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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
22/39

09 苦戦しましたよ




 それは静かな始まりだった。相手は試合場の中心に陣取ると、そこから俺の様子を伺うように動かない。


 待ちの体勢で向かえるは”タンク”と呼ばれる盾兵で、今も体をタワーシールドの陰に隠し、槍を構えているだけで仕掛けて来ない。


 同じ”待ち”である柔剣術とは相性が良くない。と云うより何も起きない。


 開始直後は様子見で二~三度打ち合ったがそれだけだ。


 相手の欠点は分かっている。あの高さ一メートルはあるだろう大盾は男を収める幅があり、その体も全身鉄の鎧を着ているのだ、機動性はかなり悪いだろう。


 槍を受け流し懐に飛び込みたいのだが、それが出来無い理由の一つがあの槍だ。


 方天戟を思わせる槍は先端脇に突出した刃が付いており、迂闊に槍をかわして飛び込むと、槍の引き戻しで背中を切られてしまう。


 一度試しに飛び込んたが、思いのほか戻りが速く、その対応の速さが伺える。


 熟練を思わせる動きには感心するしかない。が、感心ばかりもしていられない。なにせ今日一日で七回試合をして優勝を決めるのだ、恐らく時間制限があるだろうし、判定になったらどうなるか分からない。


 だからと言って焦るわけにはいかない。そう思うのだが、敢えてその考えに乗る事にした。


 牽制する様に槍の間合いで何度も打ち合いタイミングを計って槍を払うと相手に向かって駆け出す。


 【焦って前に飛び出した】そう思わせる動きを読んでいたかの様に槍が引き戻されるが、――振り返りざまにゴルフのスイングの様に剣を振り抜いて、槍と脇の刃の繋ぎ目を狙った。


 槍から手が離れる事はなかったが、槍の動きは止められた。俺は槍を片手で掴むとそのまま押すようにして剣を構えて突き進む。


 掴んでしまえば背中を気にする事は無い。だが、相手はあっさりと槍を手放して盾の裏側に収めてあった中型剣(ミドルソード)を抜いて応戦しようとする。



 一合目、俺の突きがいなされて外側に反れる。


 二合目、俺の剣を払った剣が軌道を変えて斜め下から上がってくる。咄嗟に片手を離し、懐から短剣を取り出して剣を払いつつ体を捻って避けるが体勢が崩れる。


 三合目、急いで長剣を引き戻すが、相手の突きの方が早い。慌てて短剣を投げ、それを盾で弾かせる事で一瞬だが時間を稼いだ。


 四合目、相手の武器を持つ手を狙って剣を振り下ろすが、スルリと滑るように剣によって流される。……こいつ、同じ柔剣流か!


 五合目、相手が胴を薙で来るのを剣筋と同じ方向へ飛んで威力を殺しながら体を左腕で庇う。折れてはいないが、しばらくは痺れて上手く動かないだろう。だがこれでいい。


 六合目、勝ちを確信したのだろう、先程飛んでかわす事で出来た距離を埋める様に盾から体を出して追撃の突きを放つ。――ここだっ!


 七合目、突き出される剣をいなすが、ただ逸らすだけの動作では無い。男は何かに引っ張られたかの様に勢い良く前に倒れ込み、その喉元、鎧の繋ぎ目手間で剣の切っ先を止めた。


 何が起きたか分からずに静まり返る会場、審判もまた理解が追い付かずに呆然としている。数瞬後、沸きあがる歓声に釣られるように勝者の名前が告げられた。


 最後の一手、あれは柔剣術と合気道の併合技だ。合気道は何も掴んで投げるだけじゃ無い、相手の力と流れを利用して崩し、倒す技だ。ならば重ねた互いの剣でも出来る筈と練習した結果がこの技だ。


 俺は剣を納めると一礼をして会場から降りる。


 先ずは一勝。だが左腕の負傷はやっかいだな。次戦では怪我で出来た隙を狙われるだろうし技への警戒もしてくるだろう。


 次戦の相手である第一試合の勝者はアレクの取り巻きが用意した騎士だ。それなりに強い感じだが、さっきの騎士の方が強い様に思う。


 その後、観戦した試合結果だが、第三試合は急な体調不良で片方が辞退。取り巻きの所の騎士が不戦勝となった。


 第四試合もまたアレクの騎士と取り巻きの騎士によるヤラセ試合によってアレクの騎士が勝ち上がり、結果として次の試合も同じ様な試合運びで勝ち上がる事が楽に予想される。


 何故こんなヤラセ半分な大会で盛り上がるのか不思議ではあるが、内情を知らないと、こんなもんだろうか?


