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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
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03 到着しましたよ




 街を出て六日目の夕方、目的の街まで半分を越えた所で街道から結構離れた場所に流れる川沿いでキャンプを張る事にした。


 「ここから川が見えたんですか? 二キロは離れてるんですよ!?」


 久々に体を洗いたかった俺は川を見つけるとそう提案したが、警戒の為に視力を上げていた事を忘れてそう言ってしまった。


 今更言った事は覆せない、言い淀んだ俺を見たマークは


 「いいですよ、それも”家宝”って事にしておきますよ? それよりご飯の支度をお願いしますね~」


 そう言って馬車から食材を取り出した。


 ……こないだの街での一件以来、俺が料理番を任されている。マークに言わせれば同じ材料を使うなら美味しい方が良いだろうと、言外に家宝(うそ)を追求しない代わりだというのが聞いて取れる。


 まぁ、深入りしないのがお互いの為だと分かっていての事なんだろうな。川まで歩きローブから鍋を出すと、川の水をくん――


 バシャンッ!!!


 川の中から突然巨大なカニが出現した。甲羅だけで直径一メートルくらいだろうか色と形状は沢蟹をそのまま大きくした感じだが、やたらと好戦的に見える。


 「やっぱり出ましたか、今夜はカニ鍋ですね~」


 どうやらマークは知っていた様子で慌てる事も無くテントの設営を続けている。


 

 ……カニをお湯に潜らせしゃぶしゃぶしながら『知ってたら言えよ』とツッコミを入れる。


 「この川のカニは結構有名なので知ってるのかと思ってましたよ~」


 お湯に潜らせたカニの足をカニ味噌で絡めてハフハフと口に入れながら返す。嘘だ、分かってて黙ってただろう。


 まぁ、勝てると知った上での事だろうが危険が無い訳じゃない。その辺り緩いというか若いというか……。


 「知らないならもう一つ、あのカニは縄張り意識が非常に強いので水中だろうが地上だろうが構わず攻撃してくるんで、あの一匹を倒したならこの辺に魔物はもう居ないので安心ですよ」


 つまり今日は安心して寝れると言いたいのだろう。だから街道から離れた場所でキャンプを張りたいと言った時に反対しなかったんだな。


 カニの味噌汁を啜りながら周囲を警戒していた俺としては嬉しい事だ。あんなのがまだ居たら川で水浴びなんて出来無いしな。


 最後のカニ刺しを食べ、今晩のカニづくしは終了。残りの部位といっても大部分が残っているのでローブに保存する。


 代わりに”お風呂セット”を取り出して川に向かう。後ろから『好きだね~』と聞こえたが無視しとこう。


 サッパリした俺はテントでストレッチをして体を解し始める。


 「いつも思うけど、寝るときも香水着けるんだな。キツくないから嫌じゃないけど、ボクしか居ないのにお洒落しても意味無くな~い?」


 香水なんて着けた覚えは無いけど俺って臭いか? 体の匂いを嗅いでみる。


 ……あ、もしかしてアレか!


 俺はもう一度お風呂セットを取り出すとマークを川辺まで連れて行く。


 驚いて抵抗していたマークだが、無駄と分かったのか途中から大人しくなった。


 タオルを手渡し顔を覆うように指示すると頭を水面に近付けさせて髪を濡らし、先ずはシャンプーで髪を洗い、『この髪質ならこっちだな』と、リンスをつける。


 リンスも洗い流して髪を拭くと、花の匂いが仄かに香る。


 髪が乾くと、長くも短くも無いマークの髪が、普段より若干のボリュームを持ってサラサラと風になびく。


 「今使ったのが【ふんわりサラサラのフローラル】で、普段俺が使ってるのが【しっとりツヤツヤのシトラスミント】だ」 


 マークは自分の髪を触って感心している。そして――


 「これって商売になりますよ!」


 それは家で使ってた時に父様にも言われたよ、そして同じ言葉を返そう。


 「うん、それ無理」


 そう、無理なんだよマーク。時間と労力に対して生産量が少な過ぎるんだよ。需要に追い付くほど生産するには大勢の人手が必要になり、結果コストがかかり過ぎて適正価格を越えるんだ。


 父様と何度も話を煮詰めた結果、”趣味で自家生産して時々使う”これが限界だと結論付いた。


 まぁ、この世界にグリセリンが売ってれば話も変わるんだけど。そこから手作りするとなると厳しい。


 しかも前世と同じ材料と分量で作っても出来上がった量は何故か少ない。見た目が同じでも成分に違いがあるのだろう。……やっぱ無理だよな。


 ちなみに前世で頭の薄くなり始めた俺は色々な整髪料を試し、ネットで作れる事を知ってからは趣味で作るようになった。ただし、二年としない内に面倒になって止めたが。


 そんな訳で今ある在庫が尽きるのは困るのでこれも売れない。これも無くなったら何処かに長期滞在して在庫作りに励むかもな。



 そんなこんなで更に五日の行程を経て目的の街に着いた。これがRPGなら門番に話し掛けると街の名前が聞けるんだが……。


 俺とマークはギルドカードを見せると『通ってよし』としか言われなかった。ギルドカードといってもマークのは商人ギルドのカードなので色や形、記載されている情報は微妙に違ったりもする。


 取り敢えず商人ギルドへ向かうとマークは荷物を職員に渡す。どうやらギルドからの以来で何かを買出しに行ってたらしい。てっきり行商してるものと思ってたがそうでもなかったのか。


