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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
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02 そりゃ疑われますよ




 私の名前はマリア、幼い頃に家を失った私と母は放浪の旅の途中で先代の男爵様に拾われてバーデンセン家に仕える侍女になりました。


 その母は旅の疲れから体調を崩してしまい、先代様の手厚い看護も虚しく他界しましたが先代様への大恩と感謝の気持を忘れる事はありません。


 現在の男爵様や奥様にも大変良くして頂き、何の不満も無く務めさせていただいています。


 男爵様は奥様一筋で妾や愛人を作る事無く政務に励まれる立派な方です。


 奥様も旦那様を支えるように村人に心を砕き分け隔て無く接しておられます。


 長男のウィレス坊ちゃんはヤンチャ過ぎるくらい元気です。



 ただ、最近の私には一つだけ不安の種があります。それは他でもない次男のエルドニア坊ちゃんです。


 思えば初めて立った日、私は見ました。一才の赤子が苦笑していたのです、おかしいですよね? 一才ですよ!


 そして私を見る目には明らかに知性がありました、イヤラシさはありませんでしたが何だか査定されているような感じがしました。


 生まれて一年間は普通の赤ん坊だったのに急に不自然さを感じたのです、それからも赤子らしくない行動が見て取れました。


 突然お漏らしをしなくなり自分でトイレに行くのです。赤ん坊らしい仕草もするけれど何処かわざとらしく見えて仕方がありません。


 こないだなど本を読んでいました、ありえないですよね?


 旦那様や奥様に相談しようと思った事もありましたが優しい御二人を不安にさせるのは申し訳ないと思い諦めました。


 そうこうしてるうちに数年たち、エルドニア坊ちゃんは四才になっていました。


 最近では私が向ける疑惑の目を薄々解っているようで私の視線に気付くと溜息を吐きながら立ち去るのです。


 これはもう何かが取り付いてるとしか思えません。


 私は給金を使い色々な除霊グッズを買うと夜中に坊ちゃんの部屋にこっそり試しに行くのですが何の効果もありませんでした。やはり司祭様か高名な魔術師に相談するしか無いのでしょうか……


 そう思っていると坊ちゃんは目を開きこちらを見ていました。どうやら寝たフリをしていた様です、複雑な顔をして溜息を吐くともう一度目を瞑りました。


 私は怖くなり部屋を出ましたがその日は眠る事が出来ませんでした。


 それから数日間は怯えるように暮らしていましたが何事も無く時間は過ぎて行きました。


 そして安心しきったある日、それは急に起こりました……


 坊ちゃんは台所でコップに水を汲むと自室に持って行くのが見えました。床には点々と水滴が落ちていたので拭き取ります。こんな所はまだまだ子供ですね


 そのまま水滴を追って拭いていると何時の間にか坊ちゃんの部屋に入っている自分がいます、誘導された事に気付き顔を上げるとそこには明らかに普段と違う雰囲気の坊ちゃんが座ってこちらを見ていました。



 私は恐怖に身を強ばらせて動く事が出来なくなっていると、その様子を見て坊ちゃんは口を開きました――



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 マリアの態度がおかしいのは解っていた、ただ対処の仕方が解らない。説明しても理解はされないだろう。


 何度思案しても答えは出ないまま時間だけが過ぎていく。ただ、家族に報告される事もなかった。まぁ説明の仕様も無いのだろうけど……


 俺としてもこれ以上不安のタネを増やさない為に家族の前では可能な限り子供らしく振舞った。


 もっともそれが彼女にはらしくないと気味悪がられている様でもあったがそこは諦めよう。


 開き直って彼女の前ではなるべく普通にしていた、どうにもならないと投遣りになっていた事が災いしたのだ。


 夜中に若木の枝を聖水で濡らし、それを振り掛けられた時にはどう見られていたのか理解して悲しくなった。


 流石に殺されはしないだろう。何せ少ない給金の中から色々買って俺に試しているのだ、家の為に身銭を切っている事からも善意なのが伺える。


 俺は意を決して彼女と会話する事にした。


 昼間、父様は仕事に、母様は裏庭の菜園に、兄様は学校に、去年産まれた双子の弟妹は隣の部屋で寝ている。話をするタイミングはバッチリだ。


 普通に呼ぶと警戒されると思い小細工をしたら固まられた、失敗したかなぁ。


 ――よし! 開き直ろう。


 元々どう説明するかも決まっていなかったし腹を括るには丁度いい。俺は転生した部分を伏せて話はじめる。



 「子供がこんな感じなのは怖いし気持ち悪いとは思うよ、だけどしょうがないだろう? 気付いたらこうなってたんだから」


 率直な意見だ、俺だって精神的に成長しきった子供なんて気味悪と思う


 「別に何かに取り付かれた訳でもないし、何かと入れ替わった訳でもない。俺は生まれた時から俺のままだよ、ただ周りを理解してしまっただけなんだ」


 ここで一拍置いて彼女の反応を見る。戸惑ってはいるようだが理解しようと努力をしているみたいだ。


 「疑わしいのは解るし全部が全部信じては貰えないかもしれないけど、育ててくれた両親やマリアには感謝してるし兄弟達も大事な家族だ。その家族を不幸な目に合わせる様な事をするつもりが無い事だけでも解ってほしい」