 あっさりと二試合が終わり、あまり休めないまま準決勝の始まりが告げられる。


 俺は会場脇の長椅子から立ち上がると、片手で振るには少し重い長剣をに手を掛ける。……こんな事なら中型剣(ミドルソード)も用意しておけばよかったな。


 すると、先程の対戦相手の男が一振りの剣を前に出した。


 「あれは真剣勝負だった。だから謝りはし無いが、その剣では重過ぎだろう」


 そう言って彼が試合で使っていた中型剣(ミドルソード)を手渡す。


 俺が受け取ったのを見て『勝てよ。それと、その剣は返さなくていい』男は立ち去りながらそう言った。


 念の為に剣を調べるが何の細工もしてなかった。残り二試合の相手が相手だから慎重になるが、あの男を疑ったのは悪かったな。……この借りは優勝する事で返すとしよう。


 さて。気を取り直すと闘技場に上がり一礼。剣を構えて開始を待つ。



 ――ガキィィィーーーン!!


 先程の戦いとはうって変わって開始直後から連打で攻め立てられる。神剣流だろう剣筋は速く、受けるのに手一杯で流すまでには至らない。しかも微妙にタイミングをズラしているあたり柔剣流への対策も感じられる。


 初戦で見せすぎたのは不味かったな。それでも、剛剣流なら片手では止められずに終わっていただろうし、何より昨日一昨日と見てきた剣筋だ、初見で無い分マシだろう。


 意識こそしていなかったが口元が緩む。それを見て馬鹿にされたと思ったのか、剣撃に力が籠もる。そしてそれは剣筋を鈍らせた。


 ……速さにも慣れジワジワと押していく。やっぱり初戦の男の方が強かったな。


 だが油断はならない。何処かの偉い人は言っていた『試合にラッキーはない! 結果的に偶然当たった攻撃にせよ、それは練習で何百何千と振った剣だ。その剣は生きているのだ』と。


 だから俺は最後まで気は抜かない、剣筋を冷静に見て対応する。


 すると相手は、――ッチ! っと舌打ちをして後ろに下がり、腰に差してあった予備の剣を抜くと二刀で再び斬り掛かって来る。


 単純に手数が二倍になっただけではない。その熟れた動きからそれが苦し紛れでは無く、こちらが本来のスタイルな事が解る。


 手の内を隠していた訳か、味な真似をするじゃないか。今度は逆に押し返され始めると、緩んでいた緊張感が戻り、集中力が上がる。


 速さに目は慣れていたが対応はしきれない。何とか剣を絡めて倒そうと試みるも剣の戻りも速く思い通りにはさせてくれそうにない。


 ジリ貧ではあるがまだ勝ちの目が(つい)えた訳じゃない。追い詰められていくが、ここが正念場だと堪える。


 完全な回避は望まない、無駄な動きを減らす事を意識して掠らせる様にかわしていく。


 体に剣が当たり始めたと勘違いしたのだろう、相手は自然と力が入りスパートをかけてくる。


 増した剣速と剣撃に更に当りが深くなるがそれでも耐えて機会を伺う。


 すると、突然剣撃が止まり、顎を挙げて大きく息を吸った。


 ――ここだ! 激しい連打によるスタミナと酸素の減少は限界を向けえて相手を止めた。そしてそれこそが耐えてきた理由だ。


 剣を突き出して胸元を狙うが体を捻って剣で受けようとする。そこにタイミングを合わせて相手を倒す。


 受身を取らずに倒れながら剣を振ってくるが、俺の方が早い。倒れた時には剣を突き付けていたが、相手は剣を止めずにそのまま俺の脚を打つ。


 倒れた衝撃で顔を顰めるもその口元が緩んでいたのを見逃さなかった。


 ……こいつ、負けると分かった瞬間にわざと足を狙って剣で打ってきやがった。左腕に次いで右足も負傷した、これで決勝はかなり不利になるだろう。


 最後の最後に捨て身で仕掛けられるとは。……くそう、やってくれるな。


 歓声を受ける中、会場を降りると長椅子に戻る。大会中の治療は許されていないので少しでも休みたかった。


 だが、それをさせる程相手も甘くない。試合が開始すると数回の打ち合いで勝負は決まり、そのまま決勝戦となる。


 右足を引き摺って再び会場に上がる。満身創痍ではあったがそれ程悲観していないのはきっと、霜の巨人(フロストジャイアント)の時ほど絶望的ではないからだろうな。あの時に比べればたかが人間一人、何とかなるだろう。


 この二試合はどちらの騎士も腕は確かだった。アレク達は卑怯では在ったが試合そのものは普通に戦っていた。だから俺も能力は使わずに戦ってきた。


 もし決勝もこうなら後悔しないよう正々堂々と戦いたい。例えそれで負けたとしても……。


 悟りにも似た平静さで空を見上げると、小鳥が頭上を二度旋回して飛んでいく。視界を観戦者に向けると、ウィレス兄様もマークも席は別々だが同じ様に心配そうな顔をしている中、サリーだけが期待で目を輝かせていた。


 それを見ると何故か笑いがこみ上げてくる。『俺は何故【負けても】なんて事を考えたんだろう? あれだけ期待してくれる人がいるんだ、勝たないでどうする』自分に言い聞かせる様に呟き気合を入れ直すが、そこに余計な力は入ら無い。


 片手で剣を構えて呼吸を整えると、開始の合図を待つ。




 ――そして、決勝戦が始まった。






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