女を連れていれば誘拐も防げたとの事らしいので、それなりの実力が

あるのだろうな。


 大分前に護身術を習ったそうなので彼女は転生者ではないだろう。『私が産まれ

た時からの私付きの侍女なのよ』そう言ったサリーは何処か親を自慢する子供の様

にも見える。


 もう一人の母親といった所か、どこか彼女に甘えている感じもするしな。


 その後も朝食を挟みながら昼食まで談笑は続いた。



 昼食も終えたしこれ以上長居するつもりも無い。たしか隣街までは馬車で半日も

かからない距離なので今から出ても夕方過ぎには着く筈だ。


 会話もある程度落ち着いてキリもよくなったので、俺はローブを着ようと手を伸

ばすが、サリーに『武器が出来上がるまで待ちなさい』と止められた。


 「武器って何の?」


 俺の素朴な疑問にサリーは呆れた顔をする。……何か間違った事言ったか?


 「あのね、優勝して下賜った剣があったでしょ?」


 あぁ、あの微妙に重たい模造刀ね。使えないのに捨てられないからこのままロー

ブの”肥やし”になる予定だけど……。


 「陛下が目の前で実剣を渡すなんて危ない事する訳無いでしょ」


 確かに、それで斬られたら笑い話にもならんからな。


 「だから優勝者には後日、優勝者用に(あつら)えた武器が下賜られるのよ、あの剣は

その時に返すのよ」


 つまり、交換券ならぬ交換剣か。何かメンドクサイな。


 「エルはあの街で買った剣と同じでいいんでしょ? 注文は出しておいたから今

頃はお抱えの鍛冶職人が頑張っているはずよ」


 そうだよな、誰が優勝するか解るまで作り始められないからな。でもこの世界の

剣ってどのくらいで仕上がるんだろう? 日本刀は数ヶ月掛かるみたいな事を以前

TVで放送してたような……まさかな。


 「でも安心していいわよ、何人ものドワーフの職人が交代で打ち続けているから

数日で出来ると思うわ」



 ――何故か得意げに話す彼女の言葉通り剣は二日後に出来上がった。


 リデルさんに連れられて俺の部屋に入ってきたのは職人らしいドワーフが数人、

そこにサリーとマークの姿は無かった。


 職人頭らしきドワーフが仕上がった剣を差し出す。俺は剣を受け取り言われるま

まに抜いて見せると剣の説明が始まった。


 黒塗りの鞘から抜かれた長剣は綺麗な装飾が施されてはいたが邪魔になる程では

無く、戦闘を念頭に置きつつも様式美に気を使った感じだ。

 そして見た目より軽い剣は神聖銀(ミスリル)で出来ているとの事で、相手が霊体でもダメー

ジを与える事が出来るそうだ。

 鍔は楕円形で金色に近い赤黄色、どこか日本刀のそれを思わせる作りに懐かしさ

すら感じさせる。

 柄は紐の様に細く結わかれた皮を巻かれていてこちらも日本の刀に近い作りをし

ている。握り心地もしっくりと良い感じだ。

 柄頭付近には赤い宝石が着けられているのだが、試合で剣が折れるのを見たので

念の為に耐久力強化の魔法が付与された宝石を着けたそうだ。


 随分とお金の掛かった感じだが、王国主催の武闘大会の優勝賞品だと思えば妥当

ともいえるのだろうな。


 剣を鞘に収めると腰に差す。王都を出るまではこのままの方が良いだろうけど、

その辺の雑魚には勿体無いので普段は買ったもう一本の剣を使うつもりだ。



 さて、今度こそ出発出来るだろう。世話になった部屋を軽く片付け始めるがリデ

ルさんは何も言わない。きっとこちらの意図を汲んでくれているんだろう。


 そして今日サリーが来ないのは何となく解っていた、きっとしんみりするのが嫌

いなんだろう。昨日、普段より沢山話をしていたのが彼女なりの別れ方だったのだ

ろうな。


 区切りを付ける様に部屋をかたすとローブを着て部屋を出る。そのまま廊下を歩

いて後宮を後にする。


 ふと、視線を感じて見上げると二階の窓の一つからサリーが見下ろしていたので

俺が手を振ると、彼女も手を数回振ってから窓から離れた。


 そして出口まで付いて来てくれたリデルさんにお礼と別れをの挨拶を済ませる。


 「マークさんからの伝言です。『急な買い物を頼まれたので挨拶出来無くてご

めん、もし何処かで会ったらよろしく』との事です。」


 リデルさんはそう伝えると、一礼をして『またのお越しをお待ちしています』と

微笑んでくれた。


 俺は城を背にして歩きだす。街には活気が溢れていたが、お祭りの熱も冷めたの

か落ち着きを取り戻し始めていた。


 意識し過ぎかとも思ったが、騒ぎになっても困るので俺はフードを深めに被り顔

を隠す様に街を抜ける。少し寂しい気もするが、このまま旅を続ければ熟れてくる

のだろうか?


 それはそれで何か寂しい気もするが、ともあれ北側の出口に辿りつく。


 さて、次の目的地は決めてある。と、いうか、二つほど気になる事があるのでそ

ちらに向かうつもりだ。




 ――俺は王都の門を抜けると、そのまま北上する道を歩いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