 彼女はこちらを見ていた。考えるのを止め、話している俺自身を見て判断しようとしている様に感じる。


 じっと俺の目を見ている彼女を見つめ返して答えを待つ。


 ――少し長い沈黙のあと、彼女は短く息を吐いて話しはじめる。


 「坊ちゃんの言い分は全部ではありませんが理解しました。しかし、全てを信用出来るほど納得は出来ていません」


 まぁ、そうだろうな当然と言えば当然だが残念ながら諦めるしかないか……


 説得も失敗かと思い肩を落とすと彼女は意を決したような強い眼差しで俺を見つめ話を続けた。


 「ただ、この数年間に何事も無かったのは事実です、家族を大切にしているのも感じ取れます。


 そこで提案ですがお屋敷の方々の為にも坊ちゃんとは良好的な関係を築きたいと思います。


 但し、私は他のご家族の為に今後も坊ちゃんを疑い続ける事も納得して下さい。


 それでよろしいでしょうか?」


 つまり疑いはするものの表面上は仲良くと云う事か。うん、良いんじゃない?

一歩前進だ、今後の関係は俺次第ならそう問題はないだろう。


 「ありがとう、そう言って貰えただけでも嬉しいよ」


 そう言って立ち上がり手を伸ばして握手を求めると、ふふん、と軽く笑いながら馴れ合いはしません! なんて言われた。


 彼女も肩の荷が降りたといった感じだった。



 その日からマリアとの微妙な関係が始まった。昼間や深夜など人の居ない時間に頻繁に会うようになった。


 目的は其々、俺は信用を勝ち取るために、マリアは話の真偽を確かめる為に。


 昼間は二人の間での今後の方針や妥協案、家族の為に何が出来るかなどだ。


 夜は最初こそ真偽を確かめる為だとか言って色々と質問攻めだったが最近は夜になるとマリアの酒と愚痴に付き合わされている。


 俺は今夜もミルクを飲みながらマリアの愚痴に適当な相槌を打っていた


 「エルは~、ど~して解かって貰えないんですかぁ? ウィレス様もぉ気になるお年頃ですよぉ、それは解ってますが~庇うのは違うと思うんですぅ」


 今回の話題は昼間にマリアが洗濯物を干してる所にウィレス兄様が手伝うと言いながらマリアの下着を物色した件だ。 ……何やってんだか。


 俺がウィレス兄様を庇った事に不満があるらしい。マリアの言い分では俺が彼女に信用される為には常にマリアの味方に付けと云う事だ。


 なるほど、酔っ払いらしい実に不条理な理屈だな。彼女の愚痴に苦笑しながらも関係改善に顔が綻んでしまう。


 最初こそぎこちなかったが酒の席では坊ちゃんからエルと呼ばれるようになり、最近では俺と二人の時なら昼間でも気軽に呼び捨てにしてくる様になった。


 俺としても気兼ね無く話せる相手が居るというのはとても心地良い


 それにしても最近のウィレス兄様はやんちゃが過ぎる、木の枝を木刀の様に振り回し、街の子供数人を引き連れた姿はガキ大将そのものだ。


 暴力や破壊活動が無いだけマシだが、それは両親に怒られるのが怖いからだ。


 そして最近増えてきたのがマリアへのセクハラだ、年齢的に興味が出てくる頃なんだろう、定番のスカート捲りとかされてるらしい。


 可愛いものじゃないかと言ったのが間違いだったのか延々愚痴が続いている……



 しかし、正直マリアが甘える様な口調で絡んでくる姿にはグッと来るものがあるんだよなぁ……。若干の照れくささと気恥ずかしさに身をよじりたくなる。


 マリアは俺を何かの拍子に理解力だけ覚醒した子供だと思っているようで性方面でのガードが甘く、油断してると抱きついて頭を撫ででくるのだ


 見た目は四才児でも中身は五十過ぎのオッサンにこれは色々と問題がある。


 晩酌は毎晩俺の部屋でしてるので逃げ場なんて便所だけだろう。しかし酔っぱらい相手に便所に立て篭るのは危険極まり無い。


 部屋の外で騒がれた上に家族にバレて根掘り葉掘り聞かれるのは正直避けたいので結局俺には我慢という選択肢しかないのだ。


 こうして今夜も俺はミルクを飲みながら甘くて苦しい時間が過ぎるのを大人しく待っていた。




 ――まぁ、こういう時の時間は長く感じるものなんだけどな。






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