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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
21/39

08 始まりますよ




 参加を決めた俺はそのまま練習する事にした。練習相手もサリーに言って用意をしてもらう。


 今は後宮の裏庭から更に奥、木々によって庭から隠される様に作られた訓練所で模擬戦をしている。


 刃を潰した剣ではあるが当たれば痛いので油断は出来無い。サリーが用意してくれた相手は神剣流を学んだ衛士だそうだ。


 神剣流は剣速を主とした先手必勝の剣技でこの世界で一番広まっていると言える剣技だ。


 スランから教わった俺の剣技は柔剣流。相手の剣を受け流したりギリギリで交わして隙を突く”後の先”を主とする剣技だ。


 他にも力で全てを押し切る剛剣流や。地形やその場に有る物を利用する技剣流なんかもあるが、スランに言わせれば技剣流は剣術とは思えないほどトリッキーなんだそうだ。


 さしずめ他の流派をブルースリーとするなら技剣流はジャッキーと言った感じになるのか。そう考えると技剣流も習いたくなってくるのは世代的な憧れだろうか。


 だが、この衛士も中型剣(ミドルソード)の二刀流でわりとトリッキーな動きもしてくる。


 今は能力無しの剣術のみで打ち合っているが、子供は弱いな。解っていたが打ち込まれる度に体がぶれるし、受け流そうにも剣圧に押されて上手く流せない。


 焦らないよう意識をすると余計な力が入り更に軸がぶれて体が流れてしまう。


 魔物と違い対人がここまで難しいとは思わなかった。スランもそうだったが衛士も手加減してくれている。それでこの有様というのは能力に頼りきっていた部分が露呈したとしかいいようが無い。


 ……情けないな。そう呟きながら剣を構え直し、今日何度目かの打ち合いを再開する。


 練習も終わり、汗を拭いていると衛士が話しかけてきた。


 「先程情けないと呟いていましたがそれは違います。貴方の年齢でここまで出来るなら誇っても良いほどです。

 それに……、何と言うか変な感じですね。柔剣流を学んだとお聞きしましたが、以前手合わせした人は何かこう、スルッっと剣が滑る様な感覚がありましたが貴方の剣はヌルッっと纏わり付くような感じがしました」


 それは褒めているのか、励ましているのか。それとも、その違いから何かを見つけろとでも言いたいのだろうか?


 ん~、眉間に皺を寄せて考え込む。スランにはそんな事言われなかったが、何が違うんだ? 魔物と戦っているうちに基本を忘れたとかだったら嫌だな。


 「良くわかりませんが何かこう、受け流されると剣ごと体を持って行かれる様な体制を崩されるような……。気を抜くと転びそうで柔剣流とは少し違う強さみたいなものを受けていて感じたんですよ」


 悩んでいる俺に身振り手振りを加えて何かを伝えようとしているが彼自身、伝えたい事が何か解らない感じもする。


 体制を崩す、転ぶ……もう一度剣を手にして素振りをする。基本基本、そういや前世の剣術はすり足が基本だったよな? こっちじゃベタ足が基本だけど、その差に何かあるのかもな。


 剣道を習った事は無かったが、何となく程度の知識を使って素振りをしてみる。ヒュッ、剣速が変わったのか風切り音がさっきまでと違う。


 摺り足は合気道で散々練習してきた、それこそこの世界に転生してからも欠かした事は無い。それにスランから教わった基本を足してみたのが正解だったのかもしれない、何らかの手応えを感じ始める。


 何度か素振りをしていると『もう少し頑張りますか?』そう言って衛士は剣を構えて対峙する。


 「お願いします」


 結構遅い時間になっていたが、もうちょっとで何かを掴めそうな感じがした俺はその言葉に甘える事にした。


 先程より速度を増した衛士の剣先が体をかすめる。俺は摺り足を意識しながらも基本通りに剣を捌くが、早すぎる! 必死で対応するが切り傷が増えていく。


 ここまでか、集中が切れた瞬間を狙ったかの様に突きが飛んできた。


 マズイ! 咄嗟に剣で受け流 ――ザクッ!!


 ……そこには”地面に”突き刺さった剣と体勢を崩した衛士がいた。


 咄嗟だったので自分でも何が何だか解らない。剣と剣が触れ、そして受け流しながら……どうしたっけ?


 衛士にお願いして模擬戦ではなく剣捌きの練習に切り替えてもらう。


 頭の中にさっきの映像が鮮明に浮かんでくる。それをなぞる様に剣を合わせる。


 こうか? いや、もう少しこう……。あの時はもっと、こうだったか?


