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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
24/39

11 婚約しましたよ




 落ち着いて見てみると、この王様結構年寄りだったりする。うちのお祖父様より年上だろうか……。そういや今年で丁度即位50周年ってサリーが言ってたな。


 先王が病弱で成人する十五才の時に王位を継いだらしいから今年で六十六才か、うちのお祖父様より七つ上だな。


 短く揃えられた髪は白髪で、ヒゲは無いし眉毛も白いので元の髪色も解らない。体格も良く、歩き方や立ち振る舞いからも健康体といった感じが伺える。まだまだ現役で頑張れそうだな。


 この年だと孫がいてもおかしくないし。あれ? って事はこの国の王子って王位を継げないまま子供が……


 なんか考えるのが可哀想になってきたな、考えるのはやめておこう。


 そんな事を気にしながら様子を伺っていると国王陛下が口を開いた。



 「安心してよいぞ、降格じゃ」


 ――えっ?! 聞き間違いじゃないよな。今降格って言ったぞ。


 俺は爵位が無いって事は兄様の方か? あれか、大会で遣り過ぎたとか爺さんが手伝ったのがバレたとかか?


 横に座る兄様の方をチラリと見るが真っ青な顔をして小刻みに震えている。恐らくは兄様も何か思い当たるフシが有るかどうか考えを巡らせているのだろう。


 そんな俺達の様子を見て後ろに立つ老いた男性は小さな溜め息を吐き


 「陛下、それでは言葉が足りません」


 「お? そうか。 大会で、おかげで、お前達、降格。この後、国を出る」


 ぶっ! 何か変な言葉使いで不穏な事を言ってるんだけど……


 授賞式の時は普通に喋ってたけど、この国王陛下が偽者って事は無いよな?


 横にいる兄様の顔色は真っ青から土気色に変わって今にも倒れそうだ。


 そこで後ろの老いた男(もう老人でいいや)は今度は強く溜め息を吐く。それと同時に王妃様が国王陛下の後頭部を叩いたのは気のせいでは無いだろう。


 「勘違いしないで欲しい。陛下の名誉の為に説明させてもらうが、今大会の為に普段から忙しい公務を詰めるだけ詰めて今日一日分空けたのだ。

 その間、食事はおろか短い睡眠時間まで政務室の机で取られ、トイレ意外で席を立たない日が二十日以上続いたのだ。

 これはその弊害の様なもので、思考に口が付いて来れぬのだ。じきに戻ると思うので暫くは私が代理で伝えよう」


 何その発売前に重大なバグが発覚したゲームの対応に追われるプログラマーみたいな状況は……。


 コホン、と咳払いをしつつ老人は話を続ける。


 「今回の大会とその数日前迄に起こったドイトン伯爵家嫡男の不正が、企みに加わった騎士と魔術師の証言によって明らかとなった。」


 「決勝の時のあの二人ですね。生きてて良かったと言うか、自分で言うのも何ですが良く生きてましたね」


 話の腰を折るつもりは無かったが、アレは普通死んでるだろ?


 「どうやらあの二人を奥の部屋で受け止め治療を施した者がいるらしいのだが、該当する者は今だ見つかっておらず現在も捜索中だ。

 それで、ドイトン伯爵は降格する事が決まった」


 なんと! アレを受け止めるって、どやってだよ!? 見つかったら聞くか。


 んで、『安心してよいぞ、降格じゃ』と言う訳か。……解り辛いぞ。


 「それで、今回の不正を暴く切っ掛けを作った事と、サーリャ公女を救い出した功績を持ってエルドニア君に爵位を下賜る事になったのだが」


 ちょ! まだ旅が始まって数ヶ月で終わりとか流石に嫌だぞ。


 「聞けば、若いながらも見聞を広める為に遊歴に出たばかりとか。そこで爵位に縛られたのでは可哀想であろうとの陛下のお心使いによって延期する事となった」


 あ、解ったぞ。それで『この後は見聞の為に国を出る事もあるだろう』と続くんだな。そうかそうか、でもそれだと兄様は何で呼ばれたんだ?


 「さて、爵位を下賜るとなれば当然領地も下賜るのだが、この度の事で降格したドイトン伯爵家の領地を一部没収し、それを下賜るものとするのだが……」


 もしかして、兄様預かりとするのか?


 「その間レイグラート侯爵預かりにしようとも思ったが、爵位を継いだばかりのウィレス侯の仕事が増えては大変だろうと、こちらも陛下のお心でな。

 そのままドイトン伯爵家に”ウィレス侯が貸し与える”事とし、その間は土地に見合った分の負担をドイトン伯爵に支払わせる事となった」


 つまり、ドイトン伯爵に土地を貸して、その金額分レイグラード領が国に収める税金を減らせると? でも土地が増えた分税金も増える……ん?