 マークは手続きを待つ間、依頼の貼ってあるボードを眺めているので俺も見てみた。


 買い付け依頼の中に混じって収集依頼なんかもあり、その中には冒険者ギルドに出した方がいいんじゃないかと思えるようなのまであった。


 面白い所では”護衛します”なんて冒険者からの逆依頼や、『有るだけ全部買い取ります』なんて無制限買取まである。


 暫くして手続きを終えたマークが声を掛けてきたので今度は冒険者ギルドへ向かい、俺の方の依頼終了を伝える。


 「おしいですね、もう少しでランクが上がりそうですよ」


 ニッコリと笑う受付嬢はウサ耳を揺らした獣人族だ。産まれ故郷の街では珍しかったが隣街から先に行くにつれて獣人族などの異種族が増え始めた。


 ただ、相変わらずエルフを見かけないのは街住まいを嫌うからだろうな。森で狩猟生活しながら多種族が入らないように監視をしてると思いきや全然違う実態を目撃した事がある。


 魔法に長けた彼らは時期に関係無く魔法で木の実を実らせる事が出来、それ故に個々が実の生る木の下で食っちゃ寝して怠惰に暮らしている。


 アレをみた時”アリとキリギリス”のギリギリスを思い浮かべ、そして主食が木の実なので太らない事に羨ましさも覚えた。生き方を羨ましいとは思わんが。


 さて、マークとは此処でお別れだ。名残惜しいかと聞かれれば微妙ではあるけども別れの度に神妙になるつもりも無いのでここはアッサリ別れよう。


 俺はまた風呂付きの宿を探すが、マークは安宿を探すといって手を振った。


 さて、規模としては普通の街だし名所らしい場所も無い(マーク情報)らしいので観光と骨休めで二泊もすれば十分かな?


 宿に着いた俺はそう思って二日分前金で払って飯屋を探しに中心部へ向かう。


 その途中、表通りから外れた所に鍛冶屋があった。……そういえばヘタなりに自分で手入れをしていただけだから、ここで本職に頼んでみた方がいいかもな。


 俺は長く共にしてくたびれた長剣を撫でるように手を掛けて鍛冶屋に向かう。


 中に入ると、鉄の匂いと熱気に近い室温に軽く汗ばむ。おそらく奥に工房があるのだろう、途中で少しだけ冷まされた熱気が流れてくる。


 イメージ通りといった感じのドワーフがカウンダー越しに俺を睨む。子供に売る物は無いぞと言いたげな視線を無視して長剣をカウンターに置いて見せる。


 「大分使い込んだんで見てもらいたい」


 この剣をお前がか? とでも言いたそうにジト目になるが剣を見て目の色が変わった。


 「ほう、使い方は荒いが悪くは無いな。それに、素人にまともな手入れなんて期待してねぇが大事にしてるのが伝わる。

 だが、コレはもうダメだな、芯が悲鳴を上げてやがる。思い出の品なら磨いて家にでも飾っときな。どうしても使いてぇなら鋳潰して打ち直すしかねぇな。

 俺としては地金として安く買い叩いてやるから新しい剣を薦めるぞ。打ち直しを待つなら一ヶ月以上は掛かるからな」


 買い直しか、半分予想はしてた。……もう半分は『こいつはっ!』とか言って奥から名刀を持ち出して只でくれないかとか甘い考えだったのは黙っておこう。


 取り合えず似た長さの剣を手に取って重さを確認して一本選ぶ。すると粘土の様な物を剣を持つように両手で握らされる。これでグリップの調整をするんだろうな。『明日の午後取りに来い』そういうと店の奥に入って行った。


 どうやら料金は後日剣と引き換えなんだろう。入れ替わるように奥さんらしい人がカウンターに着いた。


 帰り際、『あの人が直ぐに取り掛かるなんて珍しいんだよ』そんな事を言っていた。あれでも若干デレてたようだ。


 鍛冶屋から更に奥まった場所に雑貨屋の看板が出ていたので見に行くと空き家だった。看板くらい下げとけよと思ったら前後の物陰から男二人が現れて挟む様に道を塞がれた。


 子供だから舐められるのか、こっちの世界の常識がこうなのか、こう何回も絡まれると慣れてくるよな。……取り合えずシメとくか?


 「ローブは上物じゃないが綺麗な顔してるな、貴族かも知れねぇからこいつも攫っとくか」


 ……今”も”って言ったよな? シメるのは後回しだな。


 両手を挙げて抵抗の意思の無い事を示して見せ


 「おじさん達人攫いでしょ? 大人しく付いて行くから痛くしないでね」


 「なんだ、物分りが良いじゃなぇか。慣れた様子だが初めてじゃねぇのか?」


 警戒こそ解かなかったものの多少気が緩んだようだな。


 「まぁ何回かね、家は男爵だからそれ程蓄えは無いけどちゃんと身代金と交換するなら後で追う事もし無いよ。今迄もそうしてたしね」


 「そいつは楽でいいや」


 下卑た笑いをしながら、それでも逃がさない様に俺を挟んだまま移動を始めると、複雑に入り組んだ道を歩き進んだ。


 どうやら道を覚えさせない様にわざと遠回りをしたり、似たような道を歩いたりしながら隠れ家らしい空き倉庫へ入ると、見張りらしいもう一人の男が運搬用と思わしき檻の前にいる。




 ――その中には幼女が檻に入れられていた。






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