 何度も何度も振り直す。足の動きは、手の動きは、重心は何処にあった、力加減は、体捌きは……


 一つ一つを思い出しながらそれを重ねて一つの動作になる様にイメージする。そして無駄な動きを削るようにしていく。


 そして、それが咄嗟の偶然ではなく意識して出来るようになったのは翌日になってからの事だ。……明日の大会が楽しみだな。


 午前中にコツを掴めたので疲れを残さない為に午後の練習は軽く流すだけで終わらせ、その場に座って一人で休む。


 何も考えずに空を眺めていると、スズメに似た小鳥が飛んで来て肩に止まる。


 前世よりこっちの世界の方が生き物の警戒心が強い、だから普通に考えてこれは在り得ない。視線を小鳥に向けると、以前にも見た気がする知性の有る目を向けられた。


 「よう、爺さん。今度は小鳥かい? もしかして大会の見学か?」


 「明日の下見に来た所に見知った顔があったのでな、つい寄らせてもらったよ」


 カマを掛けてみたが、案の定そうだった。


 「俺も参加するんで応援よろしくな」


 そう告げると『伝説の再来か、それは面白くなりそうじゃの』とか言う、……伝説って何?


 首を傾げる俺に教えてくれたのは”伝説”と言う程古い話でもなかった。十数年前に一人の貴族の子供が参加、そして優勝したそうだ。その圧倒的な強さから語り継がれる様になったそうだ。


 この時期、何処の酒場へ行ってもその話題を耳にするほど有名らしい。


 ちなみにその貴族の子供が二刀流だった事から中型剣(ミドルソード)の二刀が流行り、今でも武器屋の売れ筋商品なんだとか。……そういやあの衛士も二刀流だったな。


 『ワシも明日は応援してるから頑張るのじゃぞ』そう言って飛び立つと、裏庭の方からサリーとマークがやって来た。


 サリーはロバに乗り、マークが手綱を持って横を歩いている姿は紛れも無く姫と従者といった感じだが、ロバだと格好はつかない。


 ……まぁ、ここで突っ込んでも無駄に疲れるだけなので何も言うまい。


 「聞いたわよ、不思議な剣技を体得したそうね、明日が楽しみだわ」


 そしてこの屋敷に来て初めてマークに会った。隣街に注文した品を取りに行ったと聞いていたが、御用商人と言うよりは、お抱えの丁稚(パシリ)って感じだな。


 二人に、『期待してな!』と、サムズアップして二人に近付き、そのまま練習場を後にした。



 翌日、彼女の言った通り参加者は少なかった。参加者は最初七人だったが、人数合わせでもう一人用意され、結果八人でのトーナメント戦となった。


 その内の四人がアレクと取り巻きの用意した騎士で、明らかに八百長試合で優勝する気が見て取れる。


 ……もしかしたらこの少なさも何かしらの工作の結果なのかもしれないな。疑い始めればキリが無いが、そう思わずに居られないのは観戦する貴族の内の数人が明らかに不機嫌な顔をアレクに向けているからだ。


 そして一回戦の第二試合、『エルドニア・レイグラート!』俺の名が呼ばれる。そう、この大会に参加するにあたってサリーに頼んだ事の”一つ目が”これだ。


 ただ公爵推薦で戦っても意味は無い。レイグラート姓を名乗る事で後の経済効果を生ませる為だ。もちろんアレク達への当て付けが過分に含まれてもいる。


 念のために言っておくと、大会に参加する際に騎士が領主の貴族姓を名乗る事は良く有るそうなので安心して使わせてもらう事にしている。


 まぁ、騎士が領主の姓を名乗って負けたら後が怖いけどな。


 一回戦目、相手はアレク達の騎士では無かったが、主催者である王国が用意した相手なので人数合わせといっても油断は出来無い。って言うかあの四人は見事な程に別れ、アレクの所の騎士が無難に勝ち上がれる様に組まれている。


 ……ここまでくると感心すら覚えてくるな。


 さて、ここでお浚いするとこの大会、魔法は禁止で武器か素手による打撃、又は投げ等による攻撃で決着を決める。ただし、魔法武器などは例外として使用の許可がされている。


 また、観客の安全を考え試合会場周辺に結界を張っている魔術師数人が、試合中に魔法を使ったかどうか目を光らせている。


 なので武器防具は個人で用意する事になっていて、武器の刃を潰す以外の規定は無い。


 大勢の観客が見守る中、闘技場に立って相手と対峙する。


 相手も国王様直々に指名されたのだろう、十分なやる気が見て取れる。


 俺もまた剣を構えて今か今かと開始の合図を待つ。


 審判らしい人物が国王様の方を向いて何かを確認すると、上げた右手を勢い良く振り下ろして試合開始を告げた。




 ――さぁ、楽しい大会の始まりですよ。






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