 「解りやすく言うとだ、ドイトン伯爵はこの先借りた分の【土地の税金】を払いながらレイグラード家に【借地料も払う】事になる。一つの土地で二度出費する形となるがこれもドイトン伯爵家が受ける罰の一つだと言う事だ」


 なるほど、納得いった。


 「この罰はエルドニア君が遊歴を終えて爵位を下賜るまで続く」


 つまり爵位を下賜る事を伸ばして意地悪する事も出来ると言いたい訳だな。その辺は俺任せなんだろうな。


 でもさっき『土地に見合った分』って言ったけど土地を枯らして減税とかされたらどうすんだろ? 帰ってきた時に【爵位と枯れた土地】なんて嫌なんだけど。


 「ちなみに、下賜る土地はドイトン領の西側になる。東側にレイグラート領があるので丁度挟む形になるな。

 それと、将来この土地を受け持つ時、今より寂れていた場合はドイトン伯爵には更なる降格を予定しており、この事は既に知らせてもあるので安心するように」


 挟む様にって事は将来睨みを効かせとけと言いたいのか? でもまぁ、寂れた土地を下賜る心配が無いのは安心した。


 「それと言っておくがな、現ドイトン伯爵はそんなに悪い人柄ではないぞ。この数年病気がちで政務を嫡男に任せていたのが原因なのだ。だから降格するのは嫡男のアレクが爵位を継いだ時になる」


 それでも監督不十分だった理由を病弱で済ますのもどうかと思うけどな。


 でも、結果的に兄様の負担が減ったなら良いか。あの領地の状態なら国税が減ってくれるのは正直助かる。……横にいる兄様も安心した様子だ。


 コホン、とまた一つ老人が咳払いをすると、今度は王妃様が口を開いた。


 「エルドニア……いえ、エルと呼ばせてもらうわね。サリーの件でお礼を言わせて頂戴ね。あの子は私の妹の孫なのよ、だから私も妹もとても感謝してるの。

 聞けばあの子は貴方と婚約したいと申し出たと言うじゃない? 私はとても良い事だと思うの」


 ちょっ! それは……


 「焦らなくてもいいわ、貴方の答えも聞いてるから安心して。でもね、もし貴方に好きな女性が居ないのなら少しは考えてあげて欲しいのよ、お願い」


 これはサリーによる外堀を埋める作戦なのか、それとも王妃の純粋なお願いなのだろうか、確かに結婚したい女性は居ない。ってか、九才の子供が自分で結婚なんて考えないだろ普通。


 でもなぁ……サリーにしたって変な相手との政略結婚が嫌なだけで俺が好きって訳でもないのにそんな事言われてもなぁ。


 「えっと、サリーの婚約候補の一人くらいのつもりでは駄目ですか? もし私かサリーに別の好きな人が出来たらそちらを優先させてもらえるくらいの軽い約束で宜しければと……」


 うん、十分に失礼な事言ってるよな俺。でも前世での同期にあのくらいの孫がいる奴もいたし、そんな子供に恋愛感情を持てるのかと言うと正直無い。


 「まぁ! 婚約を受けてくれるのね!」


 「宜しゅう御座いましたな王妃様。きっと妹君もお喜びになられる事でしょう。早速婚約発表の準備をしませんといけませんな」


 あ、あれ? ちゃんと聞いてた? 何であの返答でそこまで喜ぶの?


 ってかあんたも何言っちゃってくれてんの!? しないよ、する気無いよ俺。


 兄様まで何『うちの家計に王族の血が加わるのか』なんて事を言ってるんだよ!


 はたと、空気と化した国王陛下に目を向けると、何やら震えながら口を抑え……ちょっ、まさか今のって!


 「おや、気付かれてしまいましたか。もう少し楽しみたかったのですが」


 ご老人、それは笑えない冗談ですよ。



 そんな遣り取りで場も和んだ頃、治ったらしい国王陛下からのお言葉があった。


 「サリーの事はその方の言い分で良い。あの子自身勘違いをしているしな」


 「勘違い、ですか?」


 「そもそも王家直系の血筋でも無く政治的に影響力も無い娘に政略結婚などある筈も無かろう? その方にはすまんがあの娘を安心させる為に受けてやってくれ。

 どちらにも相手が見つからなんだ時はそうしてもらえると年寄りとしても安心できるのでな。


 さて、もう一つ伝えておかねばなるぬ事がある。……今日この場を持ってレイグラート侯爵家嫡男、ウィレス・レイグラートを侯爵に任ずる。祖父の後を継ぎ領地を盛り立てて行くがよい」


 えっ、何か兄様の事をついでみたいに軽く言ったぞ? いいのかそれで。


 「国内報告など、つまらん書類が多い中で面白い報告が二件上がって来た時は楽しめたぞ。しかも、恩人でもあるバーデンセンの血筋なのだからな。


 一件は滅亡寸前の領地の継承願い、しかもまだ成人前と来た。この国の領土とはいえ領地を任せた手前ワシがとやかく言うのは色々と問題が起こるので落ちぶれると解っていても見ているしかなかったが、後の調査報告では色々と工夫しておるようで安心できそうじゃし。


 もう一件は十才にも満たない子供が誘拐犯を撃退してサリーを助けたというではないか。そのサリーから大会に出して欲しいとお願いされた時は耳を疑ったが、それがどうだ優勝とは。

 それも十六年前の大会を思い出させる様な凄まじい勝ち方であった。今日の事もまた伝説のように語り継がれる日が来るじゃろうな。


 ワシの孫とも年が近いのに立派な事じゃ。本来なら孫にも合わせたい所だったのじゃが、ちと野暮用でおらんのだ。本当にあやつは運が無いの。

 息子といい孫といい、ワシが引退した後が不安じゃからお主達が支えてくれな」


 そういう”お墨付き”みたいな台詞を軽く言わないで欲しいんだけど……。


 そして国王陛下達は言うだけ言うと忙しいからと帰って行った。


 後に残された俺達は暫く呆然とソファーに座っていた。




 ――所で俺、有耶無耶の内に公爵令嬢と婚約してない?